「解雇」という言葉はよく聞かれるが、「普通解雇」、「整理解雇」、「諭旨解雇」、「懲戒解雇」など、解雇にもいくつかの種類があることをご存じだろうか。また、「諭旨解雇」と「諭旨退職」のように、似ているが使われ方が異なる用語もある。本稿では「諭旨解雇」について、他の懲戒や解雇との相違点、諭旨解雇の事例や手続きの流れ、そして、退職金や失業保険への影響について解説する。
「諭旨解雇(ゆしかいこ)」の意味や懲戒解雇との違いとは? 退職金や失業保険、転職時の影響も解説

「諭旨解雇」の意味や読み方、「諭旨退職」との違い

「諭旨解雇」は「ゆしかいこ」と読み、労働者(従業員)が解雇相当の違反を犯した際に、使用者(企業)が行う懲戒処分の一種である。「諭旨」とは、「趣旨や理由を諭し、告げる」という意味であり、「諭旨解雇」とは企業側が従業員に解雇の理由を告げ、両者納得の上で従業員に退職届の提出を勧告するものだ。企業による強制的な処分ではなく、従業員が受け入れたうえで行う解雇であり、退職金も全額もしくは一部支給されるため、「懲戒解雇」よりも寛大な措置とされている。

「諭旨解雇」の基準に関し、労働基準法による定めは特にない。「諭旨解雇」は各社の就業規則や労働契約書に則って勧告するため、事前に規定を作成しておく必要がある。就業規則にない理由での「諭旨解雇」の勧告や、対象者に弁明の機会を与えない、または関係者への聞き取りを行わない場合の「諭旨解雇」の勧告は「懲戒権の濫用」とみなされ、裁判等で解雇無効の判決が下りる場合もあるため注意したい。

●「諭旨退職」との違い

「諭旨解雇」と混同しがちな用語に「諭旨退職」がある。これら2つの違いは次のとおりである。

【諭旨解雇】
従業員側に退職届を提出させ、「解雇手続き」を行う。解雇予告から退職日までが30日に満たない場合は、その分の解雇予告手当が対象者へ支払われる。
【諭旨退職】
従業員に自発的な退職届の提出を促し、「退職手続き」を行う。解雇予告手当はない。

処分の重さとしては、懲戒解雇>諭旨解雇>諭旨退職の順である。

「諭旨解雇」とその他懲戒、解雇との違い

「諭旨解雇」がどのようなものかを解説したが、その他の懲戒、解雇との違いについても確認しておこう。

●「懲戒」の7種類

懲戒処分は大きく分けて7種類あり、軽い処分の方から以下の順となっている。

(1)戒告
(2)譴責
(3)減給
(4)出勤停止
(5)降格
(6)諭旨解雇
(7)懲戒解雇

なお、労働契約法第3章第15条によると、懲戒内容が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その懲戒は無効とするとされている。また、懲戒の内容を決定する際は、就業規則等で規定されていない処分を科すことはできない。そのため、懲戒処分を行う際は、その内容が妥当なものかをよく検討すべきである。

では、懲戒処分の内容について一つずつ確認していく。

(1)戒告(かいこく)
従業員の過失や失態に対し、将来に向けて戒めを言いわたす懲戒処分である。口頭での反省が求められる。

(2)譴責(けんせき)
戒告と同様、過失や失態に対し、将来に向けて戒める懲戒処分であるが、口頭での反省のみではなく「始末書」の提出が求められる。

(3)減給(げんきゅう)
従業員が受け取る権利のある賃金から一定の額を一方的に差し引く処分のことである。減給の場合は「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」ことが労働基準法91条で定められている。

(4)出勤停止(しゅっきんていし)
7日~10日程度の一定期間、就労を禁止する処分のことである。出勤停止期間には法令による制限等はない。「懲戒休職」「停職」ともいわれる。

就業規則に規定がない限り、出勤停止期間は労務の提供がないため賃金は発生しない。

(5)降格(こうかく)
降格とは、職位の解任もしくは引き下げのことである。給与等級の引き下げや等級の引き下げも降格に入る。

一般的に、降格で等級が引き下げられることに伴い、役職手当の減額・消滅、もしくは等級によって定められている基本給なども減給される。

(6)諭旨解雇(ゆしかいこ)
解雇相当の違反を犯した従業員に対し、会社が解雇の理由を告げ、退職届の提出を勧告することである。会社側の説明や諭旨解雇の勧告に従業員が納得しない場合や、会社が定めた期限までに退職届が提出されない場合は、懲戒解雇処分が行われることもある。

諭旨解雇の場合は、自己都合退職に準じた退職金、もしくは一部減額して支払うことも多い。

(7)懲戒解雇(ちょうかいかいこ)
懲戒解雇は、懲戒の中で最も重い処分である。犯罪行為や長期無断欠勤など、重大な就業規則違反を行った従業員に対する制裁として行われる。懲戒解雇は解雇予告なしで即時解雇することが一般的である。

懲戒解雇の際は退職金を支払わないことも多いが、その旨を退職金規定に明記しておかねばならない。

●「解雇」の4種類

「懲戒」について押さえたところで、「解雇」についても確認しておきたい。解雇とは、会社側から一方的に労働契約を解除することであるが、以下の4種類がある。

(1)普通解雇
(2)整理解雇
(3)諭旨解雇
(4)懲戒解雇

一つずつ詳しく見ていこう。

(1)普通解雇(ふつうかいこ)
従業員の能力不足、経歴詐称などの理由で行われる解雇のことである。労働基準法第20条で「解雇の30日前までに、従業員に対し解雇を予告しなければならない」と定められている。解雇予告をしなかった場合は、30日分以上の平均賃金の支給、もしくは30日を経過するまで解雇の成立はない。

普通解雇の場合は、社内規定に基づいて退職金が支払われる。

(2)整理解雇(せいりかいこ)
会社の業績悪化により人員削減を行う時などに行われるのが整理解雇である。会社の都合で行われるもので、従業員への懲戒処分ではない。整理解雇の場合、従業員に問題があるわけではないため、「人員削減が必要と認められた」「解雇回避努力をした」「従業員に対して説明・協議を行っている」などの条件が満たされないと行ってはならない。

整理解雇での退職の場合、通常の退職金に上乗せがある場合が多い。また、退職理由は「会社都合」となる。

(3)諭旨解雇(ゆしかいこ)
「諭旨解雇」は懲戒処分の一種である。「諭旨解雇」を行うためには、就業規則に「懲戒処分として諭旨解雇ができること」や「諭旨解雇を行うことができる事由」が明記されていなければならない。

「諭旨解雇」の場合、会社側は解雇理由を従業員に説明し、退職届を提出してもらわねばならない。もし提出がない場合は、懲戒解雇処分となる。

(4)懲戒解雇
業務上横領やドライバー職従事者の飲酒運転など、従業員が会社に非常に大きな損害を与えた、もしくは違法行為があった場合に行われるのが懲戒解雇である。懲戒解雇の場合は30日前までの解雇予告は必要なく、即時解雇ができる。

また、退職金規定に明記していれば、退職金の支払い義務も生じない。

「諭旨解雇」の事例と流れ

「諭旨解雇」を行うのはどのような事例の場合か、「諭旨解雇」までの流れとあわせて解説する。

●諭旨解雇の事例

「諭旨解雇」が行われるのは以下のような場合である。

・ハラスメント行為(セクハラ・パワハラなど)
・長期無断欠勤
・業務違反命令
・経歴詐称 など

どのようなケースの場合に諭旨解雇処分になるかについては、会社の就業規則に定めておく必要がある。また、本来ならば懲戒解雇に相当することでも、企業の判断によって、深い反省の態度が見られるなどの場合には諭旨解雇処分となる場合もある。

●「諭旨解雇」の流れ

実際に「諭旨解雇」を行う場合、以下のような流れとなる。

(1)問題となる行動について調査する
(2)懲戒事由を検討する
(3)弁明の機会を設ける
(4)処分を決定する
(5)解雇の30日前までに懲戒処分通知書を交付する

詳しく見ていこう。

(1)問題となる行動について調査する
始めに、該当する従業員が就業規則違反行為を行ったかについて詳しく調査する。もし、違反行為を行っていないのに諭旨解雇処分をすると、「懲戒権の濫用」で解雇が無効となる場合があるため、慎重に調査したい。

(2)懲戒事由を検討する
「諭旨解雇」は、就業規則に「諭旨解雇」ができる旨の明記がないとできない。調査結果から、就業規則のどの部分に違反しているのかを判断し、懲戒事由を検討する。

(3)弁明の機会を設ける
「諭旨解雇」の手続きの適正確保のため、人事担当者と対象者との面談など、従業員側の弁明の機会を設ける。「懲戒権の濫用」と判断されないためにも、このプロセスは非常に重要となる。面談の内容を記録しておくことで、弁明の機会を設けたことの証明にもなる。

(4)処分を決定する
調査結果や従業員側の弁明を考慮し、事実誤認がないかを確認しながら、「諭旨解雇」が妥当かを判断する。

(5)解雇の30日前までに懲戒処分通知書を交付する
「諭旨解雇」が決定したら、労働基準法第20条1項に基づき、解雇の30日前までに懲戒処分通知書を従業員に交付する。あわせて、従業員へ期限までの退職届の提出を促す。

「諭旨解雇」による退職金や失業保険、転職への影響

「諭旨解雇」が行われた場合、対象者の退職金や失業保険、そして転職にどのような影響があるかも把握しておこう。

●「諭旨解雇」となった従業員の退職金

「諭旨解雇」となった場合、退職金規定に基づき、対象となる従業員へ退職金が支払われる。金額については一部減額となる場合もあるが、自己都合退職と同額支払うという会社もある。

●「諭旨解雇」となった従業員の失業保険

「諭旨解雇」であっても失業保険給付の対象にはなるが、自己都合退職扱いになるため、雇用保険法第33条1項に基づき給付制限期間が設けられる。なお、通常の自己都合退職の失業保険給付制限期間が2ヵ月であるのに対し、「諭旨解雇」での自己都合退職は「自己の責めに帰すべき重大な理由による退職」に該当し、給付制限期間は3ヵ月となる。

●「諭旨解雇」の転職への影響

「諭旨解雇」であることを転職活動時の履歴書や面接で申告する必要はない。しかし、刑事罰を受けたことが原因で「諭旨解雇」になった場合は、履歴書の賞罰欄で申告していないと「告知義務違反」とみなされる恐れがある。


解雇相当の違反を犯した従業員に対し、会社が解雇の理由を告げ、退職届の提出を勧告する「諭旨解雇」。懲戒解雇の次に厳しい措置である「諭旨解雇」は、会社・従業員双方が納得した上で行わなければ「懲戒権の濫用」とみなされ、解雇が無効になる場合もある。「諭旨解雇」を勧告する際は、該当する従業員が就業規則違反行為を行ったかについて、詳しく調査する必要がある。

また、「諭旨解雇」であっても退職金は支払われる場合が多い。ただ、自己都合退職の時と同額支払うか、一部減額となるかについては各社の退職金規定によるため、十分に確認しておきたい。
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