2022年にスタートした長期ビジョン「Shaping the Future 2030」のもと、ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)が企業発展の原動力として位置付けているオムロン株式会社。女性管理職比率1.5%という出発点から、10年余りで13.2%へ――この変化は、製造業・電気機器業界でも際立つものであり、経営の覚悟と現場での粘り強い推進によって実現しました。女性リーダー候補向け研修「OMRON Women Leadership」も始動し、D&Iの意識が着実に組織に浸透しています。

今回、オムロン株式会社 グローバル人財総務本部 企画室 ダイバーシティ&インクルージョン推進課の森督子氏に、株式会社マネジメントサービスセンターの執行役員・湯本安岐予氏が、D&I推進の歩みと展望について伺いました。(以下敬称略)

【プロフィール】


  • 森 督子氏

    ■森 督子氏
    オムロン株式会社
    グローバル人財総務本部 企画室 ダイバーシティ&インクルージョン推進課長
    経営基幹職

    国家資格キャリアコンサルタント
    障害者職業生活相談員 ファシリテーター認定プロセス(FCP)取得
    大学卒業後、オムロン株式会社に入社。人事・採用・教育など人財育成の領域でキャリアを積んだ後、安全衛生の業務にも従事し、従業員が安心して働ける職場づくりに取り組む経験を重ねた。その後の異動を通じて、女性活躍支援、LGBTQ+、介護と仕事の両立支援など、ダイバーシティ推進へ活動領域を広げてきた。続く異動では、リーダー育成や企業理念の浸透、企業文化の醸成など、組織開発に関わる領域を担当。2025年よりダイバーシティ&インクルージョン推進課 課長として、女性、障がいのある方、LGBTQ+など、多様な人が活躍できる環境づくりに取り組んでいる。

  • 湯本 安岐予氏

    ■湯本 安岐予氏
    株式会社マネジメントサービスセンター
    執行役員

    大学卒業後、流通小売業に入社。加盟店の経営指導を行うスーパーバイザーや加盟店への教育・研修を行うトレーナー、営業計画の部署マネジメントなど多くの職種を経験。自身の2児の子育てをしながらのキャリア形成の経験の中で、女性を含め全員が成長し活躍できる組織の実現にミッションを感じ、2016年に株式会社マネジメントサービスセンターへ入社。現在は、金融、製薬、メーカー等の幅広い業界において、能力開発を目的としたアセスメント・センターやトレーニングを提供している。受講生に寄り添うことで気づきを与え、各個人にあわせた能力開発につながるトレーニングをモットーに活躍している。

オムロン森氏、MSC湯本氏

長期ビジョン「SF2030」を支える人財戦略。多様性がもたらすイノベーションへ

湯本:
オムロン様は2030年に向けた長期ビジョン「Shaping the Future 2030(SF2030)」を、2022年度にスタートされましたね。まずは、このなかで人財に対する考え方について教えていただけますでしょうか。

森:
オムロンは「企業理念経営」をベースとし、「Our Values」のひとつとして「人間性の尊重」を掲げています。「人間性の尊重」とは、多様な考えや背景を持つ人財が、個性や能力を存分に発揮して活躍できる企業を目指すという考え方です。社員一人ひとりが企業理念を原点に志をひとつにしてチャレンジすることで、多様性がイノベーションを生み出すと私たちは考えています。

SF2030で掲げる人財戦略ビジョンでは、会社と社員が“よりよい社会をつくる”という企業理念に共鳴し、「常に選び合い、ともに成長し続ける」関係性を重視しています。多様な人財の力を引き出し、一人ひとりが主体的に行動し、持続的に成長する強い組織をつくっていくことを目指しています。
オムロン森氏
湯本:
ビジョンの根本にはやはり「人」があるのですね。このSF2030を実現するうえで、人財面での課題はどのようにお感じですか。

森:
変化が激しいこの時代に、多様な人財をどう活かしていくかという点が一番の課題です。それぞれ事情やライフステージが異なる中で、マネージャーがいかにその個性を引き出していくのか。そして社員自身も、いかに自分の力や意志を表出していくのか。その両面で課題を感じています。

オムロンはもともと「人の可能性を信じる」という考え方を持っています。ただ、その引き出し方は時代とともに変わってきました。かつては製造業らしく画一性を重視していましたが、いまは多様であることを前提にしながらどう向き合い、どう活かすかというステージに変わってきたと思っています。

女性管理職比率を1.5%から13.2%へ!10年の歩みと経営コミットメントの力

湯本:
改めて、オムロングループにおけるD&Iの取り組みについて、これまでの変遷も含めて教えていただけますか。

森:
SF2030のスタートと同時にD&Iのコンセプトを再定義し、「オムロンにとってのD&Iとは何か」を社内外に示しました。注力領域は女性、障がいのある方、LGBTQ+の三つです。女性活躍については、2012年に現会長の山田が社長に就任した際、海外から帰国して「日本の役員に、女性がいない」という強い課題意識を持ったことが起点です。

そこで、すぐに専門チームを立ち上げ、取り組みを本格化させました。当時の女性管理職比率はわずか1.5%、社内で二十数名という状況でした。そこから数値目標を掲げ、女性活躍推進法の制定も追い風としながら、総合職と一般職の統合、研修の実施などの取り組みを重ねていきました。現在は13.2%、231名(2025.4現在)にまで増えています。

湯本:
短期間でここまで数字を伸ばせた一番の要因は何だったとお考えですか。

森:
まず、山田や現社長の辻永をはじめとするトップ層が「D&Iは、オムロン発展の原動力」と明言していることです。経営の強いコミットメントが、私たちが取り組みを進める大きな拠り所になっています。

そして法改正以前から、数値目標を設けたことも重要でした。数値目標がない限り、組織は動きません。スローガンだけでは絵に描いた餅になってしまいます。KPIを持つことで、役員たちが執行会議でも「この数字を達成するためにそれぞれ何をするか」と本気で議論するようになります。こうした経営陣の覚悟が現場に伝わり、育成・配置・評価の具体的なアクションにつながりました。

湯本:
数値目標を掲げても、なかなか浸透しないという企業の悩みも多く聞きますが、オムロン様ではどのような工夫をされたのでしょうか。
MSC湯本氏
森:
実は当初、社内から大きな反発がありました。女性活躍推進法が制定される前の話ですし、「数のためでは?」という声もありました。そこで全国を行脚しながら、なぜ会社としてD&Iに取り組むのかを社員に直接語りかけました。さらに、研修参加者の上司に対し社長やCHROが直接「なぜこの研修が必要なのか」を対話で伝えるセッションを必ず設けました。トップダウンとボトムアップを両輪で続けることで、少しずつ組織に浸透させていったのです。

湯本:
実際にD&I推進活動を進めるうえで、大きな阻害要因はありましたか。

森:
大きく三つありました。一つ目はアンコンシャスバイアスです。「女性は両立が大変なのではないか」、数値目標に対して「数合わせのためではないか」といった思い込みや固定観念が、本人の意欲とは関係なく、挑戦の機会を狭めてしまうことがあります。

二つ目は、女性本人のチャレンジへのためらいです。ロールモデルがほとんどいない中で「自分に務まるのか」「今のタイミングでいいのか」という不安から、一歩踏み出せない状況がありました。

三つ目は現場のマネジメントです。多様なメンバーをどのように育成し、力を発揮してもらうかについて、現場には十分な経験値がありませんでした。特に、女性の育成に難しさを感じた経験を持つ管理職も多く、どのような関わりが成果につながるのかについて、理解にばらつきが見られました。制度を整えても、最終的にそれを活かせるかどうかは現場の運用にかかっています。そのため、運用面での難しさは今もなお残っているのが実情です。

湯本:
本人の自信のなさ、目的の浸透、そして現場でのリーダー育成——さまざまな課題があったのですね。それらをどう乗り越えていかれたのでしょうか。

協力:株式会社マネジメントサービスセンター

この後、下記のトピックが続きます。
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●男女で約10年の差が生じていた管理職候補の「昇格年齢」~原因となった2つの壁~
●意識改革とスキル開発を両立する独自研修で、リーダーへの挑戦を後押し
●D&I推進によって変わった、マネジメントの意識
●「女性活躍」という言葉が不要になる日を目指して~“数字”ではなく、これからのオムロンにとって大切なこと~


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