
管理職への昇進が避けられる原因
かつての日本の労働市場は、終身雇用・年功序列賃金が当たり前、少子高齢化も今ほど進んでいませんでした。そのため、管理職は部下の人数も多く、プレイヤーとしての業務負担は軽かった傾向にあります。しかし現在では、転職も当たり前になり、成果主義をとる企業も増えてきました。最低賃金の上昇率も上がっています。少子化や残業時間規制による労働力不足で管理職のプレイングマネージャー化も加速し、メンタルヘルス対応・ハラスメント防止・育児介護への配慮など、度重なる法改正による責務も増え続けています。
このような変化に対し、管理職像やそれに伴う制度が見直されていない企業では、次のような問題が発生することがあります。
●残業は増えるが、割増賃金は受け取れない
労基法上の管理監督者は、時間外・休日労働の割増賃金の適用除外とされ、労働時間の上限規制も受けません。しかし、プレイングマネージャーとして業務量が増える、本来部下が行うはずの残業を労働時間規制のない管理職が巻き取る等により、労働時間は増えても収入は増えないという現象が起こるリスクがあります。●昇進すると手取りが下がる
近年の賃上げにより一般社員の賃金水準が急上昇した結果、管理職に昇進しても手取りがほとんど変わらない、あるいは残業代がなくなる分だけ手取りが下がるというケースが生じています。「管理職になると損をする」という状況が続けば、管理職への昇進がネガティブに捉えられても仕方ありません。●責任は重く、権限は弱い
管理職に就くと、部下の業績・健康・育成に対して大きな責任が生じます。メンタルヘルス対応やハラスメント対応など、責任の幅は年々広くなっている印象です。しかし人事評価の変更権・採用への関与・予算決裁権は本部や経営層に集中したままのケースがあります。「部下が問題を起こせば自分の責任だが、部下に対する権限が自分にない」等の状況は、管理職の無力感と疲弊感を生む典型的なパターンです。
前述の賃金に関する問題と組み合わさると、責任だけ増えて給与も権限も増えない事態になりかねません。
企業が見直すべき職場の仕組み
このように、「管理職への昇進を避ける理由は若手の意欲の問題」と言い切るのは危険です。職場の仕組みを見直すことで、問題改善の兆しが見られるかもしれません。●管理職の役割を明確化する
管理職しかできない業務は何か、役職によってどの権限を持つのか等が明確になると、様々なことが考えやすくなります。例えば、管理職が範囲外の業務を抱え込みすぎていないかを判断することができ、配置転換や採用などの人事戦略にも繋がります。また、役割に応じた手当・給与水準や、後述の権限移譲も考えやすくなります。●責任に見合う権限を与える
現在、管理職には採用面接への参加・経費の決裁・育成方針の決定など、どれほどの権限があるでしょうか。参考までに、いくつかの確認ポイントを紹介します。・採用面接への参加や、入社者の決定に管理職の意見は反映されているか
・部門内の経費・備品購入に管理職が決裁できる仕組みがあるか
・部下へのフィードバックや育成方針を管理職が主体的に決められているか
●役職手当の水準を現状に合わせて見直す
役職手当が据え置きのまま一般社員の賃金だけが上がると、昇進後の手取りが実質的に減少することがあります。まず「管理職の手取り額」と「残業代を含む一般社員の手取り額」を比較してみてください。あまり変化がない、逆転が生じている等の場合は、役職手当の引き上げ、あるいは賃金テーブルに問題がないかを優先課題として検討しましょう。管理職昇進へのネガティブなイメージは、若手の価値観の変化だけが原因ではありません。今回紹介したような問題が解消されない限り、昇進を避ける判断は合理的とも言えます。
また、今回は触れませんが、権限付与や賃金水準はいずれも「『労基法』上の管理監督者と認められるか」にも大きく影響するポイントのため軽視は危険です。これを機に、「管理監督者の法令上の要件」や「自社での扱い」も併せて確認することを推奨します。
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