
「健康経営」が広がる背景
健康経営という言葉は、いまや一部の大企業だけのものではありません。広がりを示す一例として、経済産業省が推進する健康経営優良法人の認定法人数は、年々増加しています。5年前(2021年)と比べると、大規模法人部門で約2倍(109%増)、中小規模法人部門で約3倍(191%増)となっており、中小企業も含めて健康経営への関心が着実に広がっていることがうかがえます(経済産業省『第5回健康経営推進検討会 事務局資料』)。
この背景には、コロナ禍を経て、社会一般に健康への意識が高まってきたことが考えられます。その状況の中で従業員の健康は、本人のためだけの問題ではなく、企業の生産性や組織の活力にも関わるものとして認識されるようになってきました。
なぜなら、実際に取組みの効果を実感する企業が増えてきたからです。前述の経済産業省の資料によると、従業員の健康状態の改善に加え、組織の活性化や従業員の意欲向上、コミュニケーションの改善、人材採用・定着への好影響などが挙げられており、健康経営が単なる福利厚生ではなく、経営に資する取組みとして受け止められつつあることが分かります。
「福利厚生」と「健康経営」は何が違うのか
福利厚生は、従業員の生活支援や満足度向上を目的とする制度です。住宅、食事、休暇、レクリエーションなど、「あると助かる」、「あると嬉しい」制度が多く含まれます。これに対して健康経営は、従業員の健康に投資して、組織の活性化や会社の持続的成長につなげようとする考え方です。言い換えれば、健康経営は「従業員のため」であると同時に、「会社のため」でもある取組みです。
したがって、福利厚生と健康経営は同じではありません。しかし、まったく別物でもありません。大切なのは、福利厚生を単なる従業員サービスで終わらせず、健康、働きやすさや働きがい、さらには組織の力につながる形で設計できるかどうかです。福利厚生を「経営に資する取組み」にする視点が求められます。
福利厚生を「健康経営」につなげる
例えば、社員食堂も、ただ安く食べられるだけなら福利厚生の色合いが強いでしょう。しかし、栄養バランスに配慮したメニューを充実させ、食生活の改善につなげるなら、健康経営の要素が加わります。運動支援も、単にジムへの補助を出すだけでなく、継続しやすい仕組みや参加しやすい雰囲気作りまで考えれば、より実効性のある施策になります。厚生労働省『職場における心とからだの健康づくりのための手引き』でも、具体的な健康保持増進措置として、運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、保健指導などが示されています。
この点、カフェテリアプランのような選択型福利厚生制度は、健康経営的視点を入れやすいです。というのも、従業員ごとに必要な支援は異なるため、健診の上乗せ補助、運動機会、メンタルヘルス支援、睡眠や食生活改善といった健康メニューをプランに組み込めば、個々の健康を後押しする仕組みになり得ます。
ただし、重要なのは「選べること」そのものではなく、会社として「健康を後押ししたい」というメッセージ性です。
経営資源が豊富ではない企業こそ工夫の余地がある
もっとも、経営資源が豊富ではない小規模企業では、本格的なカフェテリアプランの導入は現実的でない場合もあります。しかし、健康経営は多額の費用をかけた制度作りだけを意味するものではありません。厚生労働省の広報誌『厚生労働』(2022年7月号)でも、健康経営は「すべてを網羅しなければならないわけではない」、「まずは、できることから始めてみることが大切」とされています。例えば、健康診断の受診を確実にすること、再検査の受診を後押しすること、休みを取りやすくすること、長時間労働を防ぐこと、相談しやすい雰囲気をつくること。これらは基本的な労務管理上の取組みともいえますが、従業員の安心感や働きやすさに直結します。
さらに、労働者数50人未満の小規模事業者については、地域産業保健センターが医師の面接指導などの産業保健サービスを無料で提供しています。自社ですべてを抱え込まなくても、外部資源を活用しながら進めることは可能です。
健康経営はみんなが幸せになる経営手法
健康経営がさらに広がるためには、経営者に「福利厚生っぽい話」としてではなく、「経営に資する話」として理解してもらうことが大切です。従業員にとって良いことが、会社にとっても良いことになる。労使ともにみんなが幸せになる。その接点がまさに健康経営だと思うのです。※ 健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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