業績拡大や採用力向上につながるとして、近年健康経営が注目されている。従業員の健康意識を高めるために、取り組みの必要性を感じている人事・労務担当者も多いのではないだろうか。

実際、経済産業省が推進する「健康経営優良法人認定制度」への申請企業数は増加傾向にある。できることなら、自社らしさを活かした独自の取り組みを実施したいと考えるのは自然だ。しかし、最初からユニークな施策を立案するのは容易ではない。まずは、他社の取り組みを把握する必要がある。

そこで本稿では、健康経営に取り組む企業の事例を10選紹介する。味の素やコニカミノルタ、ユニ・チャームなど先進的な企業の取り組みを抜粋した。また、事例から見えてきた取り組みの成功ポイントや手順も解説していく。自社の課題解決のヒントとして活用してほしい。
福利厚生・健康的な食事・社員食堂・社内カフェ・食事委託・健康経営取り組み

健康経営とは? 基本をおさらい

まずは、健康経営の定義を確認しておこう。

●健康経営の定義(経産省の位置づけ)

経済産業省は「健康経営とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義している。

従業員の健康保持・増進に取り組むことで、生産性向上や人材定着、組織の活性化が期待でき、結果として業績や企業価値の向上につながるとされている。少子高齢化による労働力不足が深刻化する日本において、従業員一人ひとりのパフォーマンスを最大化する手段として、近年ますます注目を集めている。

具体的な取り組みとしては、健康診断の実施やストレスチェック、運動プログラムの導入などが挙げられる。

【参考】経済産業省:健康経営

変化の激しい人事トレンド、乗り遅れたままにしていませんか?

HRプロなら、最新の「人的資本経営」から「AI活用」まで、専門機関よる最新調査データや深掘りレポート、会員限定の事例取材記事が無料で読み放題。会員限定メルマガで人事・経営の最新情報を受け取れ、専門家監修のオンライン講座で気軽に人事領域の学習もできます。

10万人以上の人事担当者が利用する日本最大級の人事ポータルを、ぜひ情報収集にお役立てください。

新規会員登録はこちら

●健康経営優良法人認定制度の概要

経済産業省は日本健康会議と共同で、健康経営に積極的な企業を評価する「健康経営優良法人認定制度」を設けている。2017年度に創設されたこの制度は、認定を受けることで、企業イメージ向上や人材確保といった効果が期待できる。

制度には「大規模法人部門」と「中小規模法人部門」があり、特に優れた企業は以下に認定される。

・ホワイト500(大規模法人部門上位500社)
・ブライト500(中小規模法人部門上位500社)

さらに2025年からは、ブライト500に次ぐ優良企業を対象とした「ネクストブライト1000」が新設された。中小企業における健康経営の裾野を広げる狙いがあり、より多くの企業が認定取得を目指せる仕組みとなっている。

【参考】経済産業省:健康経営優良法人認定制度

健康経営に取り組むメリット

健康経営に取り組むメリットについても整理しておこう。

●採用力の強化

健康経営の推進は、「社員を大切にする企業」という印象につながり、採用力の向上に寄与する。リファラル採用においても、働きやすさを実感している従業員は知人を紹介しやすくなる。

●離職防止

健康やメンタルに不調を抱える従業員が多い職場は雰囲気が悪化し、おのずと離職率も高まる。健康的に働ける環境を整えることで、定着率の向上が期待できる。

●生産性向上

健康状態が悪い職場では欠勤が増え、生産性が低下する。これは「アブセンティーズム」と呼ばれる。また、出勤していてもパフォーマンスが低下している状態は「プレゼンティーズム」と呼ばれる。これらを改善することが重要である。

●企業イメージ向上

健康経営を推進することで、企業の信頼性やブランド価値が向上する。特に中小企業にとっては、低コストでのブランディング施策として有効だ。

【関連記事】「健康経営」のポイントは“健康のデータ化”。生産性向上のカギとなる「プレゼンティズム」を解消しよう

健康経営の取り組み事例10選

では、実際にどのような取り組みが効果を上げているのか。先進企業10社の事例を見ていこう。

(1)味の素:セルフケアを通した社員の健康推進

味の素グループは、「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献できるよう、社員の健康維持・増進を支援する」という健康宣言を掲げている。社員が生き生きと働き、イノベーションを創出するためには、人財資産の基盤である社員一人ひとりのWell-beingが何より重要であると考えているためである。

具体的には、健康増進最高責任者を中心に、健康保険組合、産業保健スタッフ、グループ健康推進センター、人事部門、労働組合などの関係部門が連携し、フィジカルヘルスやメンタルヘルスに関する全員面談、ヘルスチェック、健康状態の可視化、健康支援環境の整備などを実施している。

これらの取り組みにより、セルフケアの促進や生産性・ワークエンゲージメントの向上、医療費の削減を目指している。

【参考】味の素:健康経営

(2)コニカミノルタ:メンタルヘルスチェックと改善フォロー

コニカミノルタは、従業員の健康を重要な経営資源と位置づけ、健康経営に取り組んでいる。

具体的には、プレゼンティーズムの改善を目的に、睡眠の質向上や運動習慣の定着を支援する運動介入型プログラムを展開している。また、メンタルヘルス対策として、2013年から年2回、全従業員のメンタル健康状態を測定し、産業医面談や外部EAPによる組織および個人へのフィードバックとフォローを実施している。

その結果、2024年度には最もストレス度の高い職場が前年の3職場からゼロへと改善した。これらの取り組みにより、健康意識や従業員パフォーマンスも向上している。2021年には日経スマートワーク経営調査で5つ星を獲得するなど、社外からも高い評価を受けている。

【参考】コニカミノルタ:健康経営

(3)ユニ・チャーム:女性の健康推進

ユニ・チャームでは、2007年に「健康経営宣言」を制定し、全社的に健康経営を推進している。

代表的な施策の一つが女性の健康支援である。全女性社員(年齢不問)に対し、乳がん・子宮頸がん検診を会社負担で実施しているほか、生理休暇制度を「ソフィ休暇」と命名し、制度の浸透と取得しやすい風土づくりを進めている。

さらに、2024年度からは卵子凍結保管サービスの費用補助も開始し、女性が安心して働き続けられる環境整備に取り組んでいる。これらの活動が評価され、「女性の健康経営®アワード」において推進賞を受賞している。

【参考】ユニ・チャーム サステナビリティレポート2025:社員の健康

(4)イトーキ:自然と健康行動につながるオフィス環境

イトーキでは、健康チェック、ファシリティ整備、運動推奨、卒煙支援、健康情報の提供、感染症対策など、多角的に健康経営を推進している。

本社オフィスには内階段を設置し、自然と身体を動かせる環境を整備している。また、LED照明システムにより、働く人に合わせて色温度や照度を調整可能であるほか、オフィス内には植物を配置し、健康に配慮した空間づくりを行っている。

さらに工場においても、「休憩時にリラックスでき、元気が得られる空間」をコンセプトに、落ち着いた色調のインテリアや緑を取り入れた設計としている。

【参考】イトーキ:ファシリティ

(5)キリンホールディングス:睡眠改善プログラム

キリンホールディングスは、「健康」を重要なパーパスの一つに掲げ、組織パフォーマンスの向上を目的に健康経営を推進している。

重点課題の一つが睡眠の質向上である。外部の睡眠改善プログラム「睡眠偏差値for Biz」や、睡眠状態を可視化するツールを2024年から導入し、従業員の睡眠改善を支援している。

もう一つの重点課題は飲酒習慣の見直しである。適正飲酒に関する研修やテストの実施に加え、グループ会社のプログラムも活用し、意識啓発を行っている。

【参考】健康長寿産業連合会:健康経営先進企業事例集2025キリンホールディングス株式会社(PDF)

(6)三菱地所:カラダ改善コンテスト

三菱地所コミュニティでは、「活力ある職場づくり」を目指し、健康経営を推進している。

代表的な施策として「カラダ改善コンテスト」を実施している。2017年度からグループ各社と合同で、2カ月間にわたりチーム対抗で体脂肪率や筋肉量、歩数などを競い合っている。健康習慣の定着だけでなく、社内コミュニケーションの活性化にもつながっている。

また、朝7時〜8時に出勤する社員へ朝食を無償提供する取り組みも行っている。これらの施策により、がん検診受診率は2020年の73.0%から2022年には88.6%へと向上した。

【参考】三菱地所コミュニティ:健康経営宣言

(7)日清食品:運動×脳年齢検証企画

日清食品グループは、2018年に健康経営宣言を策定し、推進体制を整備した。「からだの健康」「こころの健康」「はたらく環境」の3分野で施策を展開しているが、このうち「からだの健康」で特徴的なのが「運動×脳年齢検証企画」である。

第1回ではApple Watchのアプリを活用し、285名が3カ月間有酸素運動を継続した。脳年齢検査を実施し、運動前後での変化を比較している。第2回ではスマートフォンアプリも併用し、390名が1カ月間取り組んでいる。

【参考】日清食品:健康経営

(8)オムロンヘルスケア:卒煙チャレンジ

オムロンヘルスケアは、「Going for ZERO〜予防医療で世界を健康に」を長期ビジョンに掲げ、健康経営を推進している。

運動・睡眠・メンタルヘルス・食事・喫煙の5項目を重視し、血圧管理の促進や卒煙支援プログラム「卒煙チャレンジ」を実施している。

また、女性の健康課題への理解促進やセルフケア知識の向上にも取り組んでおり、これらの活動が評価され「健康経営優良法人2026(ホワイト500)」に認定されている。

【参考】オムロン:健康経営

(9)山形陸運:健康ウォーキング

山形陸運では、ドライバーの健康リスク対策として、2017年から「健康ウォーキング」を実施している。

全従業員に活動量計を配布し、運動習慣の定着と適正体重の維持を推進している。2025年の実績では、平均歩数5%増の目標を達成した従業員が7名、1日1万歩を3カ月平均で達成した従業員が12名であった。

累計歩数は24.6億歩に達し、地球約43周分に相当する。これらの取り組みにより、「健康経営優良法人」に9年連続で認定され、「ブライト500」にも選出されている。

【参考】山形陸運:R7年度 第4期 健康ウオーキングの取組について

(10)オーエス:腹八分目運動

阪急阪神東宝グループの一員であるオーエスは、ボトムアップ型で健康経営を推進している。

「小さく始めて継続する」という方針のもと、食生活改善のきっかけとして「腹八分目運動」を実施。毎月8日を記念日として設定し、社内イントラネットでの情報発信やポスター掲出を行っている。

さらに、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)の導入や、従業員が自由に交流できるシアタースペースの設置など、健康意識向上につながる環境づくりも進めている。

【参考】ACTION!健康経営|ポータルサイト:認定法人取り組み事例集(中小規模法人部門)オーエス株式会社

健康経営の取り組みを成功させる5つのポイント

取り組み事例10選から見えてきた健康経営の取り組みを成功させる5つのポイントを提示したい。

(1)経営課題に位置付ける

健康経営が自社の経営課題であるとわかれば、従業員の意識も変わるはずだ。そのためにも、人事労務担当者には他社事例や現状分析をもとに、健康経営に取り組む必要性を経営層に理解してもらうための働きかけが求められる。

(2)データを活用する

健康経営に着手・推進するにあたっては、データの活用が欠かせない。従業員の健康状態を的確に把握し課題がどこにあるか、その解決につなげるための施策となっているか、実際に施策を行った結果、従業員の健康状態がどう変わったかを特定・把握するためには、データがベースとなるからだ。

(3)専任の担当者や推進チームを置く

健康経営を推進するのであれば、専任の担当者を配置すべきだ。従業員が多い企業であれば部署、推進チームを設置することも検討したい。中小企業だとなかなか専任担当者を置くのは難しいかもしれないが、その際には健康保険組合や地域産業保健センターなど、外部リソースを有効に活用しよう。

(4)従業員の声やニーズを反映する

施策を立案するにあたっては、従業員の声やニーズを丁寧にヒアリングする必要がある。例えば、アンケートや面談も良い手法だ。健康に関する課題やニーズを把握した上で、従業員のライフステージや業務の特性を考慮し、最適な施策を展開するようにすれば、従業員も主体的に参画してくれるはずだ。

(5)医師や専門家と連携する

産業医や保健師、管理栄養士などの社外の専門家との連携も不可欠となる。専門的な視点・知見を取り入れることで、従業員の健康課題をより的確に分析できると同時に、医学的根拠に基づいた施策が実現可能となる。信頼性の高いアドバイスを得られれば、従業員の安心感・納得度も高まり、施策を受け入れてもらいやすい。

健康経営の取り組みの手順

健康経営を形だけで終わらせないためには、正しい順序で進めることが重要だ。以下の4ステップを押さえておこう。

(1)目的を明確にしてトップから宣言する

まず問うべきは「なぜ自社が健康経営に取り組むのか」だ。採用力の強化が主眼なのか、離職防止なのか、生産性向上なのかによって、優先すべき施策は変わってくる。

目的が定まったら、経営トップが健康宣言を行い、社内外に意思表明する。現場の従業員が取り組みを「本気ごと」として受け止められるかどうかは、トップのコミットメントにかかっている。

(2)推進体制を整える

取り組みを推進する担当者を任命し、人事部門・産業医・健康保険組合が連携できる体制を構築する。従業員規模が大きい企業では、専任の推進チームや健康増進責任者(CHO)の設置も選択肢になる。

中小企業で専任担当者の配置が難しい場合は、地域産業保健センターや協会けんぽなど外部リソースの活用が現実的な解だ。

(3)計画策定と実行

健康診断データやストレスチェックの結果をもとに、自社の健康課題を洗い出すところから始める。課題が明確になれば、優先順位をつけた施策の計画化も進めやすい。

目標は「受診率○%向上」「平均歩数○%増」など数値で設定しておくのが望ましい。最初から大がかりな施策を打つ必要はなく、小さく始めて継続することを意識しよう。

(4)評価・改善

施策を実行したら、定期的に効果を検証する。目標値との乖離はないか、従業員の意識や行動に変化は見られるかを、データとアンケートの両面から確認していく。

一度の施策で成果が出なくても、それ自体が次への手がかりになる。課題を特定して改善を重ねるPDCAサイクルを継続することが、健康経営を組織に根づかせる近道だ。

【関連記事】「健康施策」に向けて人事が直面する3つの課題と2つの成功のヒント

まとめ

健康経営は短期的な取り組みでは成果が出にくく、長期的な視点で継続的に推進する必要がある。そのためには、経営層のコミットメントのもと、人事部門が中心となって推進体制を整備し、現状分析・課題設定・施策実行・効果検証というPDCAサイクルを回していくことが重要だ。

すぐに成果が出なくても、継続することで着実に効果は現れる。自社に合った形で、無理なく健康経営を推進していくようにしたい。

※ 健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!