
1,056件に達した精神障がいによる労災認定
精神障がいによる労働災害の請求件数・認定件数が増加している。厚生労働省の『令和6年度過労死等防止対策白書』によると、精神障がいによる労災請求件数は2015(平成27)年度の1,515件から2024年度は3,780件になり、10年で約2.5倍の伸びを示している。業務災害が認定された件数は、2015年度の472件から2024年度には初めて1,000件を超え、1,056件にまで達した。
精神障がいによる労働災害の増加傾向が顕著であることが窺える結果といえる。
原因は「人との関係」が半数
厚生労働省が公表した2024年度の『過労死等の労災補償状況』によると、精神障がいによる労災認定の原因となった出来事で最も多かったものは、「パワーハラスメント」(224件、21.2%)である。以降、「仕事の質・量」(210件、19.9%)、「対人関係」(197件、18.7%)、「事故や災害の体験」(135件、12.8%)、「セクシュアルハラスメント」(105件、9.9%)と続いている。「対人関係」(197件、18.7%)の内訳を見ると、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」が最も多く108件。次いで「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」44件、「上司とのトラブルがあった」38件などである。
この結果からは、精神障がいによる労災認定の原因の約半数が、「パワーハラスメント」、「セクシュアルハラスメント」、「対人関係」といった「人との関係に関する要因」で占められていることが見て取れる。

高まる精神障がいへの対応の必要性
精神障がい者保健福祉手帳の所持者数は近年増加傾向にある(厚生労働省『令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況』)。2024年度末には154万人を超えたところだ(同概況)。前述のとおり、精神障がいによる労災認定も増加傾向を示している。したがって、今後は「精神障がいを発生させない職場づくり」、「精神障がいを抱える従業員と働くことを見据えた職場づくり」なども企業に求められるといえよう。
それでは、精神障がいやそれに起因する労働災害が発生することなく、誰もが安心して働ける職場環境を整備するには、具体的にはどのような取り組みが必要なのだろうか。
精神障がいを踏まえた教育研修・仕組みづくりを
「精神障がいを発生させない職場づくり」、「精神障がいを抱える従業員と働くことを見据えた職場づくり」のために企業が採り得る施策としては、次のような取り組みが考えられる。(2)精神障がいの特性も踏まえた「各種ハラスメント教育」、「マネジメント教育」の実施
(3)職場・業務内容の特性に応じた「カスタマーハラスメント対策」の強化
(4)精神障がいを抱えていたとしても相談がしやすい仕組みの構築
ひと口に精神障がいといっても、気分障がいや統合失調症など種類はさまざまである。また、同名の障がいでも症状や重症度は千差万別で、本人の性格や能力、経験によって疾病の影響度も異なってくる。このような精神障がいの特徴を認識している従業員は多くない。そのような従業員が勤務する職場では、精神障がいへの無理解や偏見に起因したハラスメント行為が発生してしまうことがある。
そのため、これからの企業研修では「精神障がいを理解する知識教育」はぜひ盛り込みたいテーマである。また、パワハラ・セクハラなどの「各種ハラスメント教育」、管理・監督職に対する「マネジメント教育」も、精神障がいの特性を踏まえて定期的・継続的に実施することが不可欠といえる。
加えて、「顧客や取引先、施設利用者等からの著しい迷惑行為」などの、いわゆる「カスタマーハラスメント対策」の強化も重要である。精神障がいに対する顧客などの無理解・偏見が、カスタマーハラスメントに繋がるリスクは小さくないからだ。カスタマーハラスメントがより発生しづらい仕組み、障がいを踏まえた業務内容・プロセスの変更などの対策により、トラブルの未然回避を心掛けたい。
また、健康状態の変化などは、本人にしか分からないものだ。したがって、精神障がいの有無にかかわらず、従業員が気兼ねなく相談できる窓口・担当者などを設けることも重要な施策といえる。
精神障がいを抱える従業員の中にも、適切な配慮と職場環境の整備により能力を発揮しながら活躍する人材は少なくない。こうした人材とともに働く機会は、法定雇用率の引上げなどにより今後さらに増加が予想されている。企業には精神障がいを抱える従業員と他の従業員の双方が、安心して働ける環境づくりが求められている。
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