「日本をオリジンとするグローバルホテルチェーン」への飛躍を掲げ、2035年までに国内外250拠点への拡大を目指す株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイドは、2026年4月に新たな人事制度を導入した。柱となるのは、年次・年功に関わらず優秀な人財を早期登用する抜擢人事制度「ダイナミックステッププログラム」と、管理職と休息を求める従業員に充電期間を設けたうえで再挑戦を促す「リチャージ制度」だ。「抜擢」と「再挑戦」の仕組みを両輪として設計した点に今回の制度改革の特徴がある。従来の勤続年数を軸とした昇格制度は、優秀な若手や中途人財の登用を阻む構造的な課題を抱えていた。これを受け同社は、能力や将来性をより重視する制度改革に踏み切った。本記事では、同社 執行役員 兼 ヒューマンキャピタル部 部長の大森篤氏と、同部 アシスタントマネジャーの平石祐希氏へのインタビューを通じて、導入に至った背景や制度を形にしていくうえで意識した点のほか、従業員への周知の仕方や同社の組織文化などを紐解く。

プロフィール

  • 大森 篤 氏

    大森 篤 氏

    株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイド
    執行役員
    ヒューマンキャピタル部 部長

    1996年、新卒で高輪プリンスホテル(現:グランドプリンスホテル高輪)に入社。その後、社長秘書室、西武ホールディングスへの出向を通じて事業経営に多角的に携わる。その後、首都圏ホテルの人事・管理部門責任者として、人財マネジメントや組織運営を担う。2019年に本社人事部へ異動し、人財戦略の推進や人事制度改革をリード。2022年にヒューマンキャピタル部の部長に就任。組織力と人財力の向上・推進を牽引し、2026年より執行役員として経営の一翼を担っている。

  • 平石 祐希 氏

    平石 祐希 氏

    株式会社西武・プリンスホテルズワールドワイド
    ヒューマンキャピタル部 アシスタントマネジャー

    2020年、新卒総合職として入社。経営戦略や事業企画、西武ホールディングスへの出向などを通じて、事業運営に関する幅広い知見を培う。2024年にヒューマンキャピタル部へ異動し、教育戦略担当として新規人財育成施策の企画・推進を担う。同年、大学院大学に進学し、仕事と学業を両立しながら翌年にはMBAを取得。現在は、人事制度改革をはじめとする各種人事施策の立案・推進を通じて、組織変革と人財価値向上の実現に取り組んでいる。

西武・プリンスホテルズワールドワイドが導入する「抜擢」と「再挑戦」の新人事制度――背景にある「昇格に対するジレンマ」と「管理職の選択肢」

長期戦略に向けた「抜擢」と「再挑戦」の新たな人事制度

――まず2026年4月に導入された新制度について、概要を教えてください。

平石氏:
大きく2つに分けた制度を新たに導入したのですが、1つ目の抜擢人事制度「ダイナミックステッププログラム」は、管理職としての素質を持ちながら、勤続年数などの昇格要件を満たしていなかった人財を、執行役員級の推薦によって管理職等級へ引き上げる会社主導の仕組みです。従業員が自ら手を挙げて支配人などの上位役職に挑戦する、既存の「チャレンジ制度」とは異なり、あくまで会社が主導して抜擢登用する点が特徴です。本来の等級から飛び級で登用するため、経験から見てハードルの高い挑戦、いわゆるタフアサインを割り当てることで、急速な成長を促します。

もう1つの「リチャージ制度」には、2種類の制度が含まれています。まずは管理職以上を対象とした評価に基づく再挑戦の仕組みです。人事評価を踏まえてさらなる研鑽が必要と判断された場合に、一定の業務改善期間を設けます。その期間における成果を踏まえて、改善されなければ降格、改善が見られれば現在の等級を継続できます。自身の役割に対する成果と課題を見つめ直すことを通じて、再挑戦につなげていただく制度です。

もう1つは休息を求める従業員すべてを対象とした再挑戦の仕組みです。本人の申入れにより等級を下げて休息、充電の期間を設けます。従業員自身が最大のパフォーマンスを発揮できる環境が整ったときに、改めて復位して再挑戦することができます。降格そのものを目的とするのではなく、モチベーションを回復し、再挑戦への意欲を高めていただくことに主眼を置いています。

――「リチャージ」という名称が印象的です。

平石氏:
そこは非常に意識した点です。「降格」という言葉には、落第のようなマイナスのイメージがつきまといます。そうではなく、次にステップアップするための充電期間であることを受け止めてほしいという思いから、「リチャージ」と名づけました。

大森氏:働き方の面でも意味があります。育児や介護など、従業員が抱える事情はさまざまです。今の職責を担い続けることが少し難しい場合には、一度プライベートを優先し、環境が整えば元の職責を再び担うことができます。そうした選択肢を用意することも、働きやすさにつながると考え、この制度を充実させました。

――新制度導入の背景には、どのような課題意識があったのでしょうか。

平石氏:
当社は「西武グループ長期戦略2035」で、2035年までに国内外250拠点の拡大を掲げています。その実現には、スピードのある人財確保と、専門性の高い人財の育成が欠かせません。ところが、従来の昇格試験には勤続年数が要件に含まれているため、昇格機会を「待つ」構造でした。つまり、優秀な若手や中途入社の人財がいても、要件を満たすまで登用できないジレンマを抱えていたのです。優秀な人財には早期にステップアップしてほしいと考えたことが制度導入の出発点です。

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