前回、ティナ・シーリグ教授が提唱する、アイデアを実現するリーダーになる4つのステップ「インベンション・サイクル」をご紹介しました。「想像力」を起点に、「クリエイティビティ」、「イノベーション」を経て、「起業家精神」を発揮するサイクルです。このサイクルにおける「想像力」の次のステップは、「クリエイティビティ」。私たちはどのようにすれば、クリエイティビティを発揮できるようになるのでしょうか。

ビジネスにおける「クリエイティビティ」とは?
皆さんが「クリエイティビティ」と言われて思い浮かべるものはなんでしょう? iPhoneのような私たちの生活を一変させる商品でしょうか。あるいはAdoのようなミュージックシーンを席巻する楽曲、あるいはチーム・ラボの仕掛けるような没入体験空間やイベントでしょうか。見方によっては、大谷翔平選手の二刀流もクリエイティビティの発揮の極みと言えるのではないかと私は考えます。なぜなら、シーリグ教授によれば、クリエイティビティが発揮されるには「実現したいことへの強い意欲」と「実現の方法を見つけるための実験的な試みを行う前向きな姿勢」が必要だというからです。
その面で大谷選手は、日本ハム時代の栗山監督、エンゼルスのジョー・マドン監督という、「二刀流をやりたい大谷選手の邪魔をしない」という考えを持ってくれた二人の監督に恵まれたことが非常に大きいと思います。もちろん、それをさらに開花させてくれている、現所属チーム・ドジャースのデーブ・ロバーツ監督も。
既存の常識に縛られず、投手と野手を両立させるコンディショニングや起用(プロ野球において先発投手で1番バッターなど…『ドカベン』で知られる故・水島新司さんの漫画でしかあり得ないと誰もが思っていたはずです。しかもMLBで!)を行った大谷選手と監督・コーチこそ、MLBにイノベーションを起こしたクリエイティビティの発揮者であると言えるでしょう。大谷選手の起用は、投手として降板した後に指名打者として出場し続けられる“大谷ルール”まで実現させました。
クリエイティブなアイデアは、具体的なニーズを満たし、社会の中で目に見える形になっているものだとシーリグ教授は定義します。ここで、「クリエイティビティな段階」とは何かについて、教授は「想像力とクリエイティビティを区別することが非常に大事だ」と指摘しています。
●頭の中に海辺の光景を思い浮かべるのは想像力、その光景を絵に描くのがクリエイティビティ
●空飛ぶ自動車をイメージするのは想像力、実際に空飛ぶ自動車を作るのがクリエイティビティ
「想像力の段階」から「クリエイティビティな段階」に進むとはどういうことか、これでご理解いただけたことと思います。
ジョージア大学トランス・クリエイティブセンターのマーク・ランコとガレット・イエガーは、共同論文で「クリエイティビティには、独自性と有効性の両方が必要である。独自性は必要不可欠だが、それだけでは十分ではない。独自性のあるものがクリエイティブであるためには、実効性がなければならない」と定義しています。
経営幹部にとって、ビジネスにおける「クリエイティビティ」とは、「想像力を駆使して課題を解決すること」を指すのです。
クリエイティビティを高める・発揮する具体的方法
インベンション・サイクルでは、最初にひとつのことにどっぷり浸かり、どうありたいかを思い描く(想像力)ことで、どのようにやる気を高められるかを見極め、実験を繰り返しながら答えを見つけていく(クリエイティビティ)。これがアイデアを実現するリーダーになる、前半2つのステップです。やる気を高める方法については、これまでこの連載でも様々なアプローチや理論をご紹介してきました。シーリグ教授は、『モチベーション3.0』のダニエル・ピンク氏が同書で挙げている、やる気を引き出す3つの鍵「自律性」・「マスタリー(熟達)」・「目的」を引用し、
(1)自分自身が重要だと感じることに取り組む機会を得られ(目的)
(2)何を、どのように、誰とするかを自分自身で選択でき(自律性)
(3)挫折するほど難しくはないが、挑戦しがいのある課題を克服する(マスタリー)
この行動こそがやる気が高まる源泉であるとしています。皆さんにも異論はないでしょう。
実験を繰り返す方法には、「プロトタイピング」と「プレトタイピング」があるとシーリグ教授は紹介しています。
「プロトタイピング」は目指すもののサンプルを作ることで、サンプルモデルで形を整えたり、ユーザー体験を検証したりサービスを見直したりして、これぞという確認ができたところで<本番>に移ります。
これに対して、聞きなれないのが「プレトタイピング」。グーグルのイノベーション・アジテーターとして活躍したアルベルト・サヴォイア氏が使い始めた言葉だそうですが、これはプロトタイピングのような投資をする前にテストを行うことを指します。
数週間~数ヵ月と相応のコストをかけてサンプルモデルを作るプロトタイピングではなく、数時間~数日で超ローコストでテストするのがプレトタイピング。具体的には、実装しようとしているプログラムを最初に組むのではなく、同じような動きを人力でやってシミュレーションする(メカニカル・ターク)、想定している製品を木製で作って使用イメージを検証する(ピノキオ・テクニック)、まだ存在していない製品やサービスを宣伝してみて反応を確かめてみる(ファサード)などの手法があります。
こうしたプレトタイピングの最も重要な目的は、データの収集にあります。想定しているような反響や使用感が得られるのか。得られれば大万歳ですが、もし結果が期待通りでなくてもOK。貴重な教訓が得られ、次の実験や検証に活かすことができます。短時間、最小の労力しかかけていないため、痛手もリスクも最小限です。
実験で得られたデータが集まることは、当事者の意欲をさらに掻き立てる原動力になります。意欲が実験につながり、実験結果を受けてさらに意欲が高まり、新たな実験につながるという「フィードフォワード・ループ」が加速しながら回ることになります。このような形で、“インスピレーション”という小さな種が、大きな実現アイデアへと育っていくのです。
私たちは最終製品を見て、それらが最初から完全な形で作られたと思いがちですが、実際はほとんどの場合、そうではありません。大ヒットした製品であれ、ビジネスの戦略であれ、流行語になったギャグであれ、実験を繰り返しながら練り上げられたものであり、小さな一歩の積み重ねの結果、辿り着いたものなのです。
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