価値観の多様化やリモートワークの普及などによって、働く環境が大きく変化している中で、従業員エンゲージメントの重要度がますます高まっている。「どうしたら従業員エンゲージメントを向上させられるのか」と、悩む人事担当者やマネージャーは多い。そこで本稿では、従業員エンゲージメントを高めるための10の施策と、向上のポイントなどを詳細に解説していく。
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「従業員エンゲージメント」とは

「従業員エンゲージメント」とは、従業員が会社や組織に対して感じる信頼や共感、そして「会社に貢献したい」という意欲の強さを指す。「会社への思い入れ」や「愛社精神」と言い換えても良いだろう。「従業員エンゲージメント」が高ければ、仕事に対するモチベーションや自社への帰属意識も高く、職場の生産性もアップしていける。そのため、昨今では多くの企業が「従業員エンゲージメント」の向上に力を入れている。

●「従業員エンゲージメントが高い」状態とは

実は、「従業員エンゲージメント」に関する尺度は正式には定義されていない。どう判断するかは企業によって異なっている。ただ、「従業員エンゲージメント」の高い従業員には幾つか共通した特徴が見られる。それが、「満足度」、「成長度」、「共感度」だ。

仕事や職場環境に満足し(満足度)、自らの成長を実感でき(成長度)、企業の理念や目標に共感している(共感度)状態である。「従業員エンゲージメント」を向上させる施策を検討するにあたっても、この3つの切り口は外せない。

「従業員エンゲージメント」の向上が求められる理由

近年、なぜ「従業員エンゲージメント」の向上が求められるのか。その理由を探っていく。

●人材流動化への対応

近年はもはや終身雇用が終焉しつつあり、「一社で勤め上げる」という価値観は薄れつつある。転職や再就職が一般化し人材の流動化が加速するとなると、企業側としては優秀な人材を確保し、いかに引き留められるかが存続への鍵となってくる。「従業員エンゲージメント」の高い従業員は、自社への愛着心や貢献意欲が高いだけに退職リスクは低い。ならば、「従業員エンゲージメント」の向上に注力するのは企業として自然な流れと言える。

●個人の価値観の多様化

今、企業では「ミレニアル世代」や「Z世代」と呼ばれる人たちが多数活躍している。この世代の人々は働き方やモチベーションに関して多様な価値観を持ち合わせている。具体的には、働く意味ややりがいを重視するし、入社した会社の社風や仕事が自分にフィットしないとなるとすぐに辞めてしまう人も少なくない。そうした従業員に自発的に働いてもらうためには、一人ひとりの想いを汲んだエンゲージメントの考え方が必要となってくる。

●キャリア自律の促進

現代は、何が起こるのかを先読みするのはかなり難しい時代と言える。そうした状況に企業として柔軟に対応していくためにも重要になってくるのが、従業員のキャリア自律を促進させていくことだ。その点、「従業員エンゲージメント」の高い従業員は、元々仕事に対するモチベーションや成長意欲が高いので、自発的にスキルアップに取り組んでくれる。そうした従業員を一人でも多くすることで、企業としての成長スピードを大きく高めていける。

●リモートワークの普及

コロナ禍は働き方を大きく変えた。リモートワークの普及・定着もその一つだ。結果として、コミュニケーションの非対面化と機会減少が進み、従業員同士のコミュニケーションが極度に少なくなっている。だからと言って、リモートワークを止めるというのも疑問だ。そうではなく、リモートワークを定着させながら「従業員エンゲージメント」を高める取り組みが求められている。

「従業員エンゲージメント」を高めるメリット

「従業員エンゲージメント」を高めると、企業にとってどのようなメリットがもたらされるのかを整理しておこう。

●離職率の低下

退職を考えている従業員は、自分の仕事や経営方針への不満や愚痴をこぼしがちだ。一方、「従業員エンゲージメント」が高い従業員は、自社に対する貢献意欲や信頼度が強く、「この会社でもっと活躍したい」と考えている。そうした帰属意識や愛社精神の高い従業員を増やしていくことで、離職率の低下が見込める。

●顧客満足の向上

「従業員エンゲージメント」が高い職場では、仕事に対する従業員の姿勢が非常に前向きだと言える。提供する製品やサービスにも誇りを持てるし、もっと品質を高めたいという気持ちも強い。それが、結果として顧客満足度の向上をもたらし、企業としての信頼度も高まっていく。

●職場の活性化

「従業員エンゲージメント」を高めると、会社や組織に対する貢献意欲の高い従業員が増える。「どうしたら目標を達成できるか」、「職場をより良くするには何をすべきか」などといった問いかけを従業員にしても、前向きなアイデアや意見が聞ける。また、自分の声に会社が耳を傾けてくれると思えれば、従業員はより生産的に仕事に取り組めるようになる。

●企業イメージ向上

「従業員エンゲージメント」を高めることで企業イメージをアップできる。なぜなら、従業員が業務に自発的に取り組んでくれるので、自社のサービスや製品の質が自ずと向上し、顧客満足度や外部からの評価が高まっていくからだ。企業イメージの向上は、採用活動にも大きな影響をもたらす。

「従業員エンゲージメント」を高める10の施策

では、「従業員エンゲージメント」を高めるためにどのような取り組みをすれば良いのか。具体的な施策を紹介していこう。

●企業理念とビジョンの浸透

従業員が、自社の存在意義に共感できていると「その実現に貢献したい」という気持ちが強まる。それだけに、「従業員エンゲージメント」を高めるには、自社の理念やビジョンを明確にすることが重要だ。ただ、それらを掲げるだけでは意味がない。キックオフミーティングや社内報、トップメッセージなど、さまざまな機会を通じて企業の目指すべき姿を従業員に浸透させ共有を図らなければいけない。


●職場環境の整備

職場環境は、「従業員エンゲージメント」に多大な影響を及ぼす。従業員からすれば、1日の3分の1を過ごす場であるからだ。いかに、従業員一人ひとりの事情や価値観を尊重した多様な働き方ができるかを考えていかないといけない。場合によっては、制度やルールも見直す必要が出てくる。柔軟な考えで対応していくことが求められる。

●公正な人事評価制度の見直し

人事評価が不公正な職場では、従業員は誰も「組織に貢献しよう」とは思わないだろう。それだけに、公平性の高い人事制度を構築していく必要がある。例えば、成果だけでなく、成果に至るプロセスも評価基準に加えるというのも一つのアイデアだ。評価への納得度は、従業員の仕事への意欲を高めてくれるはずである。

●承認と称賛の文化醸成

「自分の存在や能力を認めてくれている」と感じると、人は誰しも嬉しくなるものだ。特に、上司からだと尚更ではないだろうか。働きがいを感じて「従業員エンゲージメント」が一気に高まる。また、従業員の頑張りを「称賛」することも、同様の効果が期待できる。社長賞やMVPなどの社内表彰制度を設ける、称賛ボーナスを付加するのもアイデアだ。

●社内コミュニケーションの活性化

一緒に仕事をしている仲間の人となりを理解したり、気兼ねなく意見を交わしたりすることができると、組織への愛着・親近感を持ちやすくなる。それだけに、社内コミュニケーションを活発化させ、従業員同士の距離感を縮めるようにしたい。例えば、ランチミーティングを定期的に開催する、気軽にやりとりできるチャットツールを導入するのも有効だ。


●マネジメントの質向上

組織の成果を上げるためには、目標の達成に向けてチーム全員が一致団結していけるマネジメント体制を構築していかなければならない。これは、経営者やマネージャーに不可欠なスキルとなってくる。日頃から部下の話を真摯に聞き相手の立場や考え方を踏まえ適切なフィードバックを行う、結論と根拠をセットで考えるロジカルシンキングを実践するなどのアクションは、「従業員マネジメント」の向上につながる。


●ワークライフバランスの改善

有休取得や残業時間の現状を見直して、必要があれば改善策を施す。そういったワークライフバランスの整備にも注力すべきだ。具体的には、勤務時間を個人の裁量で調整できる「フレックスタイム制」、事前に有給休暇の取得日を決めておく「計画的付与」、休日を一日増やす「週休3日制」などの施策が考えられる。無理なく、伸び伸びと働ける職場を構築することで、組織に対する従業員の愛着を醸成していけるだろう。

●キャリア開発の支援

近年、注目されているのが「成長実感」という言葉だ。自身の成長を感じられる職場で働きたいと考えている人々が増えている現れである。そう考えると、従業員の成長を支援するキャリア開発施策を取り入れるのも有効だ。例えば、「キャリアデザイン研修」を実施し、従業員に今後のキャリア設計をさせたり、階層別のOff-JTを手厚くしたりしてみてはどうか。キャリア開発を支援する姿勢を打ち出すことで、従業員の満足度を高めていける。

●ワークエンゲージメントの向上

ワークエンゲージメントとは、仕事に対して前向きな心理状態を意味する。具体的には、「活力」、「熱意」、「没頭」の3要素が揃った状態と言い換えられる。ワークエンゲージメントを高めるためには、従業員の自己効力感を高める取り組みが欠かせない。また、ポジティブなフィードバックを積極的に行うことも効果が高い。

●適切な目標設定

適切な目標設定は、「従業員エンゲージメント」を高めるための有益な仕組みと言える。具体的には、SMARTな目標を設定するようにしたい。すなわち、Specific(具体的)・Measurable(測定可能)・Achievable(達成可能)・Relevant(関連性がある)・Time-bound(期限がある)の5つを兼ね備えた目標を設定する必要がある。また、個人と組織それぞれの目標を連動させることもポイントだ。

「従業員エンゲージメント」向上のポイント

最後に、「従業員エンゲージメント」を向上させるためのポイントを解説していく。

●エンゲージメントサーベイで現状と課題を知る

まずは自社の現状を分析し、課題を把握することだ。特に、組織が拡大していたり、大きな組織改編を行ったりしたという企業では早急に取り組むことをお勧めしたい。組織が大きくなるに従って、組織形態が複雑化するとともに縦割りになりがちだからだ。それでは、従業員は自分の部署が組織の中でどんな役割を担っているのか、自分が手掛けている仕事の意味は何かなどが見えにくくなってしまう。

●社内の制度や風土を見直す

基本的に多様な働き方は、「従業員エンゲージメント」の向上につながる。もし、効果が上がっていないのであれば、思い切って制度や風土を見直すべきだ。ただ、何から手をつけていけば良いのかがわからないと悩むケースもあるのではないだろうか。そうしたときには、従業員満足度調査を行うのも一つのやり方となる。従業員が何に不満を抱いているかが把握できるからだ。

●現場の声に耳を傾ける

ただ単にトップや上司から指示・命令された業務をこなすだけで満足感を得られる従業員は少ない。「従業員エンゲージメント」も上がるはずがない。やはり、従業員一人ひとりの意見やアイデア、現場の声に耳を傾けるボトムアップ型の組織であるべきだ。「自分を認めてもらえている」と感じる従業員は、組織への貢献度も自ずと高くなると言えよう。

まとめ

企業と従業員の関係の土台にあるのは、信頼関係だ。従業員は自分が認められている、自分を信じてもらえると思えば、その期待や信頼に応えようと努力する。そうした従業員が増えていくことで、組織が強くなっていくはずだ。その意味からすると、「従業員エンゲージメント」は従業員が企業に対してどれだけ信頼しているかといった度合いを示すバロメーターとなってくる。

「従業員エンゲージメント」が高まれば、優秀な人材の離脱を防ぐことができ経営戦略や事業戦略を円滑に進めていきやすい。また、仕事に対する従業員の意欲も高まり、業務の質もアップする。さらには、顧客満足度が上がり、企業の業績も拡大するという効果も期待できる。今回さまざまな施策を提示したが、まずは一つを取り組んでみてはいかがだろうか。



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