今は大転職時代で、働き先を自由に選べることが当たり前になっています。スタートアップはさらに人材の流動性が高く、経営目線では中期的な人材開発投資をしづらい環境にあります。
大胆に投資を行うためにも、長く所属をしてもらう必要があります。そのために所属するベネフィットを従業員へ継続的に提供し、企業と従業員の健全な関係性を維持することを、人事としてとても大事にしています。
たとえば当社の場合、「本当はエンタメの仕事に挑戦したかったが機会に恵まれず、未経験だが改めて挑戦してみたい」という社員が入社してくることが多くあります。彼らにとって当社で働く動機は、エンタメのビジネス開発という仕事をやり遂げられるようになることです。その動機を維持してもらうためには、成長機会を提供し、成長を実感してもらう支援が欠かせません。
企業側が健全な価値提供を続けているかをしっかりモニタリングし、健全な関係性を維持し続けること――そこにこだわりを持って取り組んでいます。
社員に寄り添うというのは、人事として一番大事にしている考え方です。特例子会社の社長を経験した時に、強くそう思いました。障害のある方含め、様々な社員のもとJTBグループは成り立っています。3年間、特例子会社の代表として、多くのユニークな社員と接するなかで、様々な人材に活躍してほしいと思うようになりました。色んな人材に活躍してもらう、誇りに思ってもらうには、もっと現場を知らないといけないですし、社員に寄り添った支援でないと、社員は付いてきませんよね。
「信頼」という言葉をすごく大事にしています。人事は、当社で言えば現場のエンジニア、役員、学生など不特定多数の人と仕事をします。ですので、そういった方たちからの信頼を得られるように、当たり前のことを当たり前にやるというのは、いつも心がけています。
信頼をなくしてしまうと、それを取り戻すのは大変じゃないですか。それに人事というのは、信頼で成り立っていると思っています。チームのスローガンも「Trust」を掲げていて、社内で一番信頼される組織を目指して、人事メンバー全員で意識しています。
例えば、採用に協力してくれるエンジニア社員に採用戦略の説明をする際も、その資料がわかりやすく伝わるようになっているか、細かいクオリティが担保できているか。ミーティングをする場合は、アジェンダをきちんと示して意味のあるミーティング、面談になっているか。どれも当たり前のことですが、この当たり前の意識が信頼に繋がると思っています。
信頼という意味では、仕事だけの関係にならないように気をつけています。一緒に仕事をする人たちに積極的に声をかけて、仲良くなることで関係値が強くなったほうが、仕事がしやすいじゃないですか。人事は社内を巻き込む仕事がかなり多いので、信頼を積み上げていく行動が大事だと思っています。
誠意と誇りを持って仕事をすることと、仕事を楽しむことを大切にしています。これは、私自身が仕事を進める上で大切にしている姿勢であるのと同時に、社員がそのようなスタンスで仕事と向き合えるように、人事として環境を整えるという意味合いでもあります。
仕事は楽しいことばかりではないですし、どちらかと言うと楽しくないことのほうが多いかもしれません。だからこそ、楽しんだほうが絶対いいと思うんです。楽しむというのは、プロセスや成果でもいいし、自己成長やキャリアの文脈でもいいと思います。
仕事を楽しむためには、それが持つ意義や意味を再定義することが重要だと考えます。「言われるままにただ石を積み上げているのか、多くの人が祈れる大聖堂をつくっているのか」という有名な石工の寓話がありますが、これって正に仕事の意義や意味の定義の話だと思うんですよね。仕事のほとんどは、与えられたもの、アサインされるものじゃないですか。それにどういう意義や意味があるのか、きちんと自分で再定義することが重要なのだと思います。それを一人ひとりが実現できる環境をつくっていくのも人事の役割だと捉えています。
これは、人事部門のみなさんにもよく伝えているのですが、「アカウンタビリティ」という言葉を一番大事にしています。私たちは社員を評価して配置する業務にあたっていますが、いわば社員の会社人生のターニングポイントに触れているわけです。
そういう意味では、社員に対して、人事部門としてきちんと対話をして人事部としての考えを伝える、説明する責任があると思っています。人的資本戦略もそうです。経営や株主、社員などステークホルダーへの説明責任が人事部にはあります。言葉を尽くして、きちんとストーリーで伝えていく。これを私が体現してメンバーに見せていくという意味で、人事部長は社内外の場でスピーチしたり、会議等で説明する機会が多いのですが、原稿は作りません。自分の言葉で語ることが説得力、信頼感につながりますので、例えば資料をただ読み上げるということもしません。全ては説得力、信頼感につながる説明責任を人事として果たすための拘りでもあります。
採用担当は企業側の人間でもあると同時に、候補者にとっては企業と接する際の入口の人でもあります。会社の事業やカルチャーを発信する機会が多い分、会社にとっても、候補者にとっても誠実でありたいなと常に思っています。そして、人事である前に、一人の人間として、インターンシップや面接で学生と本音で話せるような関係構築というのは日々大事にもしています。
人事はあくまで事業成長のための役割であることは強く意識しています。よくメンバーにも伝えていますが、事業を正しく理解し、事業の解像度を高く持つことが大事です。そして、事業責任者と、事業の具体的なテーマについて対等にディスカッションしていける存在で常にあり続けないといけないですし、人事組織のみんなにもそれを期待しています。
もう1つは、一見相反するかもしれないのですが、人事ならではの切り口の貢献であったり、人事しかわからない角度での意見であったり、そのような介在価値も大事にしています。人・組織に関する専門的な知見を活かして、事業的な意識決定に反映させていくのも人事独自の貢献です。どういう事業戦略を、どんなアサインフォーメーションで実行していくのかみたいなところは、人事的な意思決定も混ざっていくと思います。そのような人事的な観点から正しい意思決定を織り込んで、事業成長させることも人事としては大切にしています。
2年後、3年後に効果が出る人事施策もあるわけで、長い時間軸で物事を見ないといけません。ここの観点はなかなか事業部側で持つことは難しいと思うので、私たち人事が介在価値を発揮できるところではないでしょうか。事業部目線と人事目線の両軸で社内に価値提供していくというのは、人事としてかなりこだわっています。
候補者にとっても、自社にとっても中長期視点でいいご縁になっているかは、採用に携わる上で大事にしています。
スキルセットがすごくマッチしていて、短期で見るとすごく欲しい人材ではあるのですが、中長期で見た時にはどうか。本当にその人のやりたいことが私たちの会社で発見できるのか。3年後、5年後を見据えた時に、継続的に活躍していただけるのか。候補者の方に魅力的なポジションを今後用意できるのか。そのようなことは、採用を進めていくうえでかなり考えています。
それらを重視して結果的に当社ではないほうがいい場合は伝えることもありますし、逆に辞退しようとしている候補者に中長期の縁を感じた際は、絶対来てほしいという思いをぶつけています。
シンプルになりますが、「勘違いをしない」ということです。人事の仕事は、人の情報を目にする機会が多いので偉くなった気分になってしまう恐れがあります。人事は、あくまで経営と社員のつなぎ役なんです。経営の考えをしっかり社員に伝える。逆に社員の声もしっかり経営に伝える。経営目線と現場目線の両方を持つことが非常に重要だと思っています。
だからこそ人事の仕事を私物化してはいけません。人事は社員のためや会社の成長のためにあるわけです。メンバーにも、社員のため、会社のために汗をかいて、工夫するように伝えています。そうやっていくと、自然と人事に情報が入ってくるわけですよ。「こういうことに困っている」「これはどうしたらいいか」というような相談が来る、開かれた人事というのを大事にし続けたいですね。
人事制度は運用が肝心だと思っています。もちろん設計も重要ですが、運用は日々やって来るもの。その運用において大事にしているのが、私のこれまでの経験をふまえて考えた人事運用の流儀「ABCDE」です。まずAというのが「Achievable(達成可能な)」。運用するからには、必ずやりきりたいと思っています。達成すれば、チームとしても自信がついていきます。
Bは「Balance(バランス)」。論理と感情、理論と実践、対話と方針決め、社内と社外への情報取得など、運用においてはこのようなバランスが大事だと思っています。
Cは「Challenge(挑戦)」です。リーダーとしてメンバーにチャレンジしている姿を見せるのはもちろんのこと、社員に対しても人事部として挑戦する姿を示す。それによって、社員もチャレンジしていく循環が生まれると思っています。
続いてDが「Deliverables(成果物)」。人事としては「あれをやりました」「これをやりました」というように、やるだけで終わっては意味がありません。成果として、何を残したかが大事です。数値でも人事が語ることで、社員に説得力を示すことができるのではないでしょうか。
最後のEは「engagement(エンゲージメント)」です。エンゲージメントは、人事に対する総合偏差値だと思っています。言わば、色んな人事制度が評価されるわけなので、スコアは気にしないといけません。また、社員の働きがいの高さを表す指標でもあるので、人事領域において非常に注力していく必要がある部分だと思っています。このように最終的にエンゲージメントにつながる人事運用の流儀「ABCDE」というのを大事にしていますし、よくメンバーにも伝えています。