この1年、AIの台頭によって、社会も自社の事業環境も大きく一変したことを実感している経営幹部の方が多いでしょう。皆さんにこれから求められるのは、次の時代への「非連続的」なジャンプ。足元の改善から事業の変革まで、事業や組織を率いる皆さんのアイデアを形にする力が要求されます。そこで今回から、上司の皆さんが新しい価値やアイデアを生み、それを実現できるリーダーとなるためのヒント・ステップをご紹介していきます。
第51回:激動のAI時代、経営幹部がアイデアを実現するための4ステップ―“想像力”から始まる「インベンション・サイクル」とは

「インベンション・サイクル」を回せ

スタンフォード大学工学部教授、スタンフォード・テクノロジー・ベンチャーズ・プログラム(STVP)エグゼクティブ・ディレクターのティナ・シーリグ博士は、ひらめきを形にするまでのサイクル『インベンション・サイクル』を提唱しています。『インベンション・サイクル』とは、「想像力」を起点に「クリエイティビティ」、「イノベーション」を経て、「起業家精神」を発揮するに至る一連のサイクルを指します。

シーリグ博士は、「こうありたい」と思い描く未来にたどり着くには、以下の3つのことが必要だと言います。

まず第一に、起業家的な心構えです。起業家は、チャンスが身の回りに溢れていて、運は自分次第で拓けるものだと考えます。存在するルールのほとんどは「こうした方がよい」という推奨に過ぎず、絶対的なものではない。世の中の常識や思い込みは疑ってかかってよいと考えています。こうしたマインドを持つことが、描いた未来を実現できる人になるための基盤となるのです。

第二に必要なのは、思い描く未来にたどり着く途中でぶつからざるを得ない問題を解決し、チャンスを活かすためのツールです。そして、それが「クリエイティビティ」だとシーリグ博士は言います。観察力を磨き知識を増やす。バラバラのアイデアを結びつけ、組み合わせる。ためらわずにアイデアを出せる環境を整える。実験を奨励する文化を育むなどが、私たちのクリエイティビティを高めるのです。

第三に必要なのが、ひらめきを形にするための明確なロードマップです。

「アイデアを形にするまでのプロセスに必要なスキルには階層があります。はじめは<想像力>です。<想像力>が<クリエイティビティ>を生み、<クリエイティビティ>が<イノベーション>につながり、<イノベーション>が<企業家精神>を呼び起こす」(『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』)


これが「インベンション・サイクル」です。それぞれの意味するところは、

「想像力」…存在していないものをイメージする力
「クリエイティビティ」…想像力を駆使して課題を解決する力
「イノベーション」…クリエイティビティを発揮して独創的な解決策を編み出すこと
「起業家精神」…イノベーションを活用してユニークなアイデアを形にし、ほかの人たちの想像力をかきたてること

となります。今後の内容の理解のために、4つのワードの定義をぜひ押さえておいてください。

「想像力」は、まず行動・インプットから

「想像力」とは、存在していないものをイメージする力である。そのために必要なことは、好奇心を持つこと、とにかくとことんやってみること、そして頭の中でアイデアを思い描くことだと、シーリグ博士は言います。そしてそのために、インプットは多様であるほどよいでしょう。本を読む、映画を観る、音楽を聴く、人と会う、食事をする、スポーツをする・観る、旅をする。多くのものに触れれば触れるほど、想像力は豊かになるのです。

好奇心を持ち、とことんやってみる――そんな情熱を注げるものは、自分にとって何か?この「情熱を傾けられるもの」を探すときに、「何がそれに値するのだろう?」と心の中で考えてばかりいる人がいます。シーリグ博士は、そんな彼らには見落としていることがあると指摘します。

「行動してはじめて情熱が生まれるのであって、情熱があるから行動するわけではない、ということです。情熱は初めからあるわけではなく、経験から育っていくものです。バイオリンの演奏を聴いたことがなければクラシック音楽は楽しめないし、ボールを蹴ったことがなければサッカーはうまくなれません。卵を割ったことがなければ料理好きにはなれないのです」(『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』)


これに続いてシーリグ博士は、なかなか興味深いことを言っています。私たちは人生のどの局面をとっても、最初から好きになる一目惚れは滅多にないもの。人でも職業でも何かの課題でも、深く知れば知るほど情熱を持ち、のめり込むようになるのだと。

これには非常に共感します。私も人材コンサルティングでよくお話ししているのですが、「自分探し」や「天職探し」は非常に危険な行為にもなりかねないのです。何の答えもないものを探し続けて道に迷ってしまったり、「自分には見つからない」と落ち込んでしまったりする人が、実際に非常に多くいます。

そうした“先に存在していない答え”を懸命に探すような無益な行為はきっぱり辞めて、シーリグ博士の言う通り、まずは行動してみる。そうして初めて自分に合った仕事が見つかり、その仕事を深く知れば知るほど、いつしか情熱を注げる天職・ライフワークテーマとなるのです。

「未来を思い描く力」の養い方

読者の皆さんは最近、何かをじっくり見たことがありますか?

無心に風景を見る。美術館で1枚の絵を数十分見続ける(館員の人に怒られるかもしれませんが…)。本をじっくりと精読する――慌ただしい日々の中で、私たちは何か一つのことにだけ時間を費やすということをほとんどしなくなっています。

シーリグ博士は、カフェやオフィス、通り、公園など、どこでもよいので、ひとつの場所で何かをじっくり観察してみようとアドバイスします。

そして、気づいたことをできるだけ多く挙げ、気づいたことの意味について考えて、改善すべき点をできるだけ多く書き出してみる。次に、自分の「夢の舞台」を妄想してみる。「世界はいくつもの舞台が集まってできている」と考えるよう、シーリグ博士は示唆します。今いる場所という舞台から、全世界という舞台まで…あなたは、どの舞台にいますか? そしてこれから将来、どの舞台で活躍したいですか? 自分の挑戦や夢を、遠慮なく想像する時間を設けましょう。

「大胆な未来を思い描く力は、個人と同じように、激しく変化する世界で生き残りを目指す企業にとっても重要です。グーグルなどの企業が想像力を使うことを奨励しているのは、このためです。よく知られているように、同社のCEOラリー・ペイジは、伝説になる可能性を秘めた月面着陸のような大胆なプロジェクト<ムーンショット>を熱心に後押ししています」(『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』)


何か有意義なことを成し遂げたいと思うなら、まずは明確なビジョンを持つことだとシーリグ博士は言います。このビジョンは、自分自身の経験と分かちがたく結びついています。これが、想像力の本質なのです。

自分のビジョン、それにまつわる明確な世界に積極的に関わることによって、課題やテーマとチャンスを見通すことができ、どう対処するかのイメージが湧いてきます。偉大なチャレンジや事業はみな、想像力から始まっているのです。


想像力は才能やセンスではなく、身につけて強化できるスキルです。アイデアを実現するリーダーになるために、まずは自分の想像力を強化する時間の投資を、今日から始めてみましょう。
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