学校法人産業能率大学総合研究所が実施した2025年度の「新入社員の会社生活調査」は、日本企業の進むべき道に一つの大きな課題を投げかけた。「年功序列的な人事制度と成果主義的な人事制度のどちらを望むか」という毎年の定番の設問に対し、驚くべき結果が示されたのだ。

新入社員は「年功序列」を志向? 企業に求められるのは“安心”と“成長”を両立させた柔軟な人事制度

新入社員が年功序列を望む深層心理

調査で「年功序列」または「どちらかといえば年功序列」を望むと回答したのは、回答者全体の56.3%であった。これは「成果主義」または「どちらかといえば成果主義」の43.6%を上回り、調査開始以来初めて過半数を占めるという、まさに時代の転換点を示す結果となった。長らく「旧態依然」の代名詞となり、90年代以降、見向きもされないことが多かった「年功序列」が、新しい世代によって再評価されたのである。

この結果について、単に「最近の若者は保守的で安定志向が強いから」で片付けるのはあまりにも短絡的であろう。終身雇用制度の崩壊が叫ばれ、実力主義が時代の潮流とされてきた中で、なぜ若者は旧来の制度に回帰するのであろうか。彼らが求める「年功序列」とは、単なる「楽」や「逃げ」なのだろうか。その背景には、現代社会の構造的な変化と、VUCAな時代を生きる若者特有の切実な心理が隠されているように思えてならない。

「リスク回避」に傾く若者の現実的な判断

新入社員が「年功序列」を望む背景で最も考えられるのは、社会の不確実性が高まる現代において「安定志向」と「リスク回避」が強烈に意識されていることではなかろうか。

調査結果からは、「終身雇用」を望む割合も69.4%と7割に迫り、「同じ会社に長く勤めたい」とする回答となっている。これは、物心ついた頃からデフレーションや不況、そして東日本大震災やコロナ禍といった大きな社会不安を経験してきた世代が、「長期的な生活基盤の保証」を切実に求めていることの表われかもしれない。

「年功序列」は、少なくとも勤続年数に応じて収入が緩やかに上昇し、将来の生活設計がある程度見通せる安心感をもたらす。一方で、「成果主義」は「実力があれば高い報酬」というメリットがある反面、「成果が出なければ解雇や減給」というシビアなリスクを伴う。経験の浅い入社初期は、不確実な評価に賭けるよりも、安定した土台の上で着実に経験を積みたいと考えるのは、むしろ自然で合理的な選択と言えるだろう。

不完全な「成果主義」への不信

若者が「成果主義」に背を向けるもう一つの要因は、日本企業特有の「成果主義」に対する「不信感」と「不公平感」であろう。

日本企業が導入した「成果主義」は、多くの場合、欧米方式の徹底した実力主義ではなかった。結果として、「成果を出しても中高年社員の給与は下がらず、若手の給与は抑制される」という、実質的に「若手には成果主義、中高年には年功序列」のハイブリッド型として機能してきた側面がある。

さらに、特に事務・管理部門など、成果の数値化が難しい職種では、評価基準が曖昧になりがちでもある。若手は、「頑張っても評価が上司の主観で決まってしまうのではないか」、「目に見えない貢献が正当に評価されないのではないか」という不透明性、すなわち「ブラックボックス化した成果主義」への強い不満と不信を抱いているのである。

過度な競争環境や短期的な成果を求められるプレッシャーは、ワークライフバランスを重視する世代の価値観とも相容れない。彼らが望むのは、結果だけでなく、プロセスの評価やチームへの貢献、努力そのものが報われる、といった広範な意味での「公正な評価」なのである。

企業に求められるのは「安心」と「成長」の付与

この調査結果は、企業に対し、純粋なる「年功序列」への回帰を求めているとは言えない。若者が真に求めているのは、「長期的なキャリアの保証」と「納得感のある評価」を両立させた、新しい人事制度のあり方ではないだろうか。企業が取るべき道は、「年功序列」か「成果主義」かの二項対立を超えた、ハイブリッド型の人事制度を設計することである。

まず、賃金において、年功的な要素を再評価し、入社後数年間は「育成期間としての昇給」を保証することが、若者の定着と安心を確保する土台となるだろう。これは、経験を積むことで将来の成果につながるという、「時間軸を考慮した評価」の導入と言える。

その上で、評価制度の透明性を徹底的に高めることが必須である。成果主義的な要素を導入する際は、評価基準とプロセスを明確にし、フィードバックの質を高めることで、「頑張りが正当に評価されない」という不信感を払拭しなければならない。年功序列のメリットである「チームワークの促進」や「ノウハウの円滑な伝承」を評価項目に組み込み、個人間の過度な競争を煽るのではなく、組織全体の成長への貢献度を重視することも重要だろう。

若者の「安定」を求める声は、「不安定な環境下で疲弊したくない」という、極めて現代的なメッセージでもある。このメッセージを真摯に受け止め、企業が「安心できる土台」と「成長できる環境」を両立させた柔軟な人事制度を構築できるかどうか、がこれからの企業間競争力を大きく左右する鍵となるだろう。

日本企業は今、新しい時代の働き方と評価のあり方を、若者の意識の変化に合わせて再定義する必要に迫られている。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!