コロナ禍との闘いもすでに1年半以上が経とうとしており、企業経営も大きな打撃を被っている。これまでは、対症療法としての「雇用調整助成金」や「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」などで急場をしのいできた企業も、公的支援が青天井だと思い込んではいけない。今後は、自助努力が求められるステージだとの覚悟が必要だろう。
コロナ禍を機に、企業経営における「リスクマネジメントの在り方」を再考しよう

新型コロナウイルス感染症は、人類にとって「想定外」だったのか?

新型コロナウイルス感染症が騒がれ出した当初は、コロナ禍がここまで国民の生活に大きな影響を及ぼすと想定していた人は少なかったのではないだろうか。しかし、専門家の間では、グローバルな規模でのテールリスクは「感染症」だと言われていた。人類が唯一克服した感染症が「天然痘」であることは有名だが、過去を振り返れば、人類はこれまでも感染症の猛威に晒されてきた。14世紀にはヨーロッパで黒死病と言われた「ペスト」が大流行した。「スペイン風邪」や「アジア風邪」、「香港風邪」といわれたインフルエンザウイルスは20世紀に入ってからの感染症である。2009年に世界的に大流行した「新型インフルエンザ(H5N1亜型)」も記憶に新しい。これら以外にも、新興感染症といわれる「エイズ(後天性免疫不全症候群)」や「高病原性鳥インフルエンザ」、「SARS(重症急性呼吸器症候群)」など枚挙に暇がないほどである。また、現在でも毎年数百万人が亡くなっている「結核」や「マラリア」も現在進行形の感染症である。

感染症は、我々人間の体内に侵入した病原微生物(ウイルス、細菌、カビ、原虫など)が定着、増殖することで起こる。従って、人間は常に感染のリスクに晒されていると認識しなければならない。このような状況は、環境破壊に伴って生態系を含む生物多様性が急速に劣化し、人間社会に跳ね返ってきているとも言われている。ウイルスの本来の生息地を我々人間が壊してきた結果と考えれば、今後もウイルス起源のパンデミックを覚悟しておかねばならないわけだ。人類は“ウイルスと闘って勝負を競う”という発想を止め、自然界での共生をコンセンサスとしなければならないだろう。

コロナ禍の反面教師となる、太平洋戦争下の「インパール作戦」とは

パンデミックであれ自然災害であれ、リスクマネジメントの要諦は「最悪の事態を想定して計画を建てる。その後は、最善を期待しながらその計画を着実に実行する」というものだ。何の準備もなく、精神だけがポジティブであるのは蛮勇といえるだろう。

リスクマネジメントに失敗した事例は、先の太平洋戦争を振り返れば数多ある。最も有名なのが「インパール作戦」である。敗戦濃厚な戦争末期、インド北東部のインパール攻略を目指したものの、多数の犠牲者を出した残念な作戦だ。司令官は牟田口廉也中将である。彼は兵站能力を「自給自足型」で実行し、自らこれを「ジンギスカン作戦」と呼んだ。水牛、山羊、羊などに荷物を積んで行軍させ、途中で必要に応じて食糧に転用するという戦略だったのだが、これらの動物は長時間の行軍に慣れておらず、ジャングルや急峻な地形で、兵士が食べる前に早々に脱落していった。行軍させた家畜の半数は、川を渡れず溺死したという。さらに、3万頭の家畜を引き連れた日本軍は、空から見ると格好の標的となった。結果、日本軍はインパールに誰1人たどり着けず、およそ3万人が命を落とし、4万人が傷病者となったのだ。

今でも、日本人はこういう状況下でのリスクマネジメントが苦手だと感じる。その理由は、「感情」と「論理」とを切り離せないからであろう。「最悪を想定すること」に対して「そんなこと言ったら縁起が悪い」と反駁し、さらにそこへ同調圧力が加わる。

インパール作戦を含め、太平洋戦争の失敗事例を分析した『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎 著、中央公論新社刊)という書籍がある。これによると、インパール作戦という杜撰な計画が実行された原因は、「人情という名の人間関係、組織内融和が優先されて、組織の合理性が削がれた点にある。」と分析されている。

「事業継続計画(BCP)」の策定・運用が経営の救世主となる

緊急事態が発生したときに備えて、事業を継続させることを目的に「災害時の対応」や「平常時に行うべき行動」を予め整理し取り決めておく計画を「事業継続計画(BCP)」というのは周知のとおりだ。事業のサスティナビリティを企図したもので、当然の如くパンデミック時にも必要不可欠な経営マネジメントツールとなる。このBCPがより実行可能なものであればあるほど、的確なリスクマネジメントに繋がる。

ただし、ここで欲張り過ぎずに、中核事業に限定することが肝要だ。さらに、絵に描いた餅で終わらぬよう、経営者はもちろん、社員、取引先などステークホルダーとの共通認識を持つことを忘れてはならない。そして、年々歳々、新陳代謝をかけていくことも必要である。

最悪を想定してBCPを策定しておくことは、決してネガティブ志向ではない。最悪の想定とは「悲観主義」とは異なるもので、悲観とか楽観とかそのような感情を排除した想定から始めることである。最悪を想定した前提で、しっかり準備し地歩を固めることで、初めてポジティブになれるだろう。それが根拠のある自信となるからだ。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!