令和5年度がスタートしました。障がい者雇用における施策においてもいくつか変更点があります。また、今年度実施ではないものの、雇用率アップや除外率の引き下げのスケジュールが決まっており、助成金などの新設が検討されています。今回は、令和5年度の障がい者雇用における施策の変更点と、今後の障がい者施策の動向について解説していきます。
【令和5年度版】障がい者雇用における施策の変更点と今後のスケジュール

精神障がい者の算定特例の延長

令和5年4月以降も、精神障がい者の短時間雇用については「1人」とカウントする算定特例が延長されることになりました。「精神障がい者の算定特例」とは、平成30年4月から精神障がい者の雇用が義務化されて、雇用率が引き上げられた時にできた制度です。この際、精神障がい者の職場定着を進める観点から、精神障がい者である短時間労働者の実雇用率の算定に関して、令和4年度末まで短時間労働者を「1人」とカウントする特例措置が設けられました。通常、週所定労働時間が20時間以上30時間未満の場合は「0.5人」とカウントします。詳細については、関連リンクをご参照ください。
障害者雇用率の算定について

出典:障害者雇用率制度について(厚生労働省)

令和5年3月までの特例措置では要件が定められていましたが、今回の改正により、雇入れ等からの期間に関わらず、当分の間、精神障がい者の短時間雇用については「1人」とカウントすることが厚生労働省より示されています。

算定特例の期限については、今のところ明確にされていませんが、「当分の間、継続すること」と発表されています。今後、令和6年度末までに調査研究(「精神障害者の等級・疾患と就業状況との関連に関する調査研究」)の取りまとめがあり、この結果等を参考にして精神障がい者における「重度」という取扱いについて一定の整理をし、特例の取扱いについて、あわせて検討される見込みです。

「特定有限責任事業組合」の算定特例に関する変更

障害者雇用率制度では、障がい者の雇用機会の確保が義務付けられていますが、一定の要件を満たす場合に、複数の事業主で実雇用率を通算することができる制度として、特例子会社制度があります。特例子会社制度では、企業グループ適用(関係会社特例)に加え、平成21年4月から「企業グループ算定特例(関係子会社特例)」、「事業協同組合等算定特例(特定事業主特例)」が創設されました。

この「事業協同組合等算定特例」は、中小企業が事業協同組合等を活用して協同事業を行い、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の認定を受けたものについて、事業協同組合等(特定組合等)とその組合員である中小企業(特定事業主)で実雇用率の通算が可能になるものです。

平成29年からは、事業協同組合等算定特例制度において、国家戦略特区では有限責任事業組合(LLP)を認定対象に加えています。このLLPで設立することにより、異業種の企業の参画が可能となるのに加え、設立手続きが簡便となりました。しかし、このLLPの特例制度は、国家戦略特区指定区域でしか認められていませんでした。

これが、令和5年度施行分の省令・告示改正によって、国家戦略特区の制限がなくなり、全国で特定有限責任事業組合(LLP)の設立が可能になりました。
有限責任事業組合(LLP)の算定特例について

出典:中小企業における障害者雇用の促進について(厚生労働省)

今後の障がい者雇用施策の見通し

●令和6年4月より障害者法定雇用率が段階的に引き上げ
障害者法定雇用率が段階的に引き上げられます。令和5年度は障害者法定雇用率は据え置き(2.3%)、令和6年4月1日に2.5%、令和8年度中に2.7%と上がっていく見込みです。詳細については、関連リンクをご参照ください。
令和5年度以降の障害者雇用率の変更内容

出典:障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について(厚生労働省)

●令和7年4月以降に障がい者雇用の除外率が引き下げ
障がい者の雇用が一般的に難しいと認められる業種では、雇用する労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除する制度(障がい者の雇用義務軽減)が設けられています。例えば、船舶運航業や小学校など、障がい者を雇用しにくいとされる業種では、従業員数を計算する際に設けている除外率(5~80%)を引き下げるなどの措置がとられていました。

今後の障害者雇用率の引き上げが決まったため、除外率の引下げ時期については、雇用率の引上げの施行と重ならないように令和7年4月となります。除外率の該当業種と除外率については、下記のとおりです。
障害者雇用率の除外率の変更内容

出典:障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について(厚生労働省)

法定雇用率アップと除外率の引き下げ時期のスケジュールについては、まとめると以下のようになります。
障害者雇用率の引き上げと除外率の引き下げスケジュール

出典:労働政策審議会障害者雇用分科会資料(厚生労働省)

●令和6年4月以降、一部の短時間労働者を雇用率への算定に追加
週所定労働時間が10時間以上20時間未満の精神障がい者、重度身体障がい者及び重度知的障がい者について、雇用率上、「0.5人」とカウントして算定できるようになります。この算定方法の変更に伴い、週所定労働時間が20時間未満の精神障がい者、重度身体障がい者及び重度知的障がい者を雇用する事業主に対する「特例給付金」の支給が廃止になる見込みです。

●障がい者雇用のための助成金の新設、拡充(令和6年4月以降)
障がい者の雇入れや雇用継続に関する相談支援、加齢に伴う課題に対応する助成金が新設される予定です。

例えば、障がい者雇用に関する相談援助を行う事業者から、雇入れやその雇用継続を図るために必要な一連の雇用管理に関する相談援助を原則無料で受けられるようになるほか、加齢により職場への適応が難しくなった方に、職務転換のための能力開発、業務の遂行に必要な者の配置や、設備・施設の設置等を行った場合の助成金が検討されています。現時点で、以下の助成金の新設、拡充が予定されています。
障害者雇用関連助成金の新設と拡充について

出典:労働政策審議会障害者雇用分科会(厚生労働省)

これまでも企業における障がい者雇用は進められてきましたが、雇用率が上がり、除外率が引き下げられるなど、ますます障がい者雇用に取り組む必要性が上がっています。障害者雇用率を達成することも大切ですが、単に雇用するだけでなく、人材として活躍できるような体制づくりができていないと、ますます厳しい状況を作ってしまうことになりかねません。今から、しっかり準備しておくことをおすすめします。

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