
部下のやる気と努力を促すサイクル
そもそも部下たちは、どのようなときにやりがいを感じ、努力してくれるのでしょうか。「よし! 営業電話を頑張ったら、5件アポイントが取れた!」
「今年は目標をハイ達成できて、賞与が去年の倍になった!」
「プロジェクトを成功させ、次のビッグプロジェクトの責任者に抜擢された!」
こんなときに部下たちは達成感と充実を感じ、「次も頑張るぞ」と思うでしょう。
組織における人間行動の心理学的分析の第一人者として知られるビクター・ブルームは、人がやりがいを感じ努力するプロセスやメカニズムに着目し、「期待理論」を提唱しました。人は次のように感じたときに、モチベーションを感じて努力するのだといいます。
①努力すれば → 成果が上がる
②成果が上がれば → 報酬が増える
③報酬は → 自分にとって魅力的なものだ
この3つが揃ったときに、人はやる気が湧き「よし頑張ろう!」と思うのです。
上記のうち、「努力→成果」の過程で感じるのが“手応え感”、「成果→報酬」の過程で感じるのが“報われ感”、「報酬の獲得」で感じるのが“惹かれ感”です。つまり、手応え感・報われ感・惹かれ感の3つを提供できれば、当人がやる気を出して努力してくれることを、ブルームの「期待理論」は示しています。
このサイクルをうまく回すには、評価制度がしっかり設計されていること、そしてそれがちゃんと運用されていることが必要です。どれだけ頑張れば、どのような評価を得ることができるのか。どんな成果を積み上げれば、どのように昇進できるのか。皆さんの会社では、いかがでしょうか。また、特に報われ感については、上司に対する信頼が高いほど強く感じやすいことが分かっています。
インセンティブの落とし穴
これを具体的にするのに、最も使われるのが「インセンティブ」です。広い意味でのインセンティブによって、人の行動は変わります。業績評価の項目と結果のフィードバック、昇給や表彰の機会、昇進の機会……そして最もよく使われるのが、報奨金でしょう。上司や会社としては、部下の達成意欲を高めるために、年度の目標やその時々の重点テーマに対して、キャンペーンを張ってインセンティブ=報奨一時金を出したりします。もちろん、この報奨金が頑張りの背中を押すことは事実です。しかし運用に気をつけなければ、一般的に思われているよりも効果がかなり限定的になってしまいかねません。
インセンティブの失敗は、主に次の4つのような形で現れます。
報奨金は、最初にもらったときはとても嬉しいものですが、二度三度となるにつれて“慣れ”てしまい、ありがたみを感じなくなります。これを強めるには、額をアップさせる必要がありますが、そう簡単に額を増やすわけにはいきませんよね。せっかく報奨金を増やしても、いずれはまたその額に慣れてしまうのです。
また、毎回同じ人が獲得するような状況が続いてしまうと、獲得できないメンバーは「どうせ自分はもらえないし」と思い、意欲が下がってしまうこともあります。
その2:部門間や職種間の溝を作る
報奨金は営業、または業績の良い事業部などに設定されることが多いです。しかし、これがサポートスタッフや間接部門のメンバーの意欲を下げ、職種間・部門間の溝を生むこともよくあります。
その3:当人の大義やプライドを傷つける
なんでもかんでも「報奨金!」という営業系の会社もあります。しかし、そうすると「自分はお金のためだけに働いているわけではない」と、当人の志やプライドを傷つけ、逆にそのメンバーたちの意欲を削いでしまうことがあります。
その4:不正を誘発する
以前、大手M&A仲介企業や大手証券会社で営業に関する大きな不正が発覚し、メディアやSNSを賑わせる大問題となりました。報奨金やその前提となる目標達成に対する過剰なプレッシャーは、社員の不正を誘発してしまうことがあります。
いずれも報奨金制度の負の効果で、せっかくのインセンティブが逆に社員や組織にダメージを与えてしまう結果となります。皆さんも、これまでご経験があったり、見聞きしたことがあるのではないでしょうか? その4については、さすがに起きてしまってはマズいですが…。
このように、インセンティブでの動機付けには、常に「より大きな」インセンティブを提供する必要がありますが、現実の世界では当然のことながら限界があります。残念ながら、すぐに弾切れとなるわけです。
ブルームの「期待理論」には、ドーピング的な側面があることをご理解いただけたと思います。もちろん使ってよいのですが、使い方としては「ここぞというところで、効果的に」。使い過ぎにはくれぐれもお気をつけください。
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