より良い待遇や環境を求めて転職することが珍しくなくなった昨今、従業員の会社への愛着や貢献意欲を意味する「従業員エンゲージメント」の重要性が高まっている。そんな中で、組織の現状把握と改善に不可欠と言えるのが「エンゲージメントサーベイ」だ。従業員のエンゲージメントを調査することで、職場のどこに課題があるかを客観的な数値として洗い出すことができる。そこで本稿では、「エンゲージメントサーベイ」について概要から目的、効果・メリット、導入手順、活用方法まで詳しく解説していく。
エンゲージメントサーベイ

「エンゲージメントサーベイ」とは

「エンゲージメントサーベイ」とは、従業員の会社に対する思い入れや愛着心、貢献意欲を定量的に測定し、組織の現状と課題を可視化する調査ツールだ。従業員と組織の関係性にフォーカスし、そのつながりの強さを数値化することで、組織の課題改善につなげることができる。

●「エンゲージメント」とは? 「サーベイ」とは?

「エンゲージメント」とは、従業員の会社や仕事に対する愛着心やモチベーションのことだ。仕事への熱意、組織への帰属意識、自発的な業務改善意欲などを含めて「エンゲージメント」と呼ぶ。

一方で「サーベイ」とは、物事の全体像や現状を把握するために行う調査のことを指す。一般的には従業員が自社に対してどのような認識でいるのか、どんな課題を抱いているかを知るために実施し、組織の課題発見や改善に活用する。

●「エンゲージメントサーベイ」が注目される背景

近年、人材の流動化や価値観の多様化が進み、従来の年功序列や終身雇用を前提とした人材マネジメントでは、優秀な人材の確保や定着が難しくなってきている。また、リモートワークの普及により、従業員の心理状態や組織との関係性も見えづらくなっている。そうした中で従業員エンゲージメントを向上することの重要性が高まっている。

さらに、厚生労働省が令和元年(2019年)に発表した労働経済白書によれば、従業員のワークエンゲージメントスコアが高い企業ほど労働生産性が向上していることが分かっている。一方で、米ギャラップ社が2022年に実施した調査によると、日本企業ではエンゲージメントが高い社員の割合がわずか5%で、世界平均23%、OECD加盟国平均20%を大きく下回っているというデータが明らかになった。

そうした状況で、より従業員に忠誠心や愛着心を持ってもらい、意欲をもって仕事に打ち込んでもらわなくては、持続的に成長していけないと危機感を持つ企業が増加しているため、「エンゲージメントサーベイ」が注目を集めるようになっている。

●従業員満足度調査と「エンゲージメントサーベイ」の違い

従業員満足度調査は、単に従業員が会社の制度や労働環境への満足度を測定する調査だ。具体的には、給与額や福利厚生、職場での人間関係など会社が提供するものへの受動的な満足度を測る。それに対し、「エンゲージメントサーベイ」は、従業員の能動的な意欲や愛着度を測定するものである。

従業員満足度がいくら高くても、必ずしも企業全体の生産性や業績にはつながらない。一方で「エンゲージメントサーベイ」のスコアが高ければ、従業員が業務を意欲的に取り組んでいることがわかるため、生産性向上が期待できると見ることができる。

「エンゲージメントサーベイ」の目的

では次に、「エンゲージメントサーベイ」の目的について、3つの視点から解説しよう。

●組織の課題調査・把握

「エンゲージメントサーベイ」を通じて、組織全体の現状や部門ごとの特徴、従業員の意識レベルなどを客観的に把握することができ、課題の特定や改善施策を考える上で役立つ。具体的には、自社のミッション・ビジョン・バリューの浸透度、部門内の人間関係、成長実感などの数値化により、自社の現実と従業員の希望とのギャップが見えてくるのだ。また、定期的に測定することで、施策の効果検証や経年変化の把握もできる。

●人材施策への活用

「エンゲージメントサーベイ」によって得られた調査結果は、人材育成プランの設計や評価制度の改善、職場環境の整備といった人材施策の立案に活用できる。例えば、ある部署でエンゲージメントが低い場合、その原因を分析し、必要な研修プログラムを実施したり、マネジメント方法を改善したりするなどの対策を講じることができる。また、エンゲージメントが高い部門があれば、その部門の特徴を分析し、他部門に施策を展開することもできる。

●生産性向上・売上増加

「エンゲージメントサーベイ」で従業員の意見や傾向を把握し、課題解決やモチベーション向上施策を打っていける。その結果、従業員個々が責任と意欲をもって業務に取り組むようになり、それが企業全体の生産性向上や売上増加などの業績につながる。

「エンゲージメントサーベイ」のメリット・効果

「エンゲージメントサーベイ」によって、組織課題の解決に取り組むことで得られる具体的なメリットを見ていこう。以下が主な5つのメリット・効果だ。

●生産性向上

「エンゲージメントサーベイ」を活用した施策によって社内のエンゲージメントが向上することで、従業員が意欲的に業務に取り組み、より効率的な働き方を追求する。また、チーム内のコミュニケーションも活発になり、情報共有や相互支援が促進される。その結果、創造的な提案や革新的なアイディアが生まれやすくなり、組織全体の生産性が向上する。

●定着率向上

「エンゲージメントサーベイ」を実施することで、従業員のモチベーション低下や不満をいち早く発見することができ、労働環境の問題に対して解決策を見出しやすくなる。例えば、人間関係が問題であれば、コミュニケーションを活発化させる施策を打てる。それによって従業員の会社に対する帰属意識が高まり、離職率低下と定着率向上が期待できる。

●組織改善

「エンゲージメントサーベイ」は、企業の組織風土やカルチャーなどの課題解決にも有効だ。従業員のエンゲージメントを図ることで、組織のビジョンや上層部からのメッセージがどれだけ浸透しているかが把握しやすくなる。従業員と経営層とのビジョンのギャップを可視化し、組織全体の一体感醸成や問題改善に役立てることができるのだ。

●人事トラブルの防止

「エンゲージメントサーベイ」によって従業員の人間関係の不満や懸念事項を早期に把握することで、人事トラブルを未然に防ぐことができる。普段は相談しづらい悩みでも、匿名性が確保されたサーベイであれば回答しやすく、表面化しにくい課題が浮き彫りになる。そのためメンタルヘルスの問題やハラスメントなどの予防にも活用できる。

●採用活動の強化

採用活動にも「エンゲージメントサーベイ」を活用できる。上述したとおり、環境改善によって定着率が向上すれば、採用コストを抑えることができる。それだけでなく、エンゲージメントの高い従業員が自社を推薦することで、リファラル採用の促進を図ることができる。また、サーベイの結果を基に従業員エンゲージメントをより高めていくことで、従業員の口コミなどによって企業の評判が高まり、企業ブランドの向上にもつながり、人材が集まりやすくもなる。

「エンゲージメントサーベイ」を実施する際の注意点

「エンゲージメン・サーベイ」を実施する際には、以下の点に特に注意を払う必要がある。

●目的・理想を明確にする

「エンゲージメントサーベイ」をなぜ実施するのかや、達成したい理想の状態を明確にしておくことが何より重要である。目的に応じて実施内容が変わってくるからだ。単なる調査のための調査で終わらないよう、具体的な活用方針や改善目標を事前に設定し、経営層や管理職層との認識を合わせておく必要がある。目的が不明確なまま進めても、質問設計に一貫性がなかったり、せっかく収集できた結果を有効活用できなかったりする。

●事前に周知・理解を得る

従業員に対して、「エンゲージメントサーベイ」の目的や重要性、結果の活用方法について十分な説明を行うことも、効果的かつ円滑に進行するために大切だ。改善テーマを明確に伝えることで、従業員の理解と協力を得やすくなる。人事評価への反映をしないこと、回答者は匿名で行うこと、結果は経営方針の参考にすることなどを事前にしっかり伝えておく必要がある。

●調査結果はフィードバックする

「エンゲージメントサーベイ」で集計・分析した結果は、必ず従業員にフィードバックし、透明性を保つ必要がある。回答をどう受け取ったか、どう対応していくかといった経営側の意見の共有がない場合、信頼性の低下につながってしまう。回答者の不安を払しょくし、納得感を醸成することが肝要だ。

●継続的に実施する

「エンゲージメントサーベイ」は一回限りで終わらせるのではなく、半年から1年ほどのスパンで定期的に実施することで、より効果が高まる。企業の課題は市場や環境の変化や、実施のタイミングによって随時変わっていくものだからだ。また、従業員の意識変化をモニタリングすることで、施策効果の分析もできる。

「エンゲージメントサーベイ」導入の流れ

実際に「エンゲージメントサーベイ」をどのようにして実施すればいいのか。導入の流れを説明していく。
エンゲージメントサーベイ導入の流れ

(1)目的の検討

初めに導入の目的や期待する効果を明確にし、サーベイの位置づけや活用方針をあらかじめ決めておく。また、実施頻度や対象範囲、予算についても検討が必要だ。

(2)質問項目・実施フロー検討

次に目的に応じた質問項目を設計し、実施手順、回答方式(5段階評価や自由記述など)や分析方法も決めていく。すでに実施中の従業員調査との使い分けや、部門特性に応じた質問の追加なども考慮したい。なお、質問項目例は後述しているので参考にしてほしい。

(3)説明・周知

目的と質問項目が決まったら、従業員に説明・周知を必ず実施し、サーベイの意義や活用方法について理解を促し、協力を仰ぐ。特に、結果の活用方法や個人情報の取り扱いについては明確に説明することが重要となる。

(4)サーベイの実施

設計した実施フローに従って、実際にサーベイを行う。一般的には、メールなどで対象の従業員に一斉に通知し、期限内に回答してもらう流れが多い。実施中は、進捗状況のモニタリングや、回答が遅れている人への催促なども行い回答率が高まる工夫もすると良い。

(5)結果分析・課題の洗い出し

サーベイ実施後は収集したデータを分析し、組織全体の傾向や部門ごとの特徴、強みや課題を洗い出していく。自由記述の回答は、その意図を丁寧に分析することも重要だ。また、複数回実施している場合は前回調査との比較や、他社ベンチマークとの比較なども有効となる。

(6)課題解決に向けた施策検討

分析結果を基に、事前に設定していた目的に応じた具体的な改善施策を検討していく。施策については優先順位をつけて、短期的なものと中長期的なもので整理する。同時に、従業員への分析結果と対応方針の周知も忘れないようにしたい。

(7)施策実施

次に、立案した施策を優先順位や計画に沿って実施する。施策を実施している間は、進捗状況や効果をモニタリングしながら、必要に応じて軌道修正していく。さらに、従業員には施策の効果をフィードバックしてもらうと良いだろう。

(8)サーベイの再実施・分析を繰り返す

「エンゲージメントサーベイ」は一度のみで終わるのではなく、何度も実施することで、より効果的に活用することができる。環境変化や企業の成長に応じて、従業員の意見や問題点は変わっていくものだ。定期的にサーベイを実施することで、新たな課題を早期に発見し、解決していくことができ、また組織の傾向を把握しやすくなる。また、その都度、質問項目や実施方法を見直すことも重要だ。

「エンゲージメントサーベイ」ツールの選び方

「エンゲージメントサーベイ」の種類はさまざまで、目的や実施方法など自社に合ったものを選んでいきたい。ここでは4つの選び方を解説していく。

●目的に合ったツールを選ぶ

組織の規模や業態、予算などを考慮したうえで、まず何をするために「エンゲージメントサーベイ」を実施するのかでツールを選択していく。シンプルな調査機能のみを求める場合と、詳細な分析や改善提案までを求める場合では、使うツールも変わってくる。単なる現状把握なのか、特定の課題を解決するためなのかを明確にして適したツールを選んでいきたい。

●視認性、操作性から選ぶ

従業員が回答しやすいユーザーインターフェースであるかや、結果を分析しやすい機能があるかも重要なポイントだ。直感的に操作できれば回答率は高まる。また「エンゲージメントサーベイ」はデータ収集のためではなく、あくまでそのデータを企業の成長に役立てるためのものである。そのため、サーベイの結果が見やすく、組織の状態をより細かく視認しやすいツールを選ぶと良い。

●価格から選ぶ

「エンゲージメントサーベイ」を価格で選ぶ上では、導入コストだけでなく、運用コストや保守費用も含めた総合的な費用で検討するようにしたい。例えば、従業員数に応じた従量課金型か、固定料金型かなど、料金体系の違いも重要なポイントとなる。あるいは、オプション機能の追加料金や、コンサルティングの費用なども考慮する必要がある。

●サポート体制から選ぶ

導入時のサポート体制や、運用中の技術的サポート、結果分析の支援やコンサルティングなど、サポート体制の厚みで選ぶのも一つの手だ。特に初めて「エンゲージメントサーベイ」を導入する場合には、充実したサポート体制があるツールを選択することで、スムーズかつ効果的に運用できる。

「エンゲージメントサーベイ」の質問項目

実際に「エンゲージメントサーベイ」を進めていくために、どのような質問項目を設計したら良いのだろうか。その考え方と具体例を解説していく。

●質問項目の考え方

「エンゲージメントサーベイ」の質問設計において最も重要なのは、表層的な満足度調査に終わらせないことだ。組織の成長と改善に向けて、本質的な課題を発見するための網羅的なデータを収集できるかが求められる。

「従業員の満足度のみ」や「職場環境のみ」といった単一のテーマに関する質問をするだけでは、部分的な分析に留まってしまう。例えば、「仕事への熱意や働きがい」、「会社への帰属意識」、「職場環境や人間関係」など複数の観点から質問を設計するなどして、包括的に現状を把握できるようにしなければならない。マルチアングルの視点があってこそ、実効性のある改善策を見出せる。

●質問項目の具体例

具体的な質問項目は以下のようなものがある。

【仕事への熱意】
・自分の仕事にやりがいを感じている
・毎日、意欲的に仕事に取り組んでいる
・自分の能力を十分に発揮できている
・自分は会社に貢献できていると感じる
・自分の強みを活かせる仕事を任されている

【成長・キャリア開発】
・自分の将来のキャリアパスが明確に見えている
・上司は自分のキャリア開発に関心を持ってくれている
・社内で学びや成長の機会が十分に提供されている
・チャレンジングな仕事に挑戦する機会がある
・専門性を高められる環境が整っている

【意思決定・権限】
・自分の裁量で判断・決定できる範囲が適切である
・新しいアイディアや提案を出しやすい環境である
・業務改善の提案が積極的に採用されている
・重要な意思決定のプロセスが透明である
・自分の意見や提案が尊重されている

【会社への帰属意識】
・会社の理念や目標に共感している
・この会社で長く働きたいと思う
・会社の成長に貢献したいと思う
・会社の将来性に期待を持っている
・自社の強みや市場での位置づけを理解している

【職場環境・人間関係】
・上司は適切なフィードバックをくれる
・チーム内のコミュニケーションは良好である
・必要な情報共有がなされている
・社内の制度や報酬は公平だと感じる
・多様な価値観や働き方を受け入れる雰囲気がある

【組織の革新性】
・組織は変化や新しい取り組みに積極的である
・失敗を恐れずチャレンジできる文化がある
・業界の変化に対して素早く適応できている
・イノベーションを促進する仕組みが整っている
・部門を越えた協力体制が築けている

【上層部への信頼】
・経営陣の意思決定や判断に信頼を感じる
・会社の方向性が明確に示されている
・経営陣は従業員の声に耳を傾けている
・組織の課題に対して適切な対応がなされている
・経営陣が率先垂範している

【ワークライフバランス】
・仕事と私生活のバランスが取れている
・適切な休暇取得ができている
・残業時間は適切にコントロールされている
・柔軟な働き方を選択できる
・心身ともに健康的に働ける環境が整っている

「エンゲージメントサーベイ」の活用事例

実際に「エンゲージメントサーベイ」を活用して成果を生み出している企業の事例を紹介しよう。

●ワークスアプリケーションズ

ワークスアプリケーションズは、2020年から「エンゲージメントサーベイ」を導入し、今では東京、シンガポール、上海の全従業員を対象に毎月実施している。その目的は、バックオフィスからも支援して、社員が活躍できる環境を作り出すためだ。過去には事業再建の一環で「エンゲージメントサーベイ」を活用し、社員の士気向上と組織改革を推進した。具体的には、「エンゲージメントサーベイ」の結果を基に、社員の意見を反映した人事施策を実施し、経営戦略の浸透と社員が前向きにチャレンジできる環境の整備を行った結果、黒字化に貢献。社員の声に耳を傾け、タイムリーに人事施策を企画・実行した成功事例と言える。

●アフラック生命保険

アフラック生命保険は、人財マネジメント戦略の一環として、「エンゲージメントサーベイ」と人的資本ダッシュボードを活用し、データに基づく迅速な意思決定と人的資本の可視化を実現している。同社は、Microsoft Power BIやQualtrics社のテクノロジーを活用し、全社員の意識や意見を即座に反映させる仕組みを導入。これにより、役員から現場までのスムーズな意思決定が可能となり、人財テクノロジー課が各部門を横断的にサポートする体制を整えた。

●オムロン

オムロンでは、2016年度から定期的に『VOICE』と呼ばれる「エンゲージメントサーベイ」を実施。従業員の意見や要望を収集し、職場環境の改善や社員のキャリア支援に役立てている。2022年度の調査では20,603名(回答率91%)の社員が回答するなど、グローバルに広がる多数の社員の意見を吸い上げ、その結果を基に、各部門が業務効率性とパフォーマンスマネジメントにおける具体的な課題解決策を策定し、従業員の満足度向上や生産性向上につなげている。

まとめ

改めて強調したいのは、「エンゲージメントサーベイ」は単なる従業員満足度を測るものではなく、組織の持続的な成長を実現するためのツールであるという点だ。ただ調査をするだけでは意味がなく、結果を適切に分析し、具体的な改善施策に結びつけること、継続的なPDCAサイクルを回すことが重要である。効果的に実施・運用することで、生産性向上や人材定着、組織改善など、多面的な効果が期待できるのだ。

変化の激しい現代においては、従業員エンゲージメントの向上は、企業の競争力強化に直結する。人事担当者としては「エンゲージメントサーベイ」を戦略的に活用し、従業員と組織がともに成長できる組織づくりを目指してもらいたい。

よくある質問

●「エンゲージメントサーベイ」のメリットと効果は?

「エンゲージメントサーベイ」を実施することによって、組織の課題発見や改善を図ることができる。具体的には以下のようなメリットや効果が得られる。

・生産性向上
・定着率向上
・組織改善
・人事トラブルの防止
・採用活動の強化
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