近年、障がい者雇用の中で、発達障がい者の雇用が増えています。発達障がいは対人関係の構築や維持が難しいため、「職場でのコミュニケーションに支障がある」、「職場に馴染みにくく、特性を発揮してもらうことが難しい」という声を聞きますが、特性にあった業務で活躍している人もたくさんいます。今回は、自閉スペクトラム(ASD)のある従業員と一緒に働く際に知っておきたいポイントや特性、それを活かした業務、職場でのマネジメントについて解説していきます。
【発達障がいと一緒に働く】自閉症スペクトラム(ASD)の得意な業務と接し方のポイント

自閉スペクトラム症(ASD)の特性と向いている業務

自閉スペクトラム(以下ASD)は、社会的な相互作用とコミュニケーションにおける困難さ、そして限定的で反復的な行動や興味を特徴とする発達障がいの一つです。相互のやり取り、相手の気持ちや場の雰囲気を読み取ることが苦手なのが特徴です。ASDは広範な症状と特性を持つため、「スペクトラム(境界線・範囲が明確ではない状態が連続している)」という言葉が使われ、個々の特性やニーズは多様さが見られます。

ASDは、特定の分野で際立った強みを持っていることがあります。特に集中力、記憶力、専門知識などが高い傾向があり、これらの強みを理解した業務についている人がいます。集中力という面を見ると、特定のタスクや興味のある分野に対して非常に高い集中力を発揮することがあります。特に興味や関心、こだわりのある部分については、長時間にわたってフォーカスしたり、細部のディテールやパターンを見逃さないため、精密さが求められる仕事に向いています。

記憶力に関しては、特定の情報を非常に高精度、かつ長期間にわたって記憶する能力を持っていることがあります。この特性は、知識の蓄積やデータの正確な管理において大きな強みとなり、研究やアナリスト業務に適すると言われています。興味を持った分野に対しては、非常に深く掘り下げて学ぶことが多く、結果として専門知識を身につけ、スペシャリスト的な業務を担当している人もいます。

これらの特性を活かした業務としては、細かい作業や規則性のあるタスク、特定の分野に対する深い知識を持ち、その知識を活かした業務などがあります。具体的には、品質管理やソフトウェアテストやプログラミング、データ処理やアナリティクス(分析業務)などが挙がります。

採用するにはこのような経験がある人材がいれば一番よいですが、障がい者雇用の場合、実務経験者はそれほど多くはありません。そのため最近では、未経験者でも適性のある人材に対して、トレーニングや研修、インターンシップなどの場を提供し、育成して採用につなげることが増えています。

あるIT企業では、ASDの従業員をエンジニアとして採用し、高い集中力と緻密な部分を見逃さない注意力を活かして、複雑なソフトウェアのバグを見つける業務に携わっています。このようにして、それまで外部に委託していた業務を内製化することによりコストを削減することができました。また、検査までのスケジュールに柔軟に対応できることや、クオリティが安定的していることもあり、社内でも評価されています。

職場でどのように接するとよいのか?

では、ASDの従業員と職場でどう接するとよいのでしょうか。4つの視点で解説していきます。

【業務指示やコミュニケーション】

ASDは得意な面がある一方で、社会性やコミュニケーションにおいて困難さが見られることがあります。そのため一緒に働いたり、接したりするときには、コミュニケーション方法を工夫したり、働く環境の調整が大切です。コミュニケーションの工夫としては、明確で具体的な指示を出すことが必要です。例えば、「この書類を整理してください」ではなく、「この書類を日付順に並べて、ファイルに分類してください」のような指示の出し方をするとよいでしょう。

また、曖昧な表現や比喩を避けるようにします。指示や説明はできるだけシンプルで、誰が聞いてもわかりやすい表現を心がけると伝わりやすくなります。スケジュールの見通しがわかると安心して業務に集中できることも多いので、スケジュールを設定し、変更がある場合には早めに伝えるようにしてください。

ASDの人は視覚的な情報を利用することで理解が深まることがあります。重要な指示や手順は、メモなどの視覚的にわかるものにまとめると、業務をスムーズに進めやすくなります。ASDの従業員がいる職場では、チェックリストやフローチャートを活用していることもよくあります。チェックリストには、作業手順やタスクを一覧にまとめて記載することで、必要な作業を見逃すことなく順序立てて進めることができます。また、業務の流れや手順をフローチャートとして視覚化することで、全体のプロセスを把握しやすくなります。

【職場の環境】

職場の環境としては、作業に集中するために静かで落ち着いた環境を希望する人が多いです。そのため席の位置を人の出入りが少ない場所に配置したり、机の周囲をパーテーションなどで仕切ったり、職場の音などが気になるようであれば、音を遮るためのヘッドホンの使用や静音スペースでの作業を許可してもよいかもしれません。

音だけでなく、光、匂いなどの感覚過敏傾向が強い人もいます。光に過敏な場合には、蛍光灯の明るさや画面の眩しさを調整することで、視覚的な負担を軽減することができます。匂いに関しては、強い香水や清掃用具の匂いを避けたり、マスクの着用をするなどして、感覚過敏を軽減することができます。

また、昼食時間や休憩時間は、一人でリラックスしたい、落ち着いて過ごしたいと希望する人も少なくありません。職場でリフレッシュできる環境や空間、リラクゼーションツールなどが役に立つこともあります。

【適切なフィードバックとサポート】

職場環境とともに大事なのが、適切なフィードバックとサポートです。業務指示では明確なものがよいことをお伝えしましたが、フィードバックでも具体的で明確なものがわかりやすくなります。例えば、「次回はこの部分を◯◯のように(イメージがわかるもの、サンプルがあるとなおよい)△△してください。」というような声掛けをすることにより、アウトプットの相違を減らすことができます。また、職場によってはメンター制度などを設けて、業務に関することだけでなく、職場での困りごとや悩みを相談できるようにしていることもあります。

【社内の理解促進】

障がい者雇用は、障がい者と一緒に働く社員の理解やマネジメントが不可欠です。一緒に働く社員はもちろんですが、職場全体で障がい理解を深めるための研修や定期的なトレーニングなどを行うことで、社内の障がい者雇用の受け入れ態勢が変化していくこともあります。このような取り組みを継続することによって、ASDに関する知識や理解を得られ、適切な対応がとれるようになります。

また、障がい特性上からも特性を活かす業務は、人事部や管理部よりも、技術的なことを扱う部門が向いている場合もあります。特性を発揮できる環境を整えていくためにも、障がい者雇用だから人事部と決めるのではなく、全体のニーズや業務内容、生産性なども合わせて組織として検討していくことが大切です。

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