今回はFaciloの趙愛子氏、民部直章氏と、マーサージャパンの増渕匡平氏、浜田伸樹氏による対談を実施。人事制度のベースとなった企業哲学や、スタートアップ企業が本格的な人事制度を策定・運用する意義について語り合っていただいた。(以下敬称略)
【対談者プロフィール】

■趙 愛子氏
音楽大学を卒業後、テレビ局報道記者、外資系医療機器メーカー営業を経てリクルートに入社。SUUMOの営業、HR、事業推進マネージャーを経てリクルートホールディングスにて働き方変革推進プロジェクト、次世代人材開発などに12年間従事。2021年、メルカリに入社し、Talent Managementチームの立ち上げ、Inclusion&Diversity(I&D)Headとして、日本企業初のジェンダー平等に関する国際認証EDGE assess取得や男女間賃金格差是正プロジェクト等をリード。2024年よりFaciloに参画。人事全体を統括する立場を担っている。
株式会社Facilo
VP of HR

■民部 直章氏
新卒でケーブルテレビ運営会社に入社。加入促進営業に携わる傍ら、社内人事制度改訂プロジェクトの参画をきっかけに、人事の役割・価値発揮について興味を持ち、外資系人事戦略コンサルティングファームに転職。主に外資系化学・製薬会社の人事報酬制度及び福利厚生制度の調査/設計に従事。Googleでは、日本法人の人事チーム立ち上げ、APACや米国のPeopleOperation部門との連携を推進。Twitter Japanでは、APAC人事ヘッドとして、日本及びアジア各国の組織立ち上げ、文化醸成施策の展開を担った。2024年よりFaciloに参画。社員の働きやすい環境整備に尽力している。
株式会社Facilo
HR Executive

■増渕 匡平氏
日系証券会社の営業部門および人事部門を経て、2010年マーサージャパンに入社。総報酬サーベイに関する、既存顧客の運用支援や新規顧客の導入支援に従事。2021年にプロダクト・ソリューションズ部門の責任者に就任。日本で3,000社を超える同部門のクライアントに対して、組織人事領域における典型的なイシューを特定し、標準化されたソリューション(プロダクト)を通じて支援している。
マーサージャパン株式会社
プロダクト・ソリューションズ部門 代表

■浜田 伸樹氏
新卒で日系大手印刷会社に入社し、営業として活躍。その後、日系SaaSベンダーに転職し、カスタマーサクセスを2年経験した後、2022年2月マーサージャパンに入社。総報酬サーベイを中心とした報酬・福利厚生関連プロダクトのカスタマーサクセスとして、契約されたクライアントの活用および継続支援をメインに担当。
マーサージャパン株式会社
プロダクト・ソリューションズ部門 カスタマーサクセス シニアマネージャー

人事制度には“どんな思想で社員に向き合うのか?”が反映されるべき
増渕 マーサージャパンでは、参加企業からご提供いただいた報酬データを、各社が汎用的に活用できるようにデータベース化し、業界別、企業規模別、職種・職位別、ジョブといった複数の切り口を掛け合わせて比較分析できるプロダクト『総報酬サーベイ』を提供しています。Facilo様は、人事制度を策定するにあたってこの『総報酬サーベイ』を活用してくださいました。その経緯について、改めてお聞かせください。趙 我々のようなスタートアップ企業には、人事制度がなくても勢いで走れる時期があります。しかし、組織が成長すれば“納得感のある制度”が必要とされる瞬間が来るのは明らかだと考えていました。
そのタイミングが来るのを待つよりも、先回りして制度を整えておくべきではないか。まだ大きな問題が生じていたわけではないのですが、メンバーから「どうすれば報酬が上がるのか見えない」という声もちらほらと聞こえてきたこともあり、早めに検討を始めておきましょう、という議論が人事制度策定の出発点です。

今後も成長していくことは明白でしたから、もう勢いで乗り切るのは限界です。社員みんなが納得できる制度、透明性があり、フェアな形で自分が評価され、報酬に反映されるような仕組みが必要です。タイミング良く人事制度の運用経験豊富な趙が入社し、マネジメントからも制度策定に対する期待の大きさを感じていたため、ではガッツリやりましょうとディスカッションを始めたのが、2024年10月のことでした。
趙 私と民部、それと経営陣3人で毎週のように議論を重ね、外部に委託することなく、100%インハウスで制度設計に取り組みました。制度は「等級」、「報酬」、「評価」の3つを柱としていますが、単なる枠組みではなく、成長戦略を体現する仕組みとしてゼロベースから設計しました。
また議論の際には、まずは社員100人までのフェーズを考える、というのが最初の目線合わせでした。たとえば「等級」は7段階に分けてあるのですが、これも100人までのフェーズが前提で、今後は必要に応じて刻んでいくこともあり得ます。
民部 今後、会社組織としてのあり方が変化するとしたら社員100人くらいがターニングポイントになるのではないか。その範囲で考えた制度というわけです。
増渕 ディスカッションにおいては、御社のVMV(VISION/MISSION/VALUES)も強く意識されたと伺いました。
趙 議論を進める上で直面したのは「どんな思想で社員に向き合うのか?」という点でした。たとえば報酬水準や昇給率は、単なる数字というより「Faciloがどのような人を惹きつけ、どんな成長の土壌を用意しているのか」ということを可視化する指標だと思います。競争力のある報酬水準であることはもちろん、企業として人をどう捉えるのか、その思想を反映させなければなりません。そこで立ち返ったのがVMVなのです。
全社員が山中湖で合宿をして「自分たちは今、何を大切にしているのか?」といったテーマで議論してキーワードを出し合い、それをもとに経営やHRなどのチームで策定したのがVMVです。
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●VISION
住みかえを軽やかに、人生を鮮やかに。
●MISSION
人の価値を中心にプロダクトを育み、不動産の顧客体験を進化させる。
●VALUES
誠実に向き合う
プロとしてやりぬく
最速・最短でいく
挑戦を楽しむ
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各等級の定義には、さまざまな考え方があると思います。たとえば成果。ただ我々の現時点の状況では、成果は本人の頑張り以上に会社の事業フェーズや外部環境の影響を大きく受ける可能性が高く、これを求めるのは誠実ではありません。それよりも、その人に何を期待するのか、どんな人物像を求めるのか、つまり期待役割と行動プロセスで定義すべきではないか。そこで、行動プロセスについては4つのVALUESをもう少し具体的かつ日常的な行動に落とし込んで言語化し定義しました。
増渕 等級制度を「マネジメントコース」と「プロフェッショナルコース」に分けた背景には、どのような考えや課題意識があったのでしょうか。
趙 VALUESでは「プロとしてやりぬく」や「最速・最短でいく」を掲げています。これを具現化しようと思えば、たとえばマネージャーにならないとキャリアアップできない制度ではいけません。各部門のプロとしてキャリアを積んでいける仕組みであることが必須です。
民部 エンジニアの多くは、自分の力で業績を上げていきたいというフィロソフィーの持ち主です。「必ずしも全員にマネジメントを求めているわけではありません。プロとしてその道を極めてください」という形にしたことで、納得感も出ているのではないかと思います。

趙 弊社では、プロダクトを中心に置いて、エンジニアも営業もカスタマーサクセスもワンチームとなって働いているのが現状です。そこでは突出した個人プレーよりも、チームとしての成果に貢献できるかどうかを重視したいと考えました。
そこで、「個人のレーティングはしません。その代わりチームとしての数値目標を半期ごとに設定し、それをクリアできれば目標達成率に応じて全員一律で昇給します」という形を採りました。
個人評価には工数もかかりますし、そのコストに見合うだけの効果を得るためにはマネジメントに求められる力量も大きくなります。現時点では「同じ目標に向かってみんなで進みましょう」という手法の方が、むしろポジティブに捉えてもらえるはずと考えたのです。社員からの反応も上々でした。
民部 実際には議論がかなり行ったり来たりしました(笑)。これもまた「現時点の評価として何が誠実か?」と、VALUESに立ち返って考えた結果が「ワンチーム評価」なのです。
信頼性と透明性のあるマーケットデータが制度に納得感をもたらす
増渕 「等級」と「報酬」を紐づけるにあたってマーサ―ジャパンの『総報酬サーベイ』をご活用いただいたわけですが、『総報酬サーベイ』では、特定の企業群を10社以上ピアグループとして設定し、その報酬水準を比較することができます。御社では、どのような基準でピアグループを選定されたのでしょうか。協力:マーサージャパン株式会社
この後、下記のトピックが続きます。
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●透明性と納得度の高いデータの活用で実現した「競争力のある報酬水準」
●人事制度を浸透させるために、制度説明よりも大事なポイントとは
●スタートアップが、早期かつ本格的に人事制度の設計に取り組む意義
●スタートアップに特化したサーベイへの期待
●企業が成長フェーズを進むなかで、人事が忘れてはいけない視点
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