地政学的リスクの高まり、テクノロジーの急速な進化、そして多様性をめぐる社会的議論の変容。世界のビジネス環境が根本から揺らぐ今、企業の持続的成長を担うリーダーをいかに育て、つなぎ、輩出し続けるかは、人材戦略の最重要課題となっています。

今回、リーダーシップ開発の分野で世界最大規模の調査・研究を手がける米国DDI社のCEO、テイシー・M・バイアム博士が来日し、長年にわたりパートナーシップを築いてきた株式会社マネジメントサービスセンター(MSC)の代表取締役社長・脇田幸子氏と、リーダーシップの最新動向から女性経営人材の選抜と育成まで、幅広く語り合いました。(以下敬称略)

【プロフィール】


  • テイシー・M・バイアム博士

    ■テイシー・M・バイアム博士
    Development Dimensions International, Inc.(DDI)
    CEO

    世界有数のリーダーシップ・コンサルティング企業のCEOとして、2015年の就任以降、同社の戦略転換と事業変革をリード。学習・テクノロジー基盤を大幅に進化させ、年間100万人以上のリーダー育成を支える、業界でも屈指の先進的なリーダーシップ開発エコシステムの構築を牽引してきた。産業・組織心理学の博士号を有し、20年以上にわたり、経営リーダーの選抜・育成に携わるとともに、初級・中級管理職を対象とした数々の受賞歴を持つリーダーシップ開発プログラム開発も推進している。著書『Your First Leadership Job』は7か国語に翻訳され、全世界で12万5,000部以上を発行するベストセラーとなっている。
    さらに、女性リーダーシップの推進にも注力し、女性がキャリアを切り拓くための実践的な戦略と現場の知見を提供するムーブメント「#LeadLikeAGirl」を立ち上げた。これまでに、HR Techにおける「Women in Technology」初回基調講演、上海で開催されたHR Dayでの基調講演(会場800名、オンライン1万人が参加)、さらには写真撮影が禁止された格式高いバッキンガム宮殿内での非公開会合など、数多くの印象的な登壇・活動を行っている。

  • 脇田 幸子氏

    ■脇田 幸子氏
    株式会社マネジメントサービスセンター
    代表取締役社長

    広告代理店勤務を経て、マネジメントサービスセンター(MSC)入社。HRコンサルタントとして28年のキャリアを積む。2025年代表取締役社長に就任し、顧客の重要ポジションにおけるサクセッションマネジメントコンサルティングと運用支援を推進している。専門は、経営幹部・上級マネジメント層を対象としたアセスメントと能力開発支援。DDIラーニング・システム認定ファシリテーターを養成するマスタートレーナーの統括として、リーダーシップ開発をエコシステムの構築から支援している。ISO 30414リードコンサルタント/アセッサー。

DDIバイアム博士氏、MSC脇田氏

地政学的変化がリーダーシップに突きつけるもの

脇田:
いま、地政学的なリスクに関するニュースが毎日のように報じられています。こうした地政学的な動きが、ビジネスやリーダーシップに与える影響を、どのようにご覧になっていますか?

バイアム:
マッキンゼーの調査では、900名を超える経営幹部の多くが「地政学的なリスクが現在の経済にとって最大の脅威である」と答えていました。重要なのは、こうした地政学的な変化がもはや想定リスクではなく、企業に具体的な変革を強制しているという現実です。その象徴的な例として、Appleが挙げられます。かつて中国に集中させていたiPhoneの生産拠点を、段階的にインドへ移管しました。

また、台湾の半導体大手TSMCは、米国のCHIPS法による政策的支援を背景に、アリゾナ州フェニックスへの大規模投資を決断しました。こうした動きは、企業の生産拠点だけでなく、人材の構成そのものを問い直すことを意味しています。
DDIバイアム博士氏
脇田:
製造業を中心に、資材調達や生産拠点の変化が、どこで誰がどのように働くかという問いに直結してきていますね。そして、この先もこうした不透明な状況は続きそうです。さて本日は、特にD&Iの観点でお話を伺いたいのですが、多様性が組織やビジネスに与える影響についてどうお考えでしょうか。

バイアム:
まず前提として、ダイバーシティが企業にもたらす効果はデータで明確に示されています。多様なチームを持つ企業は、均質なチームと比較して、イノベーションで20%、意思決定の質で20%、顧客ニーズへの対応力で17%、従業員エンゲージメントで29%、優秀人材の獲得・定着の可能性で実に80%も高いパフォーマンスを示しています。

さらに、平均以上の多様性を持つ企業は、業績上位10%に入る確率が2.4倍にもなります。D&Iは「望ましい取り組み」ではなく、グローバルビジネスにおける必須要件です。

サクセッションにおける「公正な選抜」という難題

脇田:
日本では、政府が長年にわたって女性活躍推進を掲げてきましたが、なかなか思うように進んでいないのが実情です。特にサクセッションマネジメントにおける女性リーダーの育成については、どのような課題があるとお考えですか。

バイアム:
最も根本的な課題は、「公平で客観的な選抜判断」が十分に行われていないことだと思います。誰をリーダーシップパイプラインに入れ、誰を次のステップへ引き上げるかという意思決定は、本来データに基づいて行われるべきです。ところが、そのデータ自体が存在しない、あるいは整備されていないという状況が、あらゆる階層で見受けられます。データがなければ、意思決定には必然的に主観やバイアスが入り込みます。そしてその結果として、女性の活躍の機会が広がっていかないという課題が生じるのです。

大切なのは、すべての階層で目標を数値化し、進捗を定期的に開示することです。測定しなければ、問題を特定することはできません。四半期ごとに採用・昇進・研修参加率などの変化を追い続けることが不可欠です。またリーダーの方々がこういった変化をドライブしていくことに関してアカウンタビリティを持つことが非常に重要です。

DDIの大規模調査「Global Leadership Forecast(グローバル・リーダーシップ・フォーキャスト)」では、業績上位10%の企業のハイポテンシャル人材(将来のリーダー候補)の構成を分析しています。優れた成果を出している企業でさえ、ハイポテンシャル人材の占める女性の割合は平均35%にとどまっています。

そして、上位10%に入らない企業になると、その比率はわずか14%にまで低下します。たとえCEOが「女性リーダーを増やしたい」と強く望んでいても、そもそものパイプラインに女性の割合が少なければ、真に公正な選抜は実現できません。

脇田:
日本でも状況は非常によく似ています。そもそも候補者が少ない中、公正な判断をどう実現するかは、私たちMSCも多くのクライアントとともに悩み続けているテーマです。目標を数値化することが大事だということですが、具体的にはどのような点に留意すればよいでしょうか。
MSC脇田氏
バイアム:
私は心理学者でもありますので、まず強調したいのは「客観性こそが出発点だ」ということです。将来、どのような役割が必要で、その役割を担う人材にはどのようなスキルセットと資質が求められるのかを、あらかじめ明確に定義する。そしてその定義に照らして、各候補者の現在地と育成すべき領域を客観的に見極めていく、このプロセスが不可欠です。

客観性を欠くと、判断は主観に依存します。中間管理職が「彼は有望だ」「彼女は難しい」と独自に決めてしまうと、その判断が本当に組織の未来にとって正しいのかどうか、検証する術がありません。「Global Leadership Forecast」では、人事担当者に『自社のリーダーは適切な人材選抜の意思決定ができていると確信しているか』と尋ねました。その結果、75%が「確信を持てない」と答えています。この数字が、現状の深刻さを物語っています。

協力:株式会社マネジメントサービスセンター

この後、下記のトピックが続きます。
続きは、記事をダウンロードしてご覧ください。

●主観やバイアスを排除し、「公正な選抜」を行うには?
●インポスター症候群や孤立感~女性特有の心理的障壁の乗り越え方
●DDIのCEOが語る、自らの意志を宣言し切り拓く道筋
●女性リーダー候補を支える「メンタリング」と「スポンサリング」とは?

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