【令和5年までの時限措置】精神障がい者かつ短時間労働者の雇用算定が0.5から1カウントに

障がい者雇用の悩みと解決のヒント

平成30年4月より精神障がい者の雇用が義務化され、法定雇用率が2.2%に引き上げられました。精神障がい者の雇用は増加傾向にありますが、他の障がい種別の身体障がい者や知的障がい者に比べると、職場定着率が低い傾向にありました(※1)。そのため精神障がい者の雇用を義務化するにあたり、特例措置として令和5年3月まで、障害者雇用率などの算定における「短時間労働の精神障がい者」のカウント数が、ひとり0.5から1に引き上げられています。この特例措置はどのような背景で設けられたのか、またどのような場合にカウントできるのかについて解説します。

改正された障害者雇用促進法のポイントとは?

平成30年4月に障害者雇用促進法が改正されました。この改正では、2つの大きな変更点がありました。まず、1つ目が『法定雇用率の引き上げ』があったこと、2つ目は『精神障がい者が雇用義務化の対象となった』ことです。

短時間労働の精神障がい者の実人員値がひとり0.5から1カウントにカウントできる背景には、この障害者雇用促進法の改正が大きく関わっていますので、少し具体的に見ていきたいと思います。

【1】法定雇用率の引き上げ
平成30年の改正では法定雇用率の引き上げが行われ、民間企業の法定雇用率は2.0%から2.2%となりました。これにともない障がい者の雇用義務のある事業主の範囲が、改正前の50人以上から45.5人以上となっています。また、令和3年4月より前(現時点で時期は不定)に、さらに0.1%引き上げられることが決まっています。
図表1:「平成30年4月1日から障害者雇用義務の対象に精神障害者が加わりました」(厚生労働省)より(※2)

【2】精神障がい者の雇用義務化について
平成30年の障害者雇用改正法以前は、障がい者雇用の義務があるのは、身体障がい者と知的障がい者のみとなっていました。今回の改正から、障がい者の種別の記載がなくなり、精神障がい者が対象に加わっています。これは、今後の障がい者雇用の雇用率に影響を及ぼすことになります。それは、障がい者雇用の法定雇用率は、下記の算定式のように、常用労働者数から「除外率相当の労働者」をひいて、失業者数が分母になり、障がい者の常用労働者数と失業している障がい者の数が分子とした計算式によって出されているからです。

[参考]除外率相当の労働者
現在の民間企業の法定雇用率は2.0%となっているが、一般的に障がい者の就業が困難と認められる業種については雇用する労働者を計算する際に除外率に相当する労働者数を控除する制度。平成16年4月に廃止されたが、経過処置として当分は業種ごとに除外率を設定している。
図表2:筆者作成



令和3年4月より前に、さらに0.1%の引き上げが決まっていますが、算定式に精神障がい者が加わったこと、また特に精神障がい者の雇用が増加していることからも、今後の障がい者雇用率は、ますます上がっていくことが想定されます。

しかし、精神障がい者の雇用を義務化し、法定雇用率を2.2%に引き上げる中で、懸念点がありました。それは、精神障がい者が、身体障がい者や知的障がい者に比べて職場定着率が低い状況にあるということです。

例えば、精神障がい者の退職状況についてのデータを見ると、次のような結果が見られています。


厚生労働省の資料「平成25年度障害者雇用実態調査結果」(※3)によると、障がい者の平均勤続年数は、身体障がい者が10年、知的障がい者7年9ヶ月に対して、精神障がい者は4年3ヶ月となっていました。

精神障がい者の離職の理由は、個人的理由が56.5%と最も多く、主な理由は「職場の雰囲気・人間関係」、「賃金、労働条件に不満」、「疲れやすく体力、意欲が続かなかった」、「仕事内容が合わない(自分に向かない)」が多くなっています。

また、保健医療学学会の論文「精神障がい者の離職率に関する研究 −最近 10 年間の分析−」(※4)によると、1年間で44%の精神障がい者が離職しており、この数字は2年半で働いている全ての精神障がい者が入れ替わる数値となっています。こちらの離職理由は、仕事への適応力、精神症状の程度、仕事に対する満足度など離職理由は多岐にわたっていることが報告されています。

引用:精神障がい者の職場定着は本当に難しいのか?(障害者雇用ドットコム)

また、精神障がい者の職場定着率は、週 20〜30 時間勤務の場合が最も高く、知的障がい者に比べると就職時に短時間勤務であっても、就職後に 30 時間以上勤務に移行する割合が高い傾向も見られていました。このような状況を含め、精神障がい者の職場定着を進める観点から、労働政策審議会障害者雇用分科会での議論を踏まえて、特例措置として短時間労働の精神障がい者カウントを、ひとり0.5から1カウントに引き上げることになりました。

短時間労働の精神障がい者をひとり1カウントにする特例措置とは?

まず、この特例措置では、現時点ではスタートから5年間となる令和5年3月31日までに、雇い入れられ、かつ、精神障がい者保健福祉手帳の交付を受けることが要件となっています。

対象となる労働者は、「常用雇用労働者」「短時間労働者」のどちらかに入る労働者となります。ここでいう常用労働者とは、1週間の所定労働時間が、30時間以上の労働者のこと指し、短時間労働者とは、1週間の所定労働時間が、20時間以上30時間未満の労働者のことを指します。20時間未満の労働者は、短時間労働者に当てはまらないため、対象としてカウントされません。

「常用雇用」という名称となっていますが、正社員として雇用契約期間の定めのない労働者だけでなく、雇用契約期間を定めて雇用されている(有期契約)労働者であっても、その期間が反復更新され、雇入れのときから1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる労働者も適用されることになります。
図表3:「障害者雇用率制度について」(厚生労働省)より(※5)


図表3内の「※」の部分は精神障がい者である短時間労働者で、下記(1)かつ(2)を満たす方については、1カウントとみなされます。
(1)新規雇入れから3年以内の方または精神障がい者保健福祉手帳取得から3年以内の方
(2)令和5年3月31日までに雇い入れられ、精神障がい者保健福祉手帳を取得した方

つまり、精神障がい者である短時間労働者(1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満)であって、雇入れから3年以内の方、または精神障がい者保健福祉手帳取得から3年以内の方で、かつ令和5年3月31日までに雇い入れられ、精神障がい者保険福祉手帳を取得した方については、短時間労働であったとしても1カウントとみなすことができます。

ただし、上記に該当しても対象とならない場合もあります。例えば、雇用していた精神障がい者が退職し、その退職から3年以内に、元の事業主と同じ事業主に再雇用された場合です。また、退職元の事業主には、子会社特例やグループ適用、関係子会社特例又は特定事業主特例の適用を受けている場合は、その特例を受けているグループ内の他の事業主も「退職した事業主と同じ事業主」とみなされることになります。

一方、療育手帳(知的障がいの手帳)を交付されていて、雇用後に発達障がいにより精神障がい者保健福祉手帳の交付を受けた場合は、療育手帳の交付日を精神障がい者保健福祉手帳の交付日とみなしてカウントすることができます。

詳細については、「精神障害者である短時間労働者に関する算定方法の特例措置 Q&A」(※6)や「精神障害者である短時間労働者のカウント方法について」(※7)などやハローワークで確認するとよいでしょう。

なお、現時点では、この措置がそれ以降も継続するかどうかについてはわかっていません。今回の措置による効果等を踏まえた上で検討されることになっています。

【出典】
※1:「障害者雇用の現状等」(厚生労働省職業安定局)
※2:「平成30年4月1日から障害者雇用義務の対象に精神障害者が加わりました」(厚生労働省)
※3:「平成25年度障害者雇用実態調査結果」(厚生労働省)
※4:「精神障がい者の離職率に関する研究 −最近 10 年間の分析−」(保健医療学学会)
※5:「障害者雇用率制度について」(厚生労働省)

【参考】
※6:「精神障害者である短時間労働者に関する算定方法の特例措置 Q&A」(厚生労働省
※7:「精神障害者である短時間労働者のカウント方法について」(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)
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著者プロフィール

障害者雇用ドットコム 障害者雇用アドバイザー 松井優子

特例子会社の立ち上げや国立特別支援教育総合研究所主任研究員等を経て、障害者雇用ドットコムを運営、障害者雇用の情報発信やコンサルティングに携わる。東京情報大学非常勤講師。著書に「はじめての企業でもできる障害者雇用を成功させるための5つのステップ」、「障害者雇用アドバイザーが教える障害者枠で働きたい人が知っておくべき就活の基本」、「特例子会社の設立を考えたら必ず読む本」等がある。
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