昨年(2025年)6月13日、年金制度を改正する法律が成立した。実に5年ぶりの法改正である。今回の主要な改正項目のひとつに「厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ」がある。標準報酬月額の上限が引き上げられると、どのような現象が起こるのだろうか。企業経営が被る影響はどんなものか。今回はこの点を整理してみよう。
【年金法改正】標準報酬月額の上限が32等級→35等級に。対象者1人につき「年11万円の負担増」の詳細とは

上限は65万円から75万円に

厚生年金保険の保険料額算出の基礎とされる標準報酬月額。昨年(2025年)に成立した「年金制度改正法」には、この標準報酬月額の上限を引き上げることが定められている。

現在、厚生年金保険の標準報酬月額は32段階で構成されており、上限は32等級(65万円)である。月々の給与額が63.5万円以上の場合に32等級に該当し、65万円に保険料率18.3%を乗じた118,950円が毎月の保険料額とされる。企業及び従業員は保険料を折半負担するので、1ヵ月59,475円(=118,950円÷2)がそれぞれの負担額となる。

今回の法改正では、現状の上限である32等級の上にさらに等級を新設することが定められた。そのため、最終的には35等級(75万円)が、厚生年金保険の標準報酬月額の上限に変わる。

ただし、いきなり35等級が設けられるわけではなく、上限の引き上げは3回に分けて順次行われることとされている。具体的な引き上げスケジュールは、次のとおりである。

●2027年9月1日 … 32等級の上に33等級(68万円)を新設
●2028年9月1日 … 33等級の上に34等級(71万円)を新設
●2029年9月1日 … 34等級の上に35等級(75万円)を新設

ちなみに、現行の上限等級である32等級(65万円)は、2020年9月1日に新設された。従って、わずか数年で、上限等級の3段階の更新が法定したことになる。

対象者1人につき「年11万円」の負担増

現行の上限である32等級(65万円)よりも上に “新しい上限” ができるということは、その等級に該当する従業員に関する厚生年金保険料は、現状よりも高額になることを意味する。

月々の給与額が75万円のケースを例に、具体的に考えてみよう。この場合、現状の厚生年金保険料は次のとおりである。

●該当する等級:32等級(65万円)
●1ヵ月の保険料額:118,950円(=65万円×18.3%)
●1年間の保険料額:1,427,400円(=118,950円×12ヵ月)

2027年9月1日になり32等級の上に33等級(68万円)が新設されると、当該従業員の保険料額は次のように変わる。

●該当する等級:33等級(68万円)
●1ヵ月の保険料額:124,440円(=68万円×18.3%)
●1年間の保険料額:1,493,280円(=124,440円×12ヵ月)

従って、2027年9月分の厚生年金保険料から、月5,490円(=124,440円-118,950円)、年65,880円(=5,490円×12ヵ月)の増加となるわけである。

このような保険料負担増は、その後、2028年9月及び2029年9月にも発生する。その結果、現状と比較した最終的な負担増は、以下のとおりとなる。

●1ヵ月の負担増:18,300円(=75万円×18.3%-118,950円)
●1年間の負担増:219,600円(=18,300円×12ヵ月)

上記増加額の半分は企業負担である。従って、対象となる従業員1人につき、年間約11万円(≒219,600円÷2)の負担増が企業側に発生することになる。「年金制度改正法」に定められた時期が到来すれば、企業はこのような社会保険料負担増を自動的に被ることが決定しているわけである。

給与額73万円以上の従業員が多い企業は要注意

実は現在、厚生年金保険の標準報酬月額の中で最も被保険者が多く分布する等級は、上限である32等級(65万円)である(厚生年金保険・国民年金事業月報(速報)令和7年4月/厚生労働省)。特にこの傾向は男性に顕著で、全男性被保険者の1割以上が32等級(65万円)に該当している状態だ。(同月報)

男性被保険者について標準報酬月額別の人数の状況を整理すると、下図のとおりである。
厚生年金保険の標準月額別の男性被保険者数(2025年4月末現在)
上図のとおり、上限等級の男性被保険者数は他の等級よりも格段に多い。これらの被保険者は、厳しい見方をすれば「実際の給料額に見合った保険料を納付していない」ともいえる。そのため、法改正によって給料額に相応しい保険料負担に変更になると考えることもできよう。

標準報酬月額の上限等級が引き上げられると、該当した従業員は「保険料負担増加」というデメリットを被る一方で、「将来の年金受給額が増額される」というメリットも享受できる。標準報酬月額は老後に受け取る年金額計算の基礎数値でもあるからだ。従って、今回の法改正は従業員にとり、メリットとデメリットが共存する施策といえる。しかしながら、企業側には従業員が享受するようなメリットは存在しない。

企業は法改正の対象となった従業員を同様の給与額で雇用する限り、更新された上位等級に応じた厚生年金保険料額を納付し続けなければならない。たとえ、企業業績が芳しくなかったとしても、厚生年金保険料の納付負担が軽減されるなどの措置も存在しないのである。

2029年9月1日から35等級(75万円)に当てはまる被保険者というのは、実際の給与額が73万円以上の者である。「該当する従業員が多数存在する企業」、「給与水準が相対的に高額な企業」などは、被る影響が決して小さくないかもしれない。

幸い最初の標準報酬月額の引き上げまでには、今しばらく時間がある。今後の財務状況への影響を精査するなど、しかるべき対応を実施してはいかがだろうか。
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