「皆が夢中になれるかどうか」。ALIVEプロジェクトの運営を議論する際、頻繁にこの言葉と出会う。この言葉には、ALIVEが大切にしている視点がいくつも詰まっている。5年をかけて進化してきた異業種混合型リーダーシップ開発プロジェクト「ALIVE」の本質とは何か。今回は「次世代リーダー育成の最前線から」連載の最終回として、その哲学に迫ってみたい。
「異業種混合型研修」にはどのような仕組みや仕掛けが必要なのか

参加者の認識力・行動力の拡張を強く促す仕組みとは

一般社団法人ALIVEが取り組む異業種混合型リーダーシップ開発プロジェクト「ALIVE」は、自治体やNPO等が抱えるリアルな社会課題の解決に取り組むプロジェクトである。業種、職種問わず複数の企業の次世代リーダーで組成するチームが、提案を行っていく。

ALIVEはこのプロジェクトを「氷山モデル」で捉えており、プロジェクト開始にあたってその重要性を語っている(下図参照)。このモデルは、氷山の上(a.)と氷山の下(b.)から構成されている。
「異業種混合型研修」にはどのような仕組みや仕掛けが必要なのか
参加者は、提案を行う自治体やNPOといった答申先やプロジェクトのアドバイザー役からの率直な評価を繰り返し受けることでその提案を磨いていく。同時に、プロジェクトを共にするチームメンバーや事務局のサポーター役と相互にフィードバックを深めていき、これまで見えていなかった強み・弱みを自覚する。この氷山の下の拡大が、上にある提案の質向上を促す。

課題解決や自己認知の幅を広げる活動はOJTや研修プログラム、人事評価といった形で既に組織内のサイクルに組み込まれていることも多い。それでも多くの参加者に特別な評価をいただいているのは、ALIVEではこの氷山の上下の取組が連動し、参加者の認識力・行動力の拡張を強く促すからだろう。

プロジェクト終了後も答申先の活動に関わる参加者がいる

プロジェクト規模の拡大に伴い、2021年10月から2022年3月にかけて、事務局の有志で「テーマオーナー」の認定制度を検討した。テーマオーナーとは、3ヶ月という特定のサイクルにおける一つの社会課題=テーマ運営の責任者だ。役割として、参加者、答申先と事務局が本気でテーマに取り組むための場づくりを行う。テーマ設定、各セッションのプログラムの決定、リフレクションのファシリテーション、提案の採択・不採択検討会議の進行、事務局振り返りミーティングの開催といった一連の過程を担う重要なポジションである。

ALIVEではプロジェクト終了後も答申先の活動に関わっていく参加者が少なくない。こうした結果は一般的な研修とはおよそ似ても似つかないが、テーマオーナーの役割を棚卸しする中で「ALIVEは共創を生み出すプロセス」という認識が強くなってきた。

これまでの検討結果が「認定テーマオーナー向けガイドブック」にまとまり、最後に振り返りの懇親会を開いたとき、制度検討会メンバーから「一種のゲーム感覚というか、ゲーミフィケーションじゃない?」という発言があった。参加者に「やりこみ要素」を感じてもらえているのかもしれない。ゲームの特徴はゴール、ルール、フィードバックシステム、自発的な参加にあるという(※)。
※ジェイン・マクゴニカル『幸せな未来は「ゲーム」が創る』(早川書房、2012)
「異業種混合型研修」にはどのような仕組みや仕掛けが必要なのか
ALIVEでのこれらの要素は必ずしもゲーミフィケーションを意図したものではないが、答申先のもつ社会課題を解決したいという強い目的意識に共感し、異業種の中で創造性が喚起されるのは自然な流れと言えるだろう。答申先が抱える複雑な悩みも、リフレクションを通じて前向きに受け止め、「この社会課題を一緒に解決していきたい」と参加者に思っていただけることを目指している。

共創のプロジェクトにみる「競争」と「納得」

ただし、参加者の方々がALIVEに参加する経緯や置かれた環境は様々だ。参加者はそのテーマについて考えるのが初めての場合もあるし、業務が忙しいこともあるだろう。それでもこのプロジェクトに当事者意識をお持ちいただけるよう、ALIVEでは「共創」だけでなく「競争」の要素も大切にしている。

プロジェクト途中の答申先やアドバイザーによる5段階評価は各チームに見える形で提示され、また、最後の採択・不採択では順位づけが行われるため、チームは否応なしにそれらに向き合うこととなる。また、アドバイザーの強烈な評価コメントは、どうやって障壁を乗り越えていくかを考えるきっかけになるかもしれない。多くの場合に重要となるのは、必ずしも一部のメンバーによる「強力なコミットメント」だけでは前に進めず、「緩やかなコミットメント」のメンバーも巻き込む・巻き込まれる必要がある、ということだ。

社会課題を扱うプロジェクトや研修において、ともすると忘れられがちになるが、決して些細なことではない。およそ社会課題は利害関係が複雑であるため、多くの視点や動きを取り入れることが重要で、プロジェクトメンバーの状態についても同様のことが言える。「緩やかなコミットメント」のメンバーも、そのチームも、置かれた状況や評価に自分なりに納得しながら進めることで、様々な変化に対応しやすくなるのではないか。

おわりに

多くの社会課題は「担い手不足」に直面していることを考えると、皆が夢中になる状態を目指し続けることは重要だ。今後、ALIVEではこうした考えを「共創システム(仮称)」と呼んで更に発展させていきたいと考えている。少しでもこうした考え方に興味をお持ちの方、あるいは「納得するまで考えたい」と思われた方は、是非ALIVEにお声がけいただきたい。
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