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「懲戒処分」とは
「懲戒処分」とは、勤務態度不良(無断欠勤や相次ぐ遅刻)、各種ハラスメント、犯罪など、職務規律違反や企業秩序を乱す行為があった従業員に対し、会社が実施する処分・制裁罰である。●「懲戒処分」の目的
労働者には、円滑な組織運営のために企業が定めた各種ルール・秩序を遵守することが求められる。これに違反するような行為、問題のある行動を起こした労働者に制裁を加えることで、職場規律・企業秩序を維持しようとするのが「懲戒処分」の目的であり、法令でも認められている制度である。●「懲戒処分」と法律の関係
労働基準法第89条は、常時10名以上の労働者を使用する企業に就業規則の作成・届け出を義務づけ、制裁(懲戒処分)については「その種類及び程度に関する事項」を就業規則に盛り込まなければならないとしている。逆に言えば「就業規則に記載がなければ『懲戒処分』は行えない」ということになる。また労働契約法第15条では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には「懲戒処分」が無効になると記されている。●「懲戒免職」や「懲戒解雇」との違い
問題行動を起こした公務員を失職させる「懲戒免職」は、国家公務員法第82条や地方公務員法第29条で定められている処罰だ。い一方で「懲戒解雇」は民間企業の従業員が対象で、この処分を言い渡された従業員は会社を辞めなければならない。「懲戒免職」、「懲戒解雇」とも、「懲戒処分」としては最も重い制裁である。「懲戒処分」の種類(レベル別)
就業規則では、どのような行為がどのような「懲戒処分」の対象となるかを定めておくことが重要だ。処分の種類・レベルは会社によって異なるが、以下のような6種類(6段階)となっていることが一般的である。
●戒告・けん責
文書または口頭による厳重注意が「戒告」で、業務上のミスなど軽微な問題行為が対象となり、処分としては最も軽度なものと言える。厳重注意に加えて“始末書”の提出を求めるのが「けん責」だ。対象となった従業員は、ミスやトラブルが発生した原因・経緯、反省・謝罪、今後の防止策などを盛り込んだ始末書を作成し、上司に提出することになる。●減給
賃金から一定額を差し引くのが「減給」だ。ただし労働基準法第91条では「1回の減給額は平均賃金の1日分の半額を超えてはならない」、「減給の総額が1賃金支払い期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と定められている。●出勤停止
従業員に一定期間の就労を禁止するのが「出勤停止」だ。出勤停止期間は無給となり、また勤続年数に参入されないことも多いため、対象者が被る経済的な不利益は大きく、「減給」より重い処分と言える。●降格
重大な規律違反や度重なる問題行動の結果、人を指導・監督する立場にない、チームを率いるのにふさわしくない、などと判断されれば、役職や職位を引き下げる「降格」処分が行われることがある。給与計算の基準となるグレードも引き下げられ、役職手当もなくなるため、賃金が下がることとなる。●諭旨解雇(諭旨退職)
いきなり解雇するのではなく、自主的に退職するよう勧告するのが「諭旨解雇(諭旨退職)」だ。解雇が妥当ではあるが、深く反省しており、情状酌量の余地もある場合に退職届提出の機会を与える、という措置で、退職届が提出されれば自己都合による退職扱い、退職届の提出がなければ後述の「懲戒解雇」となる。●懲戒解雇
労働者を一方的に退職させる(雇用契約を一方的に解除する)のが「懲戒解雇」だ。通常、従業員の解雇にあたって雇用主は、30日前までに予告するか、または解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払う義務を負う。だが労働基準法第20条にある「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」に該当する「懲戒解雇」は、予告する必要がないとされている。就業規則に、「懲戒解雇」の場合は退職金が不支給または減額となると規定されていることも多く、また再就職が困難になることも考えられるため、従業員にとっては最も不利益が大きく、最も重い「懲戒処分」と言える。「懲戒処分」の対象となる代表的な事案例
「懲戒処分」の対象となり得る行為やトラブルにはどんなものがあるのか、主な例を解説していきたい。●勤務態度不良
無断欠勤、遅刻・早退、私用による外出などが該当する。1回の無断欠勤や遅刻に対していきなり処罰を与えるのではなく、まずは注意・指導を行い、改善がなければ正式に「懲戒処分」の対象とする、といった手順が望ましい。そのため、勤怠状況や注意・指導した回数などを正確に記録・管理しておくべきである。●情報漏洩
業務を通じて知り得た情報や、社外に知られてはならない機密情報などを他者に漏らすことも「懲戒処分」の対象となる。単に「就業規則に基づく社内での処分」にとどまらず、個人情報保護法違反に対する刑事罰や損害賠償など、影響の大きな問題行動と言える。たとえ誰かに情報が伝わらなかったとしても、情報が記載された書類やデータを収めた記録メディアを社外に持ち出すだけで処分対象となるケースも考えられる。●不正アクセス・改ざん行為
社外からだけでなく、社内とその周辺の人物(業務委託先など)が「他人のパスワードを用い、閲覧権限のないシステムに不正アクセスしてデータを改ざんする」といった事例もあり得る。情報漏洩や損害発生のリスクもあるため「懲戒処分」の対象としておきたい行為である。●業務上の過失
当然なすべき注意義務を怠って会社に損害を与えてしまう「過失」も「懲戒処分」の対象だ。発生状況(あり得ないほどの不注意があったかどうかなど)、損害の大きさ、被害者の有無などによって処分の重さは変わる。故意性が認められれば、当然、単なる不注意による過失より重い処分になることが考えられる。●ハラスメント行為
近年、相手に対する“嫌がらせ”や不快な言動によって就業環境を悪化させる行為、すなわちセクシャルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメントなどが社会問題化し、これらが「懲戒処分」の対象となることを就業規則に明記する企業が増えている。いずれも被害者が存在し、犯罪や民事裁判、被害者の離職(最悪の場合は自殺)などに発展するリスクもあることから、迅速かつ慎重に証拠・証言を集め、事実認定を進める必要がある。またハラスメントを“行なった側”にその意識が見られないことも多く、「懲戒処分」に加えて再発防止策の策定、研修などを通じた再教育、関係者の配置転換などもセットで考えるべき事案と言える。
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●横領・着服
業務上横領や着服、詐取などはれっきとした犯罪であり、最低でも「諭旨解雇」、多くの場合は「懲戒解雇」の対象となる。これら「懲戒処分」だけでなく、刑事告発・告訴の手続きを進める必要も生じるだろう。●私生活における犯罪行為
私生活(就業時間外)での犯罪行為も「懲戒処分」の対象となる。「本人が罪を認めずに裁判で争うことになった」、「運送会社のドライバーが自家用車で暴走し、会社の名誉を傷つけた」など、さまざまなケースが考えられるため、処分の手続きや重さなど就業規則の記載内容については、弁護士と相談しながら進めることが望ましいだろう。●その他の社内規定違反
転勤・転属の拒否、社内手続きの無視、無許可でのアルバイト、虚偽報告、会社備品の私的流用……など、「懲戒処分」の対象となり得る事例や問題行為は多数存在する。対象行為、その内容、処分の妥当性、解釈の幅などに留意しながら就業規則への記載方法を考えたい。「懲戒処分」のための手続き
「懲戒処分」に関しては、その対象となる行為や処罰の重さに加え、処分を実施する際の手続きについても就業規則に記載しておくべきである。懲戒委員会を設置したうえで、処分が必要か、どの程度の処罰が妥当かなどを判断することが一般的なので、懲戒委員会の人数や人選、判断手順などを定めておくといいだろう。決められた手続き・手順を無視した「懲戒処分」は無効とされることがあるため注意が必要だ。(1)事実関係の調査
まずは問題が発生した時期、関係者、状況などを客観的に把握することが第一歩だ。懲戒委員会により、当事者および周囲(上司や同僚)にヒアリングを実施し、物的証拠、資料、証言を徹底的に集めなければならない。ハラスメントなど被害者が存在する事案ではプライバシーに対する配慮が、また犯罪が疑われるケースでは弁護士などとの連携も必要となるだろう。(2)処分の必要性・妥当性の検討
就業規則に基づき、また会社・周囲・社会への影響の大きさ、情状酌量の余地などを勘案して、処分が必要かどうか、どの程度の処分が妥当かを検討する。(3)本人への弁明機会の付与
対象となる従業員に処分の理由や内容を告知したうえで弁明の機会を与える。この手順を抜きにして一方的に「懲戒処分」を実施すると、処分が無効となる可能性がある。証拠・証言・客観的資料などを提示したうえで、直接弁明する場を設けるか、あるいは弁明書の提出を求めることになる。(4)「懲戒処分」内容の決定
調査結果、違法性、故意性の有無、損害や影響の大きさ、対象者の勤務状況や過去の指導歴、本人の弁明などを踏まえたうえで、「懲戒処分」の最終的な内容を決定する。(5)「懲戒処分」の通知
「懲戒処分」の内容などをまとめた懲戒処分通知書を作成し、対象者に通知する。内容証明郵便など記録が残る方法がベターだ。「懲戒処分」の対象者の氏名、対象となった行為、処分内容・処罰の重さなどについて、どの程度まで社内に公表するかは慎重に検討したい。公表は、社内秩序の維持、他の従業員に対する意識喚起と再発防止につながる反面、個人情報の取り扱いや被害者のプライバシーといった問題も絡むため注意が必要である。
(6)処分の履行・処分内容の記録
「懲戒処分」の検討過程、実施・履行した事実、処分内容などは記録として残しておくべきである。「懲戒処分」を実施する際に押さえておくべきポイント
「懲戒処分」を実施するうえで、注意したい・把握しておきたいポイントを挙げていく。●「懲戒処分」における7つの原則とは?
まず、「懲戒処分」を実施する際に注意するべき7つの原則を紹介しておこう。(1)罪刑法定主義の原則
前述の通り「懲戒処分」の対象となる行為、処分の種類・内容は就業規則に記載しなければならない(労働基準法第89条)。経営者の主観で処分を実施することは許されず、その根拠の周知が必要となるのである。
(2)適正手続の原則
事実関係を充分に調査して客観的な証拠を収集し、本人には弁明の機会を与えなければならない。また懲罰委員会の設置が就業規則に明記されていれば、その手続きも遵守しなければならない。
(3)合理性・相当性の原則
労働契約法第15条では「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合、その処分は無効とすることが定められている。事案の背景・経緯、動機・目的、方法、頻度、結果の重大性、過去の指導歴や反省の程度、情状酌量の余地などを考慮して処分内容を決定し、必要のない処分・重すぎる処分を避けるべきである。
(4)平等取り扱いの原則
前例や、他の事案に対する処分とのバランスを考慮しなければならない。優秀な社員の問題行動を「これくらなら」と見過ごすのではなく、誰に対しても、常に毅然とした対応をとることが重要である。
(5)個人責任の原則
個人の行為に対して連帯責任を負わせることはできない。
(6)二重処分禁止の原則
同一の事由に対して2回以上の処分を科すことはできない。事実関係の調査が終了するまで自宅待機(無給)を命じた場合、その命令自体が「懲戒処分」と解釈される可能性があるため注意が必要である。
(7)効力不遡及の原則
新たに処分の対象となる行為を定めた場合、その規定は制定後に発生した事案にのみ効力を有し、制定前に遡って処分することはできない。社会情勢の変化などによって処分の対象とするべき行為は多様化しているため、定期的に懲戒事項を見直すことが肝要である。
懲戒処分は「7つの原則」に要注意!
●被害者のプライバシーや本人の名誉に配慮する
セクシャルハラスメントに関する事案などでは、被害者のプライバシーを尊重しつつ、慎重に事実確認を進めなければならない。また「懲戒処分」の決定・公表においては、事案の重大性を考慮しながらも、処分対象者の名誉を毀損しないよう、誰に対し、どの程度まで公表するか、慎重に判断すべきである。●処分後のフォロー体制を整える
「懲戒処分」の内容が軽度であっても、処分を受けたという事実は残り、今後の人事評価などに影響を及ぼす可能性がある。また「懲戒処分」を機に転職を考え始める対象者もいるだろう。そうした点を踏まえ、上司からの指導、再発防止のための教育、配置転換、引き止めといった取り組みを進めるべきである。転職・離職、「諭旨解雇」による自己都合退職、「懲戒解雇」など、事態の推移と処分の内容によっては、退職金の計算・支払いや失業保険に関する手続きなどの必要性が生じることもある。労務関係の部署との連携は必須である。
まとめ~「懲戒処分」のルール制定と運用には繊細さが求められる
「懲戒処分」は、その内容や処分決定のための手続きを就業規則に明記し、従業員に周知しておかなくてはならない。また処分の対象となる行為や処罰の重さなどについては、そもそも処罰が必要かどうか、社会通念上相当な処罰かどうかなどを考慮しておく必要があり、時代や社会情勢に応じて各種規定を随時見直すことも求められる。プライバシーに対する配慮も重要だ。「懲戒処分」について労働組合と協議することが協約で定められていることもある。また人事評価への影響、退職・解雇にともなう手続き、再発防止のための研修といった事後の取り組みを考えれば、現場の上司、メンター、人材教育やコンプライアンスに関わる部門、労務関係の部署などと綿密に連携しなければならない。
こうした点を考慮しつつ、企業秩序の維持や問題のある従業員の行動改善など、「懲戒処分」に期待できる効果が最大限に発揮されるルール制定と運用を進めたいものである。
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よくある質問
●「懲戒処分」とクビは同じ?
「懲戒処分」とクビは同じではない。「懲戒処分」は戒告から懲戒解雇まで段階的な処分の総称で、クビ(解雇)は、その中の最も重い処分にあたる。●「懲戒処分」の重い順は?
「懲戒処分」は一般的に以下のような6種類(6段階)となっている。軽い順から
・戒告/けん責
・減給
・出勤停止
・降格
・諭旨解雇
・懲戒解雇
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