
36協定と改善基準告示が「数字合わせ」で終わっていないか
規制の強化により、運送業の労務管理は複雑化しています。体制を整えるだけでなく、実際に運用できているかの再点検が必要です。(1)運送業でよく見られる形骸化の例
運送業では、次のような「形式的な36協定運用」がなされている現状があります。●法定上限に合わせて協定だけを変更し、実運用は従来と変わらない
●「繁忙期」などの抽象的な理由で、ほぼ毎月特別条項を発動している
●労働者代表の選出や協議が形式的で、現場の実態が反映されていない
36協定の特別条項は、本来「臨時的・特別な事情」に限られます。常態化すれば、条項が長時間労働の「隠れみの」だと労働基準監督署(労基署)に見なされるおそれがあります。
(2)改善基準告示との「二重管理」が必要
ドライバーには、一般の時間外規制に加え、「改善基準告示」による管理も求められます。2024年4月以降の主な基準は次のとおりです(その他休日労働の上限、特例などあり)。

デジタコ導入後も残る「隠れ残業」の実態はないか
デジタコや勤怠システムを導入した企業でも、労働時間管理の課題は依然として残っています。システム上の数字と現場での「指揮命令下の時間」に乖離がないかのチェックが必要です。(1)運送業特有の見えにくい労働時間
労働時間は「労働基準法」上、「使用者の指揮命令下にある時間」であり、作業の有無は問いません。物流の現場では、次のような時間が記録から漏れがちです。●荷待ち時間を一律に休憩扱いにしている
●荷役作業が勤怠に反映されていない
●日報作成や点呼待ちが打刻外になっている
●車両点検や洗車などが労働時間に含まれていない
特にデジタコの運行記録と勤怠打刻の不一致は問題になりやすいため、明確なルール化が急務です。
(2)人事が確認すべき管理ポイント
労働時間管理が実態として機能しているかを確認しましょう。まず、デジタコの運行記録と勤怠システムの打刻データを定期的に突き合わせ、運転時間や拘束時間、休息期間が改善基準告示の範囲内に収まっているかを確認する必要があります。また、荷待ち時間や荷役作業、車両点検など、運送業特有の付帯業務を含めた「1日の拘束時間」が適切に集計されているかも重要なポイントです。直行直帰の場合は自己申告に依存せず、デジタコや配車システムのログなど客観的な記録で労働時間を把握する仕組みが求められます。
デジタコや勤怠システムはあくまでツールです。データと実態のギャップを継続的に検証する仕組みこそが、是正の鍵となります。
長時間労働の背景にある「荷主問題」
トラック運転者の長時間労働の背景には、「荷主側の取引条件」も大きく影響します。恒常的な荷待ち時間や、余裕のない納品時刻の指定などが、結果としてドライバーの拘束時間を長引かせる要因となっています。そのため行政は、荷主企業に対しても、長時間の荷待ちを発生させないことや、改善基準告示を踏まえた発注を行うこと、などを要請しています。
人事担当者としては、拘束時間・荷待ち時間などの実績データを整理し、営業や配車部門と共有した上で、荷主との取引条件や運行スケジュールの見直しの材料として活用することが重要です。
人事担当者が今取り組むべき実務ステップ
運送会社の人事担当者は、次の4つの観点から現状を点検することが望ましいでしょう。(1)労働時間データの可視化
拘束時間や時間外労働を、ドライバー別・路線別に整理します。
(2)隠れ残業のルール化
荷待ち・荷役・点呼前後などの時間を、労働時間として扱う基準を明確にします。
(3)運行計画の再点検
改善基準告示に基づき、運転時間や休息期間が確保できる運行スケジュールになっているか確認します。
(4)荷主との協議材料の整理
荷待ち時間や拘束時間のデータを分析し、条件改善の根拠として活用します。
これらの点検は、法令遵守のみならず、ドライバーが安心して働き続けられる環境作りの第一歩です。現場を正しく把握し、1つずつ改善して形骸化を防ぎましょう。
まとめ
2024年問題から2年が経過し、運送会社の対応には差が生まれつつあります。制度を整えただけの企業は長時間労働から抜け出せず、実態を改善した企業では安全性や定着率の向上が見られるなど、状況は二極化しています。人事担当者に求められるのは、実態の改善です。デジタコ記録と実態の乖離や、負荷が集中する路線・荷主の把握など、一歩踏み込んだ取り組みが不可欠となっています。
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