【退職者のケア】「本当の理由」を引き出し企業課題を把握する“世代別ヒアリング法”/社労士監修コラム集

退職抑止効果が低い「賞与の支給制限」
「賞与をもらったら会社を辞める」。このような考えを持つ社員は、決して少なくない。株式会社マイナビが実施した『マイナビ2025年夏ボーナスと転職に関する調査』の結果によると、転職を検討する正社員のうち「今年の夏の賞与をもらってから転職する予定」と回答した者は58.3%に上っている。
『賞与支給後の退職問題』は、分かっていても解決困難な経営課題である。この課題に対し、「対象者の賞与支給に制限を設ける」という施策を考える人がいるかもしれない。社内ルールを整備し、賞与支給後の退職に対する抑止効果を狙うわけだ。
たとえば、就業規則などに賞与の「支給日在籍要件」を定めておくという方法がある。「支給日在籍要件」とは、賞与の支給日に社員としての籍が企業になければ、賞与は支給しないという規定である。ただし、退職日が賞与支給日よりも前でなければ、この手法は有効ではない。
退職予定の社員に対する「賞与減額要件」を就業規則などに設ける方法もある。これは退職を予定する社員に対しては、通常の社員よりも賞与を減額支給するという規定である。
しかしながら、「賞与減額要件」を有効に機能させるには、不可欠な前提条件がある。就業規則などに賞与を支給する目的として「過去の貢献に対する対価(功労報償的性格)」だけでなく、「将来の労働に対する期待(勤労奨励的性格)」が明記されていることである。
加えて、かりに「賞与減額要件」に基づいて減額できたとしても、減額可能なのは「将来の労働に対する期待(勤労奨励的性格)」部分の賞与額だけである。そのため、少額の減額しかできないことが通例のようだ。
このように、「賞与支給に制限を設ける」という手法は、『賞与支給後の退職問題』への有効策とはなりにくいといえる。
【退職者のケア】「本当の理由」を引き出し企業課題を把握する“世代別ヒアリング法”/社労士監修コラム集
「賞与額の引上げ」による退職回避策は一時的な効果しか生まない
「賞与の支給制限」で対応が難しいのであれば、「賞与額を引き上げて退職を防ぐ」という施策はどうか。前述の調査結果によると、転職経験がある人材のうち「賞与が少ないこと」が理由で転職をした者は69.1%であった。

しかしながら、賞与額を引き上げる人事施策は有効とは言い難い。退職回避に対し、一時的・短期的な効果しか見込めないからである。
確かに、賞与の支給額を増加させることには、社員の勤務継続への動機付けに即効性が期待できる。しかしながら、かりに賞与額を引き上げると、次回の賞与支給時には引き上げた額が社員にとっての「当たり前の金額」に変わる。その結果、次回以降は前回と同額の賞与を支給しても、勤務継続への動機付けが十分には高まらない。このような仕組みを限界効用逓減の法則という。
賞与額の引上げで退職を防止しようと思えば、次回の賞与支給時には一層の引き上げが必要となる。そもそも、財務基盤が十分でない企業であれば、引上げ自体が困難であろう。
退職の “本質的な要因” を見つけて問題解決を
以上のように、「賞与の支給制限」、「賞与額の引上げ」のいずれも、『賞与支給後の退職問題』に対する決定的な解決策とはならない。ここで認識したい事実がある。賞与支給後に発生する退職の “本質的な要因” は、実は賞与ではないケースが多いという点である。もちろん、「賞与が少ない」という点も退職要因のひとつかもしれないが、得てして “主要な要因” は別の場所に存在している。
したがって、『賞与支給後の退職問題』を解決するには、退職が発生している “本質的な要因” を見つけ出し、その要因にアプローチする施策が不可欠といえる。そのためには、社員への満足度調査やヒアリングなどを通じ、企業に対して抱える不満や本音に関する情報を収集することから始める必要がある。
満足度調査などの結果、社員が持つ企業への不満要因が「残業が多い」、「給料額に納得がいかない」などの勤務条件にあると分かれば、「人員体制の見直し」、「評価制度の改善」などが不満解消のための有効施策となるだろう。
「職場の雰囲気が悪い」、「自分の意見が言いづらい」など、職場環境の問題の指摘があれば、改善には「コミュニケーション研修の導入」、「心理的安全性に配慮した職場づくりの実施」などが必要となる。
さらに、「仕事が合わない」、「今の仕事では成長できない」など、業務内容の問題であれば、「業務分担の見直し」、「キャリアパスの明確化」などが有効な施策となろう。このように退職の “本質的な要因” を一つひとつ解消する取り組みが、賞与支給後の退職抑制に繋がる。
退職は必ずしも賞与によって生じるものではない。日々の不満の蓄積が退職意思を形成し、勤務継続の区切りとして賞与が選ばれているに過ぎないのである。この点を踏まえずに賞与の支給方法ばかりを見直しても、『賞与支給後の退職問題』の十分な解決には至らない。まずは、社員一人ひとりの思いやニーズを吸い上げる日常的なマネジメントの見直しから着手することが肝要である。
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