持続的な企業価値向上の鍵として「人的資本経営」の重要性が高まる一方となっている。その中核的テーマの一つが「キャリア自律」だ。言葉が先行する一方で、いかにして従業員一人ひとりの挑戦を促し、個人と組織の成長につなげるかは、大きな課題となっている。この大きな潮流を受け、三菱電機株式会社は近年、複数の人事制度改革を断行している。2022年度には形骸化しつつあった「社内公募制度」や「社内FA制度」を大胆に刷新し、異動成立件数を大幅に増加させた。さらに2024年度からは「副業制度」を試験的に導入し、20年ぶりとなる人事処遇制度の改定にも踏み切った。この背景には、従業員一人ひとりの「キャリアオーナーシップ」を引き出すという、伴走型の人事思想がある。なぜ同社は今、これほどまでに従業員のキャリア自律支援に力を注ぐのか。今回、グローバル人財部 人事企画グループマネージャー 高橋 陽平氏と同 課長代理 渡部 敬之氏にお話を伺った。次々と打ち出される施策の裏側にある「伴走支援」の考え方と、文化醸成のリアルな道のりに迫る。


プロフィール

  • 高橋 陽平 氏

    高橋 陽平 氏

    三菱電機株式会社
    グローバル人財部 人事企画グループ
    マネージャー

    2001年に三菱電機へ入社後、複数の支社・製作所で人事業務に従事。キャリアの中では、本社人事部(現・グローバル人財部)で人事処遇制度・退職金制度の運営や、20年ぶりとなる人事処遇・報酬制度改定の責任者も経験。現在は経営幹部候補の育成・配置やキャリア支援・マネジメント強化施策等全般を統括。

  • 渡部 敬之 氏

    渡部 敬之 氏

    三菱電機株式会社
    グローバル人財部 人事企画グループ
    課長代理

    2011年に三菱電機へ入社し、兵庫県の三田製作所(現・三菱電機モビリティ㈱三田事業所)にて人事業務に従事。その後、2021年から本社にて自動車機器事業本部のHRBPを担当、同事業を分社化した三菱電機モビリティ㈱の設立等を経て現職。現在は人事異動・キャリア支援制度、マネジメント強化施策等を担当。

三菱電機が試行錯誤する数々の「自律的キャリア開発支援」――制度の裏側にある「職場のあり方の見直し」や「管理職へのマインドセット」

自律的キャリア開発を支える「社内公募」「社内FA」「社内外副業」という3つの柱

――貴社では数々の自律的キャリア開発支援を進めておられます。まずはその中心となる社内公募制度「Job-Net」、社内FA制度「Career Challenge」、社内外副業制度「EGG」それぞれの制度について概要をお聞かせください。

高橋氏:
「Job-Net」は一般的な社内公募制度です。部署が社内システム上に求人情報を掲載し、従業員が自らの意思で応募します。「Career Challenge」は社内FA制度に近い仕組みで、従業員が自身の希望キャリアを登録すると、それを見た一定レイヤー以上の管理職からオファーが届く可能性があります 。

「Job-Net」が自ら仕事を取りにいく“攻め”、「Career Challenge」がオファーを待つという“待ち”の制度と言えるでしょう。いずれも20年以上前からあった制度ですが、形骸化しており、ほとんど社内、従業員から忘れられていました。会社がキャリアオーナーシップをより強力に推進する姿勢を示すためには、テコ入れが必要です。そこで2022年に応募の際の心理的なハードルとなっていた「上司への事前報告」と「上司の拒否権」を撤廃しました。従業員がより自律的に、自身のキャリアを考えて挑戦できる環境を整えようとしたのです。
三菱電機が試行錯誤する数々の「自律的キャリア開発支援」――制度の裏側にある「職場のあり方の見直し」や「管理職へのマインドセット」

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