自動車業界に激しい変化の波が押し寄せています。近年は「100年に一度の変革期」とも言われ、EV化やSDV(SoftwareDefined Vehicle)が話題に上ることも少なくありません。先の見えない不確実な環境下での「対応力」を、組織はいかにして実装すれば良いのでしょうか。株式会社SUBARUが導き出した答えの核心は、経営と現場、組織間、社員同士の「つながり」を再構築し、人財価値を最大化することにありました。

今回、調達から営業、経営企画、技術管理まで幅広い分野でキャリアを積み、CHROに就任した草深英行氏と、人材データを活用した科学的人事を推進する「タレントパレット」を提供する株式会社プラスアルファ・コンサルティング 取締役副社長の鈴村賢治氏が対談。SUBARUの人財戦略と、その実践に向けた具体的な取り組みについてお聞きしました。

【対談者プロフィール】


  • 草深 英行氏

    ■草深 英行氏
    株式会社SUBARU
    執行役員 CHRO(最高人財責任者) 人事部長

    1994年、富士重工業株式会社(現:株式会社SUBARU)に新卒で入社し、群馬製作所にて調達部門に従事。10数年という長きにわたり、キャリアを重ねる。その後、経営企画、国内営業、技術管理などさまざまな部門を経験。2024年4月より執行役員 人事部長、2025年4月からは新設されたCHRO(最高人財責任者)に就任。SUBARU全社の人的資本最大化に向けて尽力している。

  • 鈴村 賢治氏

    ■鈴村 賢治氏
    株式会社プラスアルファ・コンサルティング
    取締役副社長

    中央大学理工学部卒業後、株式会社野村総合研究所に入社。システムエンジニアとしてキャリアをスタートし、その後、テキストマイニングやデータマイニングなどの分析コンサルティングを多数経験。2007年、株式会社プラスアルファ・コンサルティングに入社し、取締役副社長に就任。データ活用の知見を活かしたタレントマネジメントシステム「タレントパレット」事業を立ち上げ、社員のパフォーマンスを最大化する「科学的人事」を考案。その方法論の確立と啓蒙活動に尽力している。

SUBARU草深氏・プラスアルファ・コンサルティング鈴村氏

予測不能な変革期。競争力の源泉は「柔軟性とスピード」を生み出す「人」

鈴村氏:草深様は調達、経営企画、技術管理、国内営業など、SUBARU様の根幹を支えるさまざまな部門を横断的に経験されたとお伺いしました。そして昨年、人事としてキャリアをスタートさせ、今年CHROに就任されました。これまでのキャリアとは異なる領域となりますが、現在の心境をお聞かせください。

草深氏:人事一筋というキャリアを歩んでこられた方も多い中で、私の経歴は少々異色かもしれません。しかし、最近では事業部門の経験者が人事トップを務めるトレンドもあると聞きます。良い意味で、私もその新しい流れに乗せていただいているのかなと感じています。人事としての経験はまだ浅く力不足を感じることもありますが、一方で現場を知るからこその強み、具体的には「社内のどこにどんな人財がいるか」を理解しているという自負はあります。
SUBARU草深氏
鈴村氏:人財の持つ能力を最大限に活かそうとする人的資本経営の目指す方向と合致しているように感じています。多様な経験を持つ草深様は、現在の自動車業界をどのように捉えていますか。

草深氏:自動車業界では、随分前から「100年に一度の変革期」が始まっていると言われ続けてきました。その意味で、自動車業界は長期にわたり「変革期」に直面しています。しかも、この変革は一直線には進みません。近年は典型的には「SDV」や「EV化」がメディアを賑わせています。このうち、EV化を取り上げてみても、地域によって違いがあります。例えば、一時期はEV市場を牽引していたアメリカが最近ではややスローダウンし、中国が台頭してきました。想定通りの変化は起こらないのです。

しかし、予想がつかない中でも、これは不可逆だろうと言えることがあります。それはデジタル化です。デジタル化には二つの側面があり、一つは車そのものです。自動車はもはや、最先端技術の詰まったソフトウェアの塊となっています。もう一つは仕事の仕方、つまりDXです。AIなど最新のデジタルを活用しなければなかなか生産性が上がらず、企業として競争力が弱まってしまいます。こうした不確実な環境を乗り越えていくために必要なことは「柔軟性」と「スピード」です。では、柔軟性とスピードを生み出す源泉はどこにあるかというと「人」です。これから自動車業界は、人が主役となり、ますます人が注目されると考えています。

採用の景色が一変。ソフトウェア人財と製造現場、2つの採用課題

鈴村氏:人財面では、業界全体でどのような変化が起きていると感じていますか。

草深氏:採用のあり方も大きく変わってきていると感じています。
今はこれまでのメカ人財に加え、多くのソフトウェア人財が必要になっています。そうなると、採用競合先も、自動車メーカーだけではなくなってしまいます。メカ系では、ありがたいことに自動車業界が憧れの存在として見ていただけることが多いのですが、ソフトウェア分野は就職先が多岐にわたるため、これまでの手法がなかなか通用しません。そこで当社は、渋谷駅直結の開発拠点「SUBARU Lab」を設けるなど、ソフトウェア人財に興味を持っていただけるような環境を整備してきました。

ただ、そうした環境以上に大切なことが「SUBARUを好きか」ということです。当社では、自らのアイデアから形ある製品を生み出せる楽しさがあります。そして、お客様を魅了する新技術を創造できるチャンスも広がっています。その点が強みとも言えますし、そこに面白みを感じる人財でなければ、当社には少し合わないかもしれません。つまり、メカもソフトウェアもわかるメカトロニクス人財が必要になるのです。

課題はもう一つあり、製造現場を担う人財の採用です。当社の生産拠点である群馬県では、人財の確保が年々難しくなってきています。地域のサプライヤー様はもっと深刻で、危機的状況です。この課題は地域全体で解決を図るべきだと考え、派遣大手2社とのジョイントベンチャーを設立しました。

鈴村氏:サプライチェーン全体で人財戦略を考え、人財の確保に向けた取り組みは、自動車業界全体の未来にも関わってきそうですね。
プラスアルファ・コンサルティング鈴村氏
草深氏:この人財の課題に本気になって取り組まないと、将来的に車づくりそのものが成り立たなくなってしまうのではないかと、危機感を持っています。並行して、AIやロボットによる自動化・省人化を進め、現場の働きやすさを向上させることも急務です。「暑い」「重い」「きつい」などのイメージが残っていますから、そうした労働環境を改善し続けなければ、安心して長く働こうという気持ちには繋がらないと思いますので、より良い環境への改善は一層進めていきたいと思っています。

「言ったもん負け」の文化を壊す。組織の壁を越えるための本音の議論とつながり

鈴村氏:そうした事業環境の変化に貴社はどのような対応を考えておりますでしょうか。

草深氏:業界全体としてチャレンジングなことに取り組んでいかねばならないのは間違いありません。その中で、当社は経営戦略の大きな概念として「世界最先端のモノづくり・価値づくりができる会社」であり続けることを掲げています。その実現のために、人・組織は「真の競争力を持った状態」でなければならないと定義づけています。

では、「真の競争力」とは何か。いくつか挙げられますが、1つめは「人財価値が最大発揮されている状態」だと考えています。これは、当たり前のことのように聞こえますが、実現は非常に難しいテーマです。当社には、固有の優れた能力を持った社員が数多く在籍していますが、その力を私たちが本当に使い切れているのかと問われると、胸を張ってイエスとは言えないのが正直なとこです。改善の余地がまだまだたくさんあると感じています。

2つめは「スピード」です。当社は堅実さが持ち味である半面、スピードを上げることは得意とは言えず、課題だと感じています。3つめは「組織の壁を容易に越えていること」。これも大きな課題です。エンゲージメント調査でも「組織の壁」に関するスコアがあまり良くないのが実情です。SUBARUが好きという同じ気持ちを持った社員が多いからこそ、これを組織間のコミュニケーション活性化に繋げていきたいです。

最後に、組織風土の課題もあります。特に挑戦については、単発の取り組みで終わってしまい、大きなムーブメントにならない傾向が見受けられます。社内では「言ったもん負け」という少し悲しい言葉を聞くこともあります。せっかく先陣を切って挑戦しても徒労に終わってしまうと感じられてしまっているようで、この状況には、強い危機感を抱いています。
SUBARU の 経営戦略と人的資 本の関係
鈴村氏:そうした課題の原因はどこにあると捉えているでしょうか。

草深氏:掘り下げていくと、「つながり」が希薄になっている現状が浮かび上がってきます。例えば、「経営と社員」「社員同士」「組織と組織」。個々の社員が持つポテンシャルを最大限に引き出すためには、これらのつながりを再構築し、強固にしていく必要があります。

協力:株式会社プラスアルファ・コンサルティング


この後、下記のトピックが続きます。
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●ソフトウェア人財と製造現場、2つの採用課題
●「キャリア自律」と「自発性」が社員のモチベーションを生む
●企業の競争力を上げるカギは社員の「やる気」の最大化にある

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