近年、生産性や定着率の向上につながる従業員エンゲージメントの重要性が叫ばれ、どう高めるかが多くの企業の課題となっている。従業員エンゲージメントが高い企業では、従業員一人ひとりが日々意欲的に業務に取り組み、その結果として業績も好調であるケースが多い。ところが、いざ施策を検討しようとしても、「どのようにすれば従業員エンゲージメントを高められるのか」、「自社に最適な手法がわからない」といった悩みを抱えるケースは少なくない。

そこで本稿では、従業員エンゲージメントが重要とされる理由や、それによってもたらされる効果・メリットも整理したうえで、キヤノンやTOPPAN、ライオンといった先進企業が実際に導入し、成果をあげた従業員エンゲージメントの向上施策を厳選して紹介する。自社の施策検討にぜひご活用いただきたい。
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従業員エンゲージメントが重要な理由

まずは、「従業員エンゲージメント」がなぜ重要なのかを紐解いていこう。ここでは、主に3つの理由を取り上げる。

●人材の流動化と採用難

もはや転職は特別なことではなく、当たり前の時代となった。特に優秀な人材や若手ほど見切りが早く、職場を離れやすい傾向にある。さらに、採用難が続いており、離職者の代わりとなる人材を確保することも容易ではない。

企業としては、いかに人材を確保し、定着させていくかが重要な経営課題となっており、その結果として「従業員エンゲージメント」への配慮が不可欠になっている。

●多様な働き方への対応

コロナ禍を契機に、働き方は一気に多様化した。リモートワークやハイブリッドワークが普及する一方で、非対面でのコミュニケーションが一般化しつつある。こうした状況が続くと、組織への帰属意識が希薄化し「従業員エンゲージメント」が低下しやすくなる。

多様な働き方を認めつつ、いかにエンゲージメントを維持・向上させるかが、企業に問われている。

●人的資本経営の広がりと情報開示の義務化

人的資本経営を推進する流れの中で、上場企業には「人的資本に関する情報開示」が義務付けられている。開示項目には「従業員エンゲージメント」も含まれており、投資家や株主が企業の持続的成長性を見極めるための重要な指標と位置づけられている。つまり、「従業員エンゲージメント」の向上は、社内施策にとどまらず、IR活動の観点からも大きな意味を持つようになっている。

【関連記事】そもそもエンゲージメントとは? ビジネスにおける意味や目的、向上施策について徹底解説

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従業員エンゲージメント向上がもたらす効果・メリット

次に、「従業員エンゲージメント」の向上が企業にもたらす効果やメリットについて考えていく。主に4つの点が挙げられる。

●生産性と業績の向上

エンゲージメントが高い従業員は、仕事に対する責任感が強く、より良い成果を出すための努力を惜しまない。業務改善にも前向きに取り組むため、さまざまなアイデアが生まれ、生産性の向上につながる。このように、従業員の貢献意欲が企業の利益や業績を左右すると言っても過言ではない。

●離職率の低下と定着率の改善

労働人口の減少や人材の流動化が進む中、まずは現在在籍している従業員の定着が最優先課題となる。エンゲージメントが高い従業員は、自社への愛着や満足度が高く、離職しにくい傾向にある。その結果、採用にかかるコストの削減にもつながるはずだ。

●顧客満足度の向上

エンゲージメントが高い従業員は、仕事へのこだわりが強く、会社や商品・サービスに対する想いも深い。そのため、顧客により良い価値を提供しようとする意識が自然と高まる。こうした従業員が増えることで、製品やサービスの品質が向上し、顧客満足度を向上できる。

●イノベーション促進と組織文化の強化

エンゲージメントが高く、かつ心理的安全性が確保された組織では、従業員が自発的に新しいアイデアを提案しやすくなり、イノベーションが促進される。また、職場の雰囲気も良好になり、連帯感や一体感のある組織文化の醸成につながる点も大きなメリットだ。

【関連記事】「従業員エンゲージメント」を高めるには? 10の施策と向上のポイントを解説

従業員エンゲージメント向上の企業事例7選

ここからは、実際に従業員エンゲージメント向上に取り組んでいる企業の事例を紹介する。

(1)キヤノン
管理職の対話型研修『CAMP』で現場発のエンゲージメント向上を促進

従業員エンゲージメント向上を目的とした研修は多くの企業で実施されているが、一過性で終わってしまうケースも少なくない。そうした中、キヤノンでは「キヤノン・アクティブ・マネジメント・プログラム(CAMP)」による新たな人材開発に挑戦している。

本プログラムは、管理職が同じテーブルを囲み、車座で議論を行う部署単位・半日対面型の研修である。人事本部が内製で開発・設計を行い、講師も人事部門の部長・課長が担当している。

プログラムは二部構成となっており、第一部では外部アセスメントを通じて、管理職自身の特徴やマネジメントスタイルを定量的に把握する。第二部では、個人の「働きがい」と職場の「働きやすさ」に焦点を当て、部下一人ひとりの誇りややりがいをどう高めていくかを議論し、部署単位での行動計画を策定する。

開始から間もないため成果検証は今後となるが、継続的な取り組みを通じて、各部門が主体的にエンゲージメント向上に取り組む組織文化の醸成を目指している。


【もっと詳しく】事例記事:全管理職1,900名を巻き込んだキヤノンの職場改革――エンゲージメント向上と職場風土改善を促進する「キヤノンアクティブマネジメントプログラム」

(2)TOPPANホールディングス
VR・メタバースを活用したオンライン研修で学びと交流を両立

コロナ禍を経て、企業研修のオンライン化は大きく進んだ。場所の制約がなくなるなど多くのメリットがある一方で、参加者同士のコミュニケーションが取りにくいといった課題も浮き彫りになっている。

こうした課題に対し、TOPPANホールディングスでは、自社が持つリソースを最大限に活用し、社員の誰もがいつでも・どこでも学べる研修プログラムを構築している。

具体的には、Web配信による研修や、eラーニング形式でビジネススキルを学べるサブスクリプション型コンテンツを提供しているほか、ドローンを活用して撮影したVR映像を組み込んだオンラインフィールドワーク研修、自社製品の工場見学を疑似体験できるVRコンテンツ体感プログラムなど、多様な施策を展開している。

また、オンライン研修では参加者同士の交流が希薄になりがちである点を踏まえ、メタバース空間を活用し、対面に近いコミュニケーションが図れるよう工夫している。

最新のデジタルテクノロジーを活用したことで、知識のインプットやスキル習得がしやすくなっただけでなく、DXに精通した人財の育成にもつながっており、社内からの反応は上々だ。これらの取り組みで得られた知見は、人事部門にとどまらず、さまざまな部署で共有されている。

【もっと詳しく】事例記事:VRやメタバース活用の先にある「社員の教育格差解消」と「事業側との相乗効果」――TOPPANホールディングスが目指す「誰もがいつでもどこでも学べる環境」

(3)ライオン
副業を人材開発施策として位置づけ、社内外の学びを循環

厚生労働省の後押しもあり、副業・兼業を認める企業は増加傾向にある。一方で、副業制度の導入に慎重な企業が多いのも事実だ。

そうした中、副業を人事施策の一環として取り入れているのがライオンである。同社は、副業を通じて社外の世界を知り、そこで得た経験や刺激を本業に還元することを目的としており、副業推進を人材開発の一環と明確に位置づけている。

特筆すべきは、社員の副業を認めるだけでなく、外部からの副業人材を受け入れている点だ。副業に挑戦する社員の多くは、自ら副業先を探し、採用活動にチャレンジしている。その過程で培われた主体性や新たなナレッジは、社内業務にも良い影響を与えているという。

一方、副業人材の受け入れを始めたきっかけは、新規事業支援を目的とした人員募集だった。社内に不足していたスキルや経験を外部人材に補ってもらう狙いでスタートしたところ、結果として約1,600名もの応募が集まった。同社は、副業先としての高いニーズを実感したと語っている。

【もっと詳しく】事例記事:ライオンが副業を推進する意義とは――「副業によって人材開発を促進する」という人事の挑戦

(4)能登町ふれあい公社
エンゲージメントサーベイとMVVで「地域で一番働きたい会社」へ

少子高齢化や人口流出といった課題は、地方にとって切実な問題である。過疎化が進む石川県能登町も例外ではない。その状況を打開するため、能登町ふれあい公社が立ち上げたのが、「地域で一番働きたい会社」を目指すプロジェクトだ。兼業・副業など多様な形で地域と関わる「関係人口(副業人材)」と協働しながら、事業および組織改革を推進している。

プロジェクトではまず、従業員エンゲージメントサーベイを実施し、その結果を踏まえて中期事業計画の策定や、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の明確化を行った。

MVVを形骸化させないため、社内や施設内での掲示、評価制度との連動、Instagramを通じた情報発信など、多角的な施策によって浸透を図っている。

MVV発表から1年余りが経過し、社員の意識に少しずつ変化が見られるようになってきた。SDGsへの関心が高まり、自発的に行動を起こす社員も現れているほか、サーベイ結果を踏まえた勤怠管理システムの導入など、社内体制の改善も進んでいる。今後も取り組みを継続し、地域活性化を牽引する存在を目指している。

【もっと詳しく】事例記事:地域の牽引役となるべく事業・組織改革に挑む。副業人材との協働でミッション・ビジョン・バリューを策定し、「地域で一番働きたい会社」へ

(5)パナソニック インダストリー
従業員主体の風土改革『MAKE HAPPY PROJECT』

近年、従業員エンゲージメント向上を目的とした社内風土改革に取り組む企業は増えているが、期待通りの成果を上げられている事例は決して多くない。その中で、「MAKE HAPPY PROJECT」と名付けた風土改革を成功させたパナソニック インダストリーは、注目すべき事例の一つである。

同社は、「Your Committed Enabler―未来の兆しを先取りし、お客様と共に社会変革をリードする。」というビジョンを掲げ、組織・制度・風土改革に取り組んできた。「MAKE HAPPY PROJECT」はその象徴的な施策であり、従業員一人ひとりが仕事を通じて幸せを感じ、その先にいる顧客もハッピーにすることを目指している。

2021年には888件もの企画が実施され、延べ1万6,500人の社員が参加した。具体的には、外部講師を招いたセミナーの開催や、経営幹部・国内34拠点の責任者の人となりを伝える社内ラジオ番組の企画・制作などが行われた。

これらの活動を通じて、人財育成やコミュニケーションの活性化、従業員エンゲージメントの向上が進み、大きなムーブメントを生み出している。参加者からは「職場への愛着が高まった」といった声も多く寄せられ、離職防止にも寄与している。

【もっと詳しく】事例記事:「従業員と経営層のつながり」や「社員の挑戦機会」をつくり、ムーヴメントを巻き起こした社内風土改革『MAKE HAPPY PROJECT』

(6)LIXIL
『Employee Listening』とウェルビーイング施策で従業員エクスペリエンスを向上

新たな人材確保が難しくなる中、多くの企業が、今いる従業員一人ひとりの能力を最大限に引き出すことに注力している。LIXILも、従業員が組織の中で得る価値体験を意味する「従業員エクスペリエンス」の向上を重要な人事課題と位置づけ、従業員エンゲージメント強化に取り組んでいる。

その中心にあるのが、従業員の声に真摯に耳を傾け、施策に反映させる「Employee Listening」戦略だ。あわせて、従業員のウェルビーイング実現にも注力しており、前者向けにはPurpose(存在意義)の策定と浸透施策、従業員意識調査「LIXIL Voice」、D&I推進、キャリア開発支援、管理職育成プログラムなどを展開している。また、国内向けには、多様で効率的な働き方を支援する制度拡充や健康経営の推進にも取り組んでいる。

その結果、2025年3月期の「LIXIL Voice」では、エンゲージメント72%、インクルージョン71%、ウェルビーイング77%と高い数値を記録しており、施策の効果が表れている。

【参考】LIXIL:働きがいのある職場

(7)Salesforce
『1-1-1モデル』で、社会貢献と従業員エンゲージメントを両立

持続可能な社会の実現に向け、企業に求められる役割は年々大きくなっている。Salesforceは、その分野におけるトップランナーの一社だ。同社は、ビジネスを通じて生み出した力を社会貢献や環境サステナビリティに還元し、インパクトを創出することを目指している。

創業時から続く同社の代表的な取り組みが「1-1-1モデル」である。株式の1%、就業時間の1%、製品の1%を社会に還元する仕組みで、あわせてこの考え方を広める「Pledge 1%」も推進している。

具体的には、株式の1%を非営利団体へ助成し、教育と気候正義の分野を支援。就業時間の1%として、従業員は毎年7日間のボランティア活動に参加できる。製品の1%については、非営利団体向けに製品を寄贈・割引提供する「Power of Usプログラム」を展開している。

こうした社会的意義の高い活動に参画することで、従業員は自社の存在価値を実感し、エンゲージメントの向上につながっている。

【参考】Salesforce ブログ:Salesforce(セールスフォース)が創業時から取り組む統合型社会貢献「1-1-1モデル」とは何か

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エンゲージメント向上施策を失敗しないためのポイント

最後に、エンゲージメント向上施策を実施するうえで押さえておきたいポイント、失敗しないためのポイントを解説していく。

●エンゲージメントサーベイで「現状」と「優先課題」を明確にする

施策を打つ前に、まずは自社のエンゲージメントの水準と課題を可視化することが重要だ。エンゲージメント施策は、闇雲に打っても成果が見えない。最初の一歩として押さえたいのが、「いま自社はどんな状態なのか」をきちんと測ることだ。部門・職種・階層ごとのばらつきや、「上司との関係」、「キャリア」、「仕事内容」など項目別の結果を見ていくと、打ち手の候補が具体的に浮かび上がってくる。また、数字だけで判断せず、気になるポイントは現場へのヒアリングも交えることで「どこから手をつけるべきか」という優先順位がつけやすくなる。

【関連記事】エンゲージメントサーベイとは? メリット・導入の流れ・選び方を解説

●施策を打つ前に「ターゲット層」と「ねらい指標」を定める

次に大事なのは、「誰の、どんな状態を変えたいのか」を明確にさせることだ。若手の離職率を下げたいのか、中堅のモチベーションを高めたいのか、あるいは管理職のマネジメントを変えたいのか。ターゲットが曖昧なまま「全社向けに良さそうなこと」を並べても、結局インパクトにはつながらないことが多い。たとえば「入社3〜5年目の仕事の裁モチベーションスコアを上げる」といった具合に、狙う層と指標をセットで定義しておくと、施策設計と評価がやりやすくなる。

●現場管理職を巻き込み、トップダウンとボトムアップを両立させる

エンゲージメントは現場のマネジメントや日々のコミュニケーションの影響が大きく、施策を人事部だけで進めると定着しにくくなる。経営層が方向性とメッセージを打ち出すことに加え、管理職自身が自部門の課題を言語化し、アクションプランをつくるプロセスを組み込むことが重要だ。その際、管理職向けの研修や1on1支援などもセットで実施し、現場で実行に移しやすい環境を整えると、トップダウンとボトムアップがかみ合いやすくなる。

●バラバラな施策にしないために「MVV・人的資本戦略」と紐づける

福利厚生や研修、イベントなどを増やしていくと、「施策は多いが何のためか分からない」状態になりがちだ。そうならないために、企業のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)や人的資本戦略で掲げている方向性と紐づけて、「なぜこの施策をやるのか」、「自社が目指す組織像とどうつながるのか」を言語化し、一つのストーリーとして語れるようにしておきたい。それを社内に丁寧に説明することで、従業員側も自分事として受け止めやすくなる。

●施策後も定期的に計測し、PDCAを回す仕組みをつくる

エンゲージメント向上は長期戦なので、単発の施策で劇的に変わることはほとんどない。一度施策を打って終わりではなく、中長期での改善が必要だ。年に複数回、サーベイやアンケートを実施し、施策実施後の変化をこまめに確認するようにし、また数字だけでなく現場の声も合わせて振り返ることで、次の一手が打ちやすくなる。その他、経営会議や人事会議、マネージャー会議などで議論を組み込み、継続的に質を高めていくことが重要となる。

まとめ

成功事例を目にすると、すぐに自社でも取り入れたくなるかもしれない。しかし、他社の施策をそのまま導入しても、同じ成果が得られるとは限らない。企業文化や価値観、組織の成熟度はそれぞれ異なるからだ。

重要なのは二点ある。一つ目は、成功事例に共通する本質的な要素を見極めること。二つ目は、それを自社なりにアレンジし、独自の施策として落とし込むことである。特に「従業員エンゲージメント」は短期間で高められるものではなく、成果が表れるまでに数年を要することも多い。だからこそ、着手前の準備を丁寧に行い、腰を据えて取り組む姿勢が求められる。

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