従業員が定年まで健康に働くための福利厚生として、がん検診を行う企業が増えているように感じます。では、検診後はどのようなサポートをしていますか? がん検診を受けさせるだけでは、従業員の健康を守ることはできません。検診後に行うべき従業員への措置について、大腸がん検診を例にとってご説明します。
【産業医監修】「がん検診」の実施後は従業員へ適切な措置を。大腸がんを例に解説

福利厚生としてふさわしい「がん検診」の条件

日本人の死因の1位が「がん」であることは、皆さんご存知だと思います。がんに罹患した場合、たとえ治癒したとしても、臓器の一部を手術で失うなど、身体に負担がかかることで十分な働きができなくなり、離職に至ることもあります。

定年が65歳になり、さらには将来70歳まで延ばされる可能性のある現在、がんの予防・早期発見・早期治療は企業にとっても非常に大きなテーマです。がん検診は、労働安全衛生法上、通常必ず行わなければいけない健診ではないのですが、従業員に定年まで健康に働いてもらうため、福利厚生の一環として行われることが多いです。

以前にも書きましたが、がんによる死亡を確実に減らすとされている検査は、部位別に下記のようなものがあげられます。

(1)胃がんのバリウムまたは内視鏡による検診
(2)大腸がんの便潜血による検診
(3)子宮頸がんの細胞診
(4)肺がんのX線検査(±細胞診)による検診
(5)乳がんのマンモグラフィ(X線検査)

そのほかに、PSA検査による前立腺がんの検診や、低用量CTによる肺がん健診、エコーによる乳がん・甲状腺がん・肝臓がんなどの検診、FDG-PETによる全身の検診なども、がん死亡の減少に貢献しているかどうかの研究がされています。少し次元が違うのですが、がんになりやすい因子を調べる意味で、B型肝炎もしくはC型肝炎ウイルスや、ピロリ菌が体内にいるかどうかの検査なども、がん検診の一部と言えます。

さて、企業がどのようながん検診を行うかを決める際、考慮するべき条件がいくつかあります。一つは安価であること、もう一つは検査自体の害が少なく、受診のハードルが低いことも大切な条件と言えます。例えば、子宮頸部の細胞診は、特に20~30代の女性に有効であると考えられていますが、心理的抵抗から受診率が低くなりがちです。早期発見・早期治療のための検査が求められることはもちろんですが、検査自体が体に負担を強いて、働くことに支障をきたすようであれば、あまり適切とはいえないでしょう。

検診後の措置が、「福利厚生」の価値を高める

先にあげたがん検診のうち、大腸がんの「便潜血検査」は、企業の福利厚生に向いている理想的な検診と言えます。まず、非常に安価です。さらに、自分で便の一部を郵送するだけですので無害ですし、検査への抵抗感も強くありません。そのうえ、大腸がんの多くはまず良性のポリープとして出現し、この段階から出血し始めるので、便潜血検査によって早期発見されます。

ポリープか初期がんの段階では、「大腸内視鏡検査」により切除できます。この検査はお尻から内視鏡を入れて行うので、開腹も全身麻酔も必要ありません。一方、がんが進行してからの治療になると、よくて手術、進行の程度によっては手術もできずに抗がん剤による治療による数年間の延命ということにもなりかねません。つまり、大腸がんはまさに早期発見・早期治療が可能ながんと言えます。

そして、ここで重要なことがあります。それは、企業として便潜血検診をした場合、「きちんと陽性者を追跡する」ということです。単に便潜血検診だけして、あとは結果が本人に届くだけ、という企業が多くあります。これでは従業員の健康を守れず、福利厚生としてお金を出した価値も低くなってしまいます。便潜血を何年も放置している方は少なくなく、そうしているうちにがんが進行してしまった人も多く見てきました。そういったケースに共通するのは、企業側からのフォローが少ないことです。

もちろん、会社が無理やり病院に連れて行くことはできません。しかし少なくとも、検査結果に問題があった場合は、その後受診したかどうか、大腸内視鏡検査を受けたかどうか、その結果どうなったか、といった報告をさせることは必要で、もし受診していなければ、会社側から強く受診を促すことが重要であると考えます。また、産業医・保健師から強く受診勧奨することもお勧めします。

以上のことは、健康診断について普遍的に言えることです。働き盛りの人が病気で十分な力を発揮できなくなることは、本人にも悲劇ですし、企業としても大きな損失です。健康診断は、受けて終わりではなく、そのあとにどうするかが大事です。会社の健康施策としてがん検診などの検査を行う場合、「決してやりっぱなしにしないこと」が重要であると考えます。

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