積水化学工業株式会社では、イノベーションの源泉である「人材」に着目し、従業員一人ひとりが自ら“挑戦”したくなる風土・環境づくりに注力しています。決して容易ではない組織改革の実現に向け、同社はどのようなアプローチを採っているのでしょうか。また、その取り組みを加速させるポイントはどこにあるのでしょうか。

今回は、同社の取締役執行役員であり人事部長を務める村上和也氏と、企業向けに採用支援や教育研修事業を展開する株式会社ジェイック執行役員の谷中拓生氏による対談を通じて、実像に迫ります。(以下敬称略)

※役職・所属等はインタビュー当時のものです。

【対談者プロフィール】


  • 村上 和也氏

    ■村上 和也氏
    積水化学工業株式会社
    取締役 執行役員 人事部長

    1989年積水化学工業株式会社に入社。高機能プラスチックスカンパニー人材開発部長など人事部門を中心に管理部門の業務に携わり、グローバル施策とマネジメントに豊富な経験を有する。この経験を活かし、2020年より人事部長として人事制度改革とダイバーシティ経営推進において力強いリーダーシップを発揮し、組織風土づくりと従業員エンゲージメント向上に取り組む。2021年に取締役就任以降、人事制度改革や健康経営に取り組んでいる。

  • 谷中 拓生氏

    ■谷中 拓生氏
    株式会社ジェイック
    執行役員 Human Growth Division副部長

    立命館大学経済学部卒業後、2006年にジェイックに入社。2015年に営業カレッジ(現:就職カレッジ®)西日本事業部長に就任し、営業戦略を推進。その後、経営企画部にてゼネラルマネージャーを務め、2018年には経営企画本部長として全社戦略を指揮。同年、執行役員、翌年には取締役として経営企画をリードし、同社をIPO。2023年には株式会社Kakedasおよび株式会社キャンパスサポートの監査役にも就任し、複数の企業でガバナンス強化に貢献。2025年より教育事業部(現:HumanGrowthDivision)副部長就任。

積水化学工業 村上様・ジェイック 谷中様

個人のアイデアを形にする制度「C.O.B.U.」“際立つ人材”がイノベーションを生み出す

谷中 御社では「挑戦できる風土づくり」を推進するとともに、イノベーションの源泉となる人材を「際立つ人材」と定義し、スペシャリティ職(S職)の導入など、専門性を高める施策にも注力されています。はじめに、一連の取り組みの背景や狙いについてお聞かせください。
積水化学工業 村上様
村上 当社は従来より、挑戦を奨励する社風であったと認識していますが、2020年に先代社長が就任した際、長期ビジョン「Vision 2030」において「従業員一人ひとりの挑戦で活力あふれるいい会社を目指す」とのメッセージを発信しました。
これを受け、人事制度についても見直しを進め、従来の年功序列の色合いが比較的強い日本型の仕組みから転換し、2022年には管理職を対象に役割型人事制度を導入しました。

この役割型人事制度は、担う役割に応じて報酬を設定する仕組みです。経営幹部から新任管理職までの役割を明確にすることで、特に若手社員が自身のキャリアを具体的かつ主体的に描けるようにすることを狙いとしています。

当社では「際立つ人材」という表現を用いてきました。加工業である当社は、原材料そのものではなく、製品に機能という付加価値をつけて提供しています。そしてその付加価値を生み出す源泉は、際立つ人材にほかならず、従業員一人ひとりに、この際立ちを持ってほしいと考えています。

例えば、高度な専門性を持つ研究者・技術者の評価・処遇を強化する目的でスペシャリティ職を導入しています。この数年は「際立つ人材」が挑戦し、成長していくために、さまざまな人材施策を展開してきました。

谷中 御社は従業員の挑戦を後押しする仕組みとして、社内起業制度「C.O.B.U.アクセラレーター」を導入されています。この制度を作られた背景や内容をお聞かせください。

村上 約3年前に、新規事業創出を担う新事業推進部内にイノベーション推進グループを立ち上げました。「C.O.B.U.(Community Of Brave Unicorns)」は、このグループが開始した取り組みで、名称には「勇気を持って一歩踏み出すコミュニティ」という意味を込めています。

「C.O.B.U.」の具体的な仕組みは、最初に従業員から新規事業のアイデアを募集し、約100件の応募の中から書類審査で有望なテーマを選抜します。通過した約20テーマはステージ1として、約3カ月間の仮説検証フェーズに進みます。その後、ピッチ審査を経て選ばれた5テーマがステージ2の顧客検証へ進み、最終ピッチで1テーマを決定します。選ばれた起案者は所属部署からイノベーション推進グループへ異動し、1年間かけて事業化に取り組みます

「C.O.B.U.」は、優れたアイデアと自身が実行することへの覚悟があれば、誰でも手を挙げて事業創出に挑戦できる仕組みです。加えて、プロセスや結果はすべて社内に公開しており、どのようなテーマに誰が挑戦しているのかをオープンにしています。結果的に、他の従業員にとっても挑戦の具体像が共有され、「自分も挑戦したい」と思えるきっかけになっています。
ジェイック 谷中様
谷中 アイデアの提案者が実際にイノベーション推進グループへ異動する点は、大きな特徴ですね。

村上 新規事業のアイデアは個人に紐づくものです。一方で、イノベーションは最終的に事業化することが最優先であり、必ずしも提案者と実行主体が同一である必要はありません。しかし社内で議論を重ねる中で、挑戦できる機会があるのであれば、手を挙げた本人に最後までやり切ってもらうべきだという考えに至りました。このように、「C.O.B.U.」の活動を通して、事業創出と人材育成を結びつけています。

谷中 御社は「従業員は社会からお預かりした貴重な財産」という人材理念を掲げておられます。こうした考え方が浸透しているからこそ、「C.O.B.U.」のように部署を越えた挑戦が受け入れられているのでしょうか。

村上 「社会からお預かりした財産」という表現は、かつて人事部門の先輩が使い始めた言葉です。当時はやや大げさにも感じましたが、人的資本という考え方が広がる中で、非常に本質を捉えた言葉だと実感しています。従業員一人ひとりの人生に目を向けた時、非常に多くの貴重な時間を会社に預けていただいているとも言えます。

だからこそ、取り組む業務が本人の自己実現にもつながる状態をつくることが重要だと考えています。

挑戦のプロセスを加点評価することで一人ひとりのマインドや行動様式を変える

谷中 単に人事制度を刷新するのとは異なり、組織に風土を根付かせるのは、容易なことではありませんよね。

村上 おっしゃる通りです。人事制度の枠組みを構築するだけであれば、経営側の意思決定である程度は実現できます。一方で、従業員一人ひとりに「挑戦しよう!」と思い、実際に行動をとってもらうことは容易ではなく、時間も要します。しかし従業員の行動様式を変えるために、粘り強くさまざまな機会を活用し、挑戦を奨励し続けてきました。

谷中 行動様式を変えるために、具体的にはどのような取り組みをされたのでしょうか。
積水化学工業 村上様
村上 最初に、「挑戦=全く新しいことをする」だけではない、という点を明確にしました。

取り組み当初は、従業員から「いきなり挑戦しろと言われても難しい」「自分は定常業務が多いので対象外だ」といった声もありましたが、定常業務の工夫や改善で、効率や品質が大きく高まるケースは多くあります。日々の工夫も挑戦だというメッセージを、社長や各事業部のトップから継続的に発信してもらいました。

加えて、挑戦を後押しするために、評価制度も見直しています。業績評価の中に新たに挑戦行動に関する項目を設け、上司との面談で挑戦度合いを確認しています。具体的な評価は、結果の成否ではなくプロセスに着目し、『挑戦していれば加点』、『未達でも減点はしない』運用としました。こうしたプロセス重視の評価制度を通じて、「挑戦すれば評価される」という認識が、徐々に社内へ浸透していきました。

谷中 従業員の皆さんにとっては、「どうすれば評価されるのか」「何をすればどのくらい報酬に反映されるのか」といった、制度そのものへの関心は高いですよね。一方で、制度の仕組みを正しく理解してもらうためには、制度の背景にある思想や理念をきちんと伝えることが欠かせないでしょう。

昨今はタウンホールミーティングなどを行う企業も増えていますが、新しい文化の浸透・定着には、トップだけでなく現場のマネージャーが繰り返しメッセージを発信し続けることが重要だと感じます。そのため、制度改革だけに頼るのではなく、複合的な仕掛けを積み重ねていかなければ、風土はなかなか変わっていかないのでしょうね。

この後、下記のトピックが続きます。
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●社内イントラやWEBグループ報を活用した人事施策の情報発信の強化
●若手世代との価値観のギャップを埋めるために必要な管理職の意識改革
●人事部門のタコツボ化を防ぐ社外連携と若手の多様な価値観に学ぶ姿勢

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