人財の多様性は、組織の成長を支える重要な要素です。しかし、一人ひとりの価値観や考え方、仕事の進め方が異なる中で、互いを理解し、部門を越えて連携することは簡単ではありません。研修メニューを整えるだけでは、個々の特性に応じた学びを届けることは難しく、相互理解も個人の経験や感覚だけに頼っていては、組織全体に根づかせることが容易ではありません。

日本たばこ産業株式会社(以下:JT)では、こうした課題に対し、株式会社人的資産研究所が提供する「パーソナリティ診断(HaKaSe診断)」と「360度フィードバック」を導入しました。社員の思考特性や日々の行動を可視化し、チーム内に閉じない相互理解と、データに基づく組織開発を進めています。経験や感覚に頼りがちだった人事施策を、客観的なデータと現場での運用を組み合わせながら、どのように再現性のある仕組みにしているのでしょうか。

今回、JT人事部で人事業務のデジタル化を推進する志村慶氏と山岡京平氏、データ活用を支援した人的資産研究所の進藤竜也氏に、取り組みの背景から運用上の工夫、導入後に見えてきた変化、今後の展望まで伺いました。(以下敬称略)

【出演者プロフィール】


  • 志村 慶氏

    ■志村 慶氏
    日本たばこ産業株式会社
    人事部 次長

    2008年、日本たばこ産業株式会社に入社。これまでセールス・CS・マーケティングとさまざまな業務を経験し、2025年4月より人事部に異動。現在は人事業務における高度化・効率化を推進するチームに所属し、経験や勘に頼らない、客観的なデータに基づく「データドリブン人事』を牽引している。

  • 山岡 京平氏

    ■山岡 京平氏
    日本たばこ産業株式会社
    人事部 主任

    新卒で日本たばこ産業株式会社に入社。デジタルマーケティング推進部に所属し、通販サイト会員向けの LINE・メール広告を担当。その後、人事部に異動し、現在は社内アンケート等のデータを活用した組織運用改善の提案やアプリを活用した業務の効率化などを担当している。

  • 進藤 竜也氏

    ■進藤 竜也氏
    株式会社人的資産研究所
    代表取締役

    2011年、株式会社セプテーニ・ホールディングスに新卒入社。採用・育成・配置の分野においてアナリティクス技術を用いた支援を行う。セプテーニグループ内研究機関である人的資産研究所の所長を経て、2021年に株式会社人的資産研究所を設立し、HRテクノロジー事業を開始。一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員/個人情報保護士。

JT志村氏・山岡氏・ 人的資産研究所進藤氏

多様性が高まり、個を活かす育成と相互理解が重要に

――JT様はグループパーパスとして「心の豊かさを、もっと。」を掲げ、浸透・実現に向けた取り組みを進めていらっしゃいます。組織開発を進める上で、現在どのような課題を感じているでしょうか。

志村 課題の一つとしては、社員間の相互理解です。当社は人財の多様性を成長の源泉と捉えています。一人ひとりの価値観や考え方の違いを理解し合うことが、組織として力を発揮する上で必要であると考えています。相手の考え方や仕事の進め方が見えていれば、コミュニケーションはスムーズになりますし、不要な摩擦も減っていきます。しかし、経験や感覚だけに頼っていては、組織全体に広げていくことには限界があるでしょう。組織として仕組み化していくことが求められていました。
JT志村氏
進藤 多様性を重視することに伴い、チームを束ねる難しさは今、多くの組織に共通するテーマとなっています。相互理解というと、チーム内や部署内の関係性に目が向きやすいかもしれません。一方で、JT様は部署を越えた連携はもちろん、部門全体での協働まで視野に入れていました。相互理解を、組織全体が連携していくための土台として位置づけていた点に、課題設定の広さを感じました。

志村 背景には、国内外の拠点がワンチームで進んでいくという経営の方向性があります。自チームに閉じず、部門を越えて連携する動きが会社全体として求められているため、人事としても「部門を越えた相互理解をどう実現するか」を具体的に考えなければならなかったのです。

「人の勘や経験」に頼らず「仕組み」をつくる

――課題に対するアプローチとして、なぜ「データ」に向かったのでしょうか。

志村 人事はデジタル化が進みにくい領域です。異動の意思決定一つとっても、上司の経験や感覚に委ねられることが少なくありません。現場を知る上司の判断は確かに重要です。しかし、判断の根拠が定性的な情報に偏ると、どうしても属人的になり、再現性を担保しにくくなります。

私の所属するデジタルソリューションチームは、人事業務をデータドリブンで高度化・効率化していくことをミッションに立ち上がりました。これまで経験や勘に頼っていた部分を、データを取り入れることで、より再現性のある判断につなげたいと考えています。

進藤 この点は、支援する中で強く感じたところです。データ活用といっても、企業によってアプローチは大きく異なります。人事担当者がデータを見ながら人力で解決を目指し、徐々に仕組み化へ動こうとするケースもあります。一方で、最初から仕組みとして機能することを前提に設計する会社もあります。JT様は後者の考え方に近く、人に依存せずに組織全体で機能する仕組みをつくろうとされる設計思想を強く感じました。
人的資産研究所進藤氏

抽象的な指針を、日々の行動に落とし込む

――具体的にはどのような取り組みを行なわれたのでしょうか。背景からお聞かせいただければと思います。

山岡 前提として、JTはグループパーパス「心の豊かさを、もっと。」の実現に向けた日々の行動指針として、コーポレート部門に「Values & Behaviours(以下:V/B)」を提示しています。V/Bは、「ありたい姿を描き、行動に移す」「新たな物事と出会い、枠を広げる」「共創し、高め合う」「本質を見極め、理想を追求する」の4つの要素で構成されており、社員の評価項目にも組み込まれています。

他方、設定当初から「抽象度が高くてわかりにくい」という声が、各組織・各役職から上がっていました。指針や評価項目として掲げる以上、日々頭に浮かぶわかりやすさが重要なものの、一方で日々の業務と紐付けて自分ごととして捉えることが難しい状況が続いていたのです。

これを受けて昨年より導入したのが、2つの施策です。1つは「V/B版360度フィードバックシステム」です。抽象的に感じられていたV/Bも、身近な人の具体的な行動と結びつけることで、自分ごととして捉えやすくなります。日常的に一緒に働く仲間の行動を観察し、V/Bのどの要素と結びついているかを意識しながらフィードバックし合う仕組みにしました。

もう1つは、自己理解・相互理解を促すための「HaKaSe診断」です。一人ひとりの思考の特性を可視化することで、自分自身を知るだけでなく、周囲のメンバーとの違いも理解しやすくなります。運用では、管理職だけでなく、チームメンバー同士が互いの結果を見られるようにしました。相手の考え方や反応の傾向を理解し、日々のコミュニケーションを進めやすくする狙いがあります。
JT 山岡氏
「V/B版360度フィードバック」と「HaKaSe診断」を同じシステム上で実施し、一連の組織開発の取り組みとして表現・運用できたことも利点でした。異なる施策を別々のシステムで運用すると、利用する社員にとっては使い分けが難しくなり、定着の妨げにもなりかねません。同じシステム上で扱えるため、運用の負担も大きく軽減されました。

協力:株式会社人的資産研究所

この後、下記のトピックが続きます。
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●思考特性の可視化がもたらす「部門を超えた相互理解」
●データが証明した、2つの施策の成果
●生成AIや業務自動化ツール活用の先にある「人事業務の高度化」

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