さらに、企業・応募者の双方が生成AIを当たり前に活用する時代となるなか、TOPPANでも採用活動における生成AIの活用可能性について検討を進めています。
今回は、同社の採用責任者である村上泰史氏と、外部パートナーとしてTOPPANの採用設計を支援する株式会社採用と育成研究社の小宮健実氏が対談。ジョブ型導入を契機とした採用戦略の変化や、採用活動における生成AI活用の可能性と課題について語り合っていただきました。(以下、敬称略)
【プロフィール】

■村上 泰史氏
1999年に新卒でTOPPAN株式会社に入社し、人事労政部門に配属。入社以降、社内各事業部での研修企画や人事業務、グループ会社での人事・評価制度などの企画設計・運用などを経験。2019年4月より採用チームのマネージャーに就任。現在は部長としてTOPPANの採用領域を牽引している。
TOPPAN株式会社
人事労政本部 人事部 採用チーム 部長

■小宮 健実氏
1993年日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。人事にて採用チームリーダーを務める傍ら、社外においても採用理論・採用手法について多くの講演を実施。2005年首都大学東京(現:東京都立大学)チーフ学修カウンセラーに転身。大学生のキャリア形成を支援する一方で、企業人事担当者向け採用戦略講座の講師を継続。2008年3月同大学を退職し、同年4月に採用と育成研究社を設立。企業と大学双方に身を置いた経験を活かし、人材の採用と育成に関するコンサルティングを実施している。
株式会社採用と育成研究社
取締役・パートナー

「トッパン版ジョブ型人事処遇制度」と現場目線にシフトする採用活動の今
小宮 弊社では2018年からTOPPAN様の採用活動をご支援させていただいておりますが、本日はこれまでご一緒してきた取り組みも踏まえながら、御社の採用活動の現状や、AIの活用などを含めた今後の展望をお伺いできればと思います。よろしくお願いいたします。村上 こちらこそよろしくお願いします。もともとは営業部門の新卒採用において、営業業務で成果を出すために必要な行動特性を整理・構造化し、それをもとに評価指標を設計するプロジェクトがあったのですが、そこで採用選考の設計や面接官のトレーニングなどをお願いしたのが始まりでしたね。また最近では、選考前に候補者の情報をより多面的に収集するため、弊社の事業テーマに沿ったワークショップを設計していただき、その中でどんな能力要素が発揮されるのか行動観察を行い、採用選考につなげていく。そういった取り組みもご支援いただいております。

村上 おっしゃる通り、社会全体でデジタル化が一気に進んだというのは、特に印刷業界にとっては大きかったですね。TOPPANは、もともとは「凸版印刷」という社名の通り、印刷事業を生業にしてきた会社です。もちろん現在も印刷の現場で活躍する社員は少なくないのですが、一方で近年は社会のデジタル化を背景に、ITサービス領域へとビジネスの軸足を移しています。
加えてグローバル化に伴い、高付加価値商材をグローバルに展開していくための専門知見も必要となっており、採用活動の在り方も大きく変わってきました。従来の採用では、ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)など学生の話をしっかり聴きながら、ポテンシャルを見極めることに注力してきましたが、この2~3年はどちらかというと「現場は今、どんな人材を求めているのか」という観点にシフトしつつあり、その解像度を高めることを重視しています。
小宮 そうした中で、TOPPAN様では2022年度より、従来の職能等級制度にジョブ型の考え方を取り入れた「トッパン版ジョブ型人事処遇制度」を導入されています。まずは、どのような制度なのか簡単にご紹介いただけますでしょうか。
村上 簡単に言うと、従来の年功的な要素をできるだけ排して、職種ごとの役割や成果に応じて処遇を決めていく制度です。従来は全職種共通で5段階だった等級制度を3段階に整理し、若手の抜擢を進めやすくしました。また上位等級については「事務・管理」「営業・企画」「研究・開発」「DX」という4つの職群ごとに、役割や職務に応じて最大で6区分のグレードを設けています。
ですので、入社年次に関係なく、パフォーマンスを発揮できれば、より早く上位等級に上がることができますし、報酬アップやマネジメントポジションへの登用も可能です。一方で一般的な欧米型のジョブ型雇用のように「ある職種だけを極める」という考え方とは少し異なります。弊社には研究、開発、生産ラインなど幅広い業務領域があり、それぞれの中で一定のローテーションを通じて経験の幅を広げていくという人材育成方針があります。
よってローテーションによる育成を前提としながら、その中で専門性や成果をより明確に評価し、実力次第でスピード感を持って成長できるような仕組みとしており、そうした点が「トッパン版ジョブ型人事処遇制度」の大きな特徴と言えます。
事業に本当に必要な人材を見極めるべく、ときには“採用しない”役割を担う
小宮 現場で求められる人材を明確化して採用につなげていくとなると、採用設計そのものを見直す必要がありますよね。
一方で、実際の面接になると「良さそうな人だから採用しよう」という判断はどうしても起きがちです。以前であれば、それでも成立していた部分はあったのですが、今はそこをあえて止めるようにしています。“採用する”ことがミッションである採用チームですが、場合によっては“採用しない”役割も担わなければならないと考えています。つまり「なぜこの事業にこの人材が必要なのか」という明確な合理性や納得感がなければ、無理に採用はしないのです。そういう意味では、事業側からすると少し「うるさい存在」になったかもしれません。
小宮 新卒採用についてはいかがですか?
村上 新卒に関しても、現在は新しい取り組みを進めています。これはTOPPANの中でも、新規領域を含めた特定の業務や職種に対して、配属を前提に採用を行う、いわばコース別採用のようなものです。完全なジョブ型ではなく、仕事内容を明示したうえで、その領域に関心を持つ学生に応募してもらう形を模索しています。
小宮 現場や経営層から「こういう人材を採用して欲しい」という方向性が示されると、必要なスキルや知識、経験といった部分は比較的整理しやすく、解像度も上げやすくなると思います。ただ、実際にはそれだけでなく、成果創出に関わる行動特性や価値観、性格なども踏まえて、採用や育成に活用できる観点・基準を整備していく必要があるでしょう。
そして、そのときに本当に問われるのは、評価に用いる観点や基準そのものの質です。単純に言葉を並べればいいわけではありません。「積極的だけど、一歩引いて見られる人が欲しい」といった、一見すると矛盾した表現は現場でもよく出てきますし、「優秀な人材」という言葉自体も非常に抽象的です。概念ごとに粒度が違ったり、バイアスが含まれていたりするので、どこまで解像度を高く整理できるかが問われているのだと思います。
村上 そこは本当に難しいところですね。これは個人的な考えですが、単に概念を言語化しただけでは解像度は上がらないと思っています。「積極性がある」「コミュニケーション能力が高い」といった言葉を並べても、それだけではあまり意味がありません。
言葉として整理するだけではなく、実際の仕事の場面で成果創出に不可欠な能力要素だと実証できてはじめて解像度が上がったと言えるのではないでしょうか。ただ、そこまでの評価を行うには時間もかかり、弊社自身もまだ道半ばです。採用時だけでなく、入社後のパフォーマンスや育成の過程も含めて、データをどのように蓄積し評価していくか。そこが今後さらに重要になっていくと思います。
小宮 解像度を高めていくために、何がポイントになるとお考えですか?
村上 やはりAIの活用が大きな鍵になるでしょう。例えば、入社前と入社後の評価基準をある程度統一させ、入社後に業務を経験させたうえで、「営業のハイパフォーマーにはどういう特性があるのか」といった傾向を分析します。
その結果を再び、採用時の評価へとフィードバックしていきます。もちろん入社前に得られる情報もさまざまですから、ガクチカやインターンシップの活動内容など複数の情報と、入社後のパフォーマンスデータをクロスさせながら、「どういう人が成果を出しやすいのか」AIを活用して推測していくイメージです。これはあくまでも私の仮説ですが、そうした取り組みを進めていかないと、本当の意味で「解像度を上げる」ことにはつながらないのではないかと感じています。
この後、下記のトピックが続きます。
続きは、記事をダウンロードしてご覧ください。
●「求める人材像の解像度」を高めるカギとなるAI活用
●すべてをAIに委ねず「どう関与するか」がこれからの人事に求められる
●試行錯誤を重ね、その先を見据えるジョブ型採用の未来像
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