以上のような経緯を踏まえ、今回の法改正では
「企業規模要件」を完全に撤廃し、被保険者数が何人であっても短時間労働者に社会保険加入を義務付けることが正式に決定された。ただし、いきなり「企業規模要件」を全く使用しなくなるわけではない。以下のとおり段階的に加入対象を拡大し、最終的に撤廃に至る仕組みが採用されている。
●2027年10月1日 …「被保険者数36人以上の企業」に拡大
●2029年10月1日 …「被保険者数21人以上の企業」に拡大
●2032年10月1日 …「被保険者数11人以上の企業」に拡大
●2035年10月1日 …「被保険者数10人以下の企業」に拡大し、企業規模要件を撤廃
上記のように、「企業規模要件」は小規模企業へ拡大する改正が繰り返され、最終的には10年後の2035年10月1日に完全撤廃される。その結果、10年後のわが国では、被保険者数の多寡がパート勤務者などの社会保険加入に一切、関係がなくなるわけだ。企業規模要件の撤廃は厚生年金の被保険者数が50人以下の企業のうち、総従業員数に対する短時間労働者数の比率(以下「パート比率」という)が高い小規模企業に対し、より大きな影響を及ぼす。
パート比率が高いほど、今回の法改正に伴って企業側が新たに納付義務を負う社会保険料が過大になるからだ。
ところで、パート比率が高い小規模企業は、どのような業種に多く存在するのだろうか。下図の2つのグラフを参考に考察してみよう。左のグラフは『従業者数49人以下の事業所数が多い5業種』を、右のグラフは『パートタイマーの就業比率が高い5業種』を表している
(左のグラフの “従業者” は短時間労働者も含み、右のグラフの “パートタイマー” は短時間労働者以外も含む)。
両グラフを比較すると、いずれも上位3業種の中に「卸売業、小売業」及び「宿泊業、飲食サービス業」が入っていることが分かる。従って、これらの業種に属する事業者は、今般の企業規模要件の撤廃による影響が大きいことが懸念される。
スーパーや飲食店などは、パートタイマーやアルバイトなどの非正規従業員が店舗運営の主力であるケースが多い。これらの事業を営む企業では、企業規模要件の撤廃によって新たに生じる社会保険料負担の影響に注意が必要といえる。
現在の保険料率は厚生年金が18.3%、協会けんぽの健康保険が全国平均で10.0%、協会けんぽの介護保険が全国一律1.59%で、計29.89%である。
企業側はこの半分の割合の保険料について、新規に社会保険加入した従業員全員分を毎月負担しなければならないため、財務状況に及ぼす影響は小さくない。これらの企業と取引をする関連事業者も、余波を受ける可能性があるといえよう。厚生労働省が作成した資料である『制度改正内容を反映した試算結果』によると、今回の年金法改正で企業規模要件が撤廃されることにより、最終的に70万人が短時間労働者として社会保険に新規加入すると推計されている。撤廃までの各段階における新規加入者数の内訳は、以下のとおりである。
●「被保険者数36人以上の企業」に拡大 … 10万人
●「被保険者数21人以上の企業」に拡大 … 15万人
●「被保険者数11人以上の企業」に拡大 … 20万人
●「被保険者数10人以下の企業」に拡大 … 25万人
また、新規加入者70万人の加入前の状況は国民年金の第1号被保険者であった者が25万人、同制度の第3号被保険者であったものが30万人、年金制度の加入対象外とされていた者が15万人である。企業規模要件撤廃の影響を最も受けるのが、国民年金の第3号被保険者のようだ。
第3号被保険者は、これまでの企業規模要件の拡大時にはより規模の小さな企業に職場を変更すると、引き続き職場での社会保険加入を回避することが可能であった。その結果、保険料を負担せずに社会保険サービスを享受する権利を維持できた。
しかしながら、企業規模要件は完全に撤廃されることになったため、今後は「より規模の小さな企業に職場を変更することで、第3号被保険者のメリットを利用し続ける」という手法は取ることがかなわないようである。
次回は、社会保険の加入対象拡大の3番目の項目である「個人事業所に対する社会保険加入の強化」について見ていこう。