皆さんは部下に命じた業務の終了報告を受けるとき、自身がどのような態度をとっているか意識をしたことがあるだろうか。「そんなこと、考えたこともない」というリーダーも多いだろう。しかしながら、部下からの終了報告の受け方次第で職場の活性度が変化するとしたら、「考えたこともない」などとは言っていられないかもしれない。今回は、命じた業務の終了報告の受け方が組織にどのような変化をもたらすのかを考察してみよう。
第8回:部下からの「終了報告の受け方」が組織を活性化させる

「作業を命じるだけのリーダー」が組織の雰囲気を暗くする

活性度が低い職場の中には、リーダーの行動に問題があるケースも少なくない。部下からの「終了報告の受け方」が好ましくないのもその一例である。

実例を紹介しよう。部長が部下に資料のコピーをとるように命じた。しばらくして、部下が出来上がったコピーを持参し、「部長、コピー終わりました」などと終了報告に来た。そこで、部長は黙ってコピーを受け取った。この職場は雰囲気が暗く、社員の定着率も芳しくない。

さて、部長の行動のどこが好ましくないか、皆さんは気付いただろうか。この部長には、自身が命じた作業を行った部下に対する感謝やねぎらいがない。そのようなリーダーの行動が時の経過とともに職場環境にマイナスの影響を蓄積させ、組織風土の悪化に及んだ事例である。

ヒトは行動に「対価」を求める

人間には自身が他者のためにとった行動に対し、無意識のうちに対価を欲するという特徴がある。適切な対価が与えられていれば、両者の関係性は良好に保たれるものである。ここでいう対価とは、金銭や物品などの物理的対価ばかりではない。感謝の言葉やねぎらいの情なども、精神的・感情的対価として有効である。

ヒトのこのような心理特性は職場でも発揮される。上下関係が明確な間柄であっても同様だ。そのため、コピーを命じられた部下が部長に対して終了報告に来た際、「助かったよ。ありがとう」などの声掛けが部長から行われると、部下はコピーとりという自身の行動に対して無意識のうちに精神的な対価を受けたと感じる。その結果、部長と部下の関係性は良好に保たれ、業務や職場に対する部下のモチベーションも上がるものだ。

上位者と下位者との間でこのような関係性が構築されている職場は、必然的に“前向き”な気持ちで職務に取り組む人材が多くなる。職場内の活力がみなぎり、定着率の改善・生産性の向上も期待できる傾向にある。

一方、コピーをとった後の終了報告に対して「うん」、「ああ」などと言うだけであったり、無言でコピーを受け取ったりするリーダーも散見される。このようなケースでは、部下は無意識のうちに「対価を受けとっていない」、「適切な対価ではない」と認識する。

そのため、上司のこのような態度は、部下のモチベーションを著しく低下させやすい。その結果、職場の雰囲気の悪化、生産性の低下、離職率の上昇などにも繋がりかねないので注意が必要である。

感謝のない指示は「適切な対価を伴わない労力」になる

人間関係は時間や労力、コストなどの「相手のために費やすもの」と報酬や対価などの「相手から受け取るもの」とのやり取りによって成り立っている。両者のバランスがとれていれば人間関係は維持され、バランスが崩れると好ましい関係性は維持が困難になりやすい。このような考え方を『社会的交換理論』という。

前述のケースで、部長から感謝の意の表出があれば、部下にとっては「費やしたもの」と「受け取ったもの」とのバランスが保たれることになる。その結果、部長と部下との間では、良好な関係性が構築・維持されやすい。

しかしながら、部長にそのような言動が見られないと、コピーをとるという指示は一転して「適切な対価を伴わない労力」に姿を変える。そのような環境で、部下が部長との関係性を良好に維持することは極めて困難になるものである。

心掛けたい「当たり前の言動」

リーダーの中には「仕事なのだから部下に感謝は必要ない」と考える者もいるだろう。「上司は部下よりも上位なのだから、感謝は不要である」と思うリーダーもいるかもしれない。

しかしながら、職場は単なる「仕事の場」ではない。複数の構成員の共同により運営される「社会」のひとつでもある。「社会」には構成員に望まれる“好ましい行動”が存在し、その行動をとることが当然に期待される。相手に感謝の意を表す、ねぎらいの情を持つというのは、代表的な“好ましい行動”のひとつだ。そこに、職場の上下関係が干渉する余地はない。

平易な表現を使用するならば、「ヒトとして当たり前の言動が職場でもとれること」が活性化された職場づくりの鍵になるといえる。ところが、これが不得手なリーダーは決して少なくないようだ。

部下に感謝の意を持っていないわけではないが、直接気持ちを示すことは気恥ずかしいなどの思いもあるかもしれない。しかしながら、業務の終了報告に対して「感謝の意を表す」、「ねぎらいの情を示す」という行為は、時間もコストも掛けずに実施可能な組織活性化手法である。ぜひ、自身の終了報告の受け方を、いま一度振り返ってみていただきたい。
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