最近、一段と聞く機会が増えた言葉の一つに「組織風土」がある。「組織風土」とは、組織の全員が共通の認識を持つ独自のルールや価値観を意味する。今回はより良い組織づくりに向けた「組織風土」の醸成・改革に向けたポイントや企業事例などを解説したい。自社の「組織風土」に問題がないか、本記事を参考にチェックしてみてはいかがだろうか。

「組織風土」とは何か

まずは、「組織風土」の意味、類する言葉との違いからおさえていこう。

●「組織風土」の意味とは

「組織風土」とは、組織を構成するメンバーの間で明確化され、共通認識となっている独自の価値観やルール、考え方を意味する。それらはいずれも、会社の仕組みや従業員の思考・感情・行動など、さまざまなものに大きな影響を及ぼすとされている。具体的には以下が想定される。

・従業員の感情
・従業員の行動
・従業員のモチベーション
・従業員のエンゲージメント
・人材の成長率
・人材の定着率
・労働生産性
・業績 など

●良い「組織風土」とは

良い「組織風土」とは、共通した目標の実現に向けて、従業員一人ひとりが意識したり、行動したりするための環境やルールが整っている状態と捉えていいだろう。良い「組織風土」を醸成するために抑えておきたいポイントがいくつかある。

・経営者が企業のビジョンやあるべき姿を明確に思い描き、社内外にオープンにしているか
・現場の声、本音がトップや組織全体に伝わっているか
・メンバー同士の意思疎通がスムーズにできているか
・組織目標の達成に向けた行動や規範を従業員一人ひとりが理解、共有しているか

●企業風土や組織文化、社風との違い

「組織風土」と似た言葉に、企業風土や組織文化、社風などがある。それぞれ、どう意味合いが異なるのか、一つひとつ解説していこう。

企業風土は企業全体に浸透しているルールや価値観を言う。「組織風土」がミクロ的な要素、企業風土はマクロ的な要素と置き換えてもいいだろう。

また、組織文化とは従業員の行動原理となる価値観や行動規範を意味する。企業が掲げるビジョンは時代を反映して変化する可能性があるだけでなく、それに合わせて従業員の意識も変わってくる。そのため、組織文化には柔軟な変化が求められるだろう。次に社風だが、これは社員が感じる会社の雰囲気や空気感、考え方を指す。例えば、「明るい」、「意見を言いやすい」、「緊張感がある」といった言い方をする。

理解を深めるために、組織を人間に例えて「組織風土」と組織文化、社風を捉え直してみる。「組織風土」は組織がこれまでに培ってきた性格、組織文化は組織の性格や時代の動向を反映した価値観、社風は組織の性格と価値観が生み出した人柄そのものという言い方ができるだろう。

「組織風土」を醸成するうえで、まずおさえておきたい3つの要素

「組織風土」は、ソフトとハード、メンタルという3つの要素から構成されている。それぞれがどのような要素なのかを理解しておこう。

(1)ソフト

まずは、ソフトな要素から説明しよう。これは、従業員一人ひとりの価値観や行動、人間関係などによって作られるものを指す。いずれも表面化していても明文化はされておらず、目に見えない要素である。具体的な例として、以下が挙げられる。

・トップの影響力
・共通認識によるコンピテンシーモデル
・組織内のローカルルール
・チームワーク力
・信頼関係
・責任の所在
・人間関係(上下関係や勢力関係)
・コミュニケーション
・従業員エンゲージメント
・組織コミットメント
・モチベーション
・判断基準
・個人の価値観、行動様式

(2)ハード

次は、ハードな要素だ。こちらは、組織において明文化された様式やルールなどに基づいて作られるもので、目に見える要素といえる。この要素にのっとり、経営者が積極的に関与していくことで、組織は適切な意思決定を下していくことができ、大きな変化を生み出せる。具体的な例としては、以下の通りだ。

・企業理念
・ミッション、経営理念
・社訓
・ビジョン
・バリュー(行動指針)
・中期経営計画
・コーポレート・ガバナンス
・就業規則
・人事制度(採用基準、人事評価基準、人事異動)
・人材配置
・評価制度
・事業内容
・業務内容
・業務プロセス
・組織構造
・組織体制
・明文化されたコンプライアンス
・マネジメント方針
・企業が掲げるコンピテンシーモデル
・リスク管理機能(危機管理機能)

(3)メンタル

メンタルは、ソフト要素のなかで特に従業員の精神状態や心理面に強く影響する要素を言う。感情が関わってくるとあってコントロールが難しいのが特徴だ。それだけに、この要素の改革には多大な時間と労力が必要となるが、従業員のモチベーションを左右する大切な要素といえる。メンタル要素をはかる指標例としては、以下が想定される。

・挑戦や変化を柔軟に受け入れられるか
・自発的な行動ができるか
・ボトムアップの姿勢が見られるか
・チーム内でのコミュニケーションが活発か
・上司の顔色を窺うことなく、自分の意見を率直に言えるか
・従業員同士でお互いに助け合ったり、支え合ったりしているか 
・無言の圧力やしがらみがないか など


これら3つの要素は、組織風土関連の書籍やウェブサイトでは、氷山モデルで表されることが多い。その考えに基づくと、ソフト要素は海面下に潜んでいて目に見えない部分、ハード要素は海面上に出ている目に見える部分、メンタル要素はソフト要素のなかで特に心理面に大きな影響を与えるものと言い換えられる。

良い「組織風土」にはどのようなメリットがあるのか

企業のさまざまな要素に影響をもたらす「組織文化」であるが、良い形で機能した場合にはメリットを得られる。具体的にはどんなメリットなのか。一つひとつを解説していこう。

●従業員と企業の方向性やビジョンを共有できる

「組織風土」のハード要素として、企業のミッションや経営理念を提示した。それを従業員に周知徹底することで、従業員は企業の目指すべき方向性、ベクトルを深く理解、共有し、それに沿った行動をとることが可能となる。

●従業員間の関係性が良好になる

良い「組織風土」が従業員に浸透していると、従業員同士の人間関係も良好となる。自ずと居心地も良いと言えるだろう。

●働きやすい職場環境が生まれる

「組織風土」が良ければ働きやすい職場環境となる。例えば、ワークライフバランスの重視が企業理念に掲げられているだけでなく、就業規則にも落とし込まれているとすると、従業員は仕事とプライベートの両立を図りやすく、メリハリをつけて働くことができる。

●自社に誇りを持てるようになる

一般的に、良い「組織風土」が浸透している企業では、自社に誇りを持った従業員が多い。なぜなら、従業員同士の関係性や職場の居心地が良いと思われるからだ。また、企業の目指す方向性やビジョンを従業員が理解できているので、「自分のやりたいこと」とのギャップに悩むことも少ないと言えるだろう。

●高いモチベーションを持った人材を育成できる

良い「組織風土」が定着すると、会社に対する従業員の愛着心もより高まってくる。「会社のために」というモチベーションを持って働いてくれるようになるので、何かがあるとすぐに転職してしまうといった人材の流出を防ぐことができる。

●生産性が向上する

「組織風土」は従業員のエンゲージメントに直結する。モチベーションが高い状態であれば、
業務効率化に向けた改善を進んで従業員が行うようになるだろう。

そもそもなぜ「組織風土」改革が必要なのか

今、なぜ「組織風土」改革が必要とされているのか。その背景を探ってみよう。

●VUCA時代

まず、現代がVUCAの時代にあることだ。VUCAとは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字を取った言葉。つまり、変化がすさまじく、先も見通しにくく、複雑で、捉えにくい時代を意味する。こうした時代においては、個々の多様性を活かしながら、変化を繰り返し、挑戦・進化を続ける組織であることが望まれる。そんな組織風土を目指していくためにも改革が叫ばれているといえる。

●企業と個の関係性の変化

日本企業に長年根付いてきた終身雇用が、今や崩壊しつつある。これに伴い、企業と個人の関係性に変化が生じている。もはや、相互に選択しあう時代と言えるだけに、企業としては従業員に「働き続けたい」と思ってもらえるような「組織風土」を醸成していかなければ、人材が定着しなくなってきている。

●働き方改革やテレワーク

働き方改革やテレワークなど、企業に関わる社会的な制約が増大している。現場の理解を得ながら、それらにどう迅速かつ的確に対応し、生産性を高めていくかが、企業に問われている。そのため、「組織風土」の改革はますます重要になってきている。

●ダイバーシティ

多様な人材・ライフスタイルを受け入れられるためにも、より良い「組織風土」の構築が求められている。キーワードは、「ダイバーシティ」だ。国籍や習慣、性別の違いに加え障がいの有無だけでなく、仕事に対する価値観や考え方などにも多くの違いが見られる。それらを受容できる企業環境を築いていく必要性が高まっている。

「組織風土」を改革する前に気をつけておきたいポイント

「組織風土」の改革に着手するにあたって、何点か注意したいポイントがある。それらを説明したい。

●要素の抽出や改革には時間がかかる

「組織風土」は、ソフト、ハード、メンタルの三つの要素から成り立っている。このうち、ハード要素は目に見える要素であるので簡単に抽出することができる。問題は、目に見えない要素であるソフト要素とメンタル要素だ。しかも、それらが「組織風土」の大半を占めるとあって、すべての「組織風土」を抽出するのはかなりの時間を要してしまう。

抽出が不十分であると「組織風土」の改革・浸透は困難になってきてしまう。十分に時間をかけて、できる限り多くの「組織風土」を抽出するようにしたい。同様に、いざ「組織風土」の改革に取り組んだとしても、完了に至るまでには多大な時間が必要となることも覚えておきたい。いずれも組織が長い時間をかけて築き上げ、深く根付かせてきたものだけに、スピーディーに改革するのは難しいと言わざるを得ない。それ相応の覚悟と忍耐を持って臨む必要があると言える。

●組織体制や戦略、制度などを変えてみる

「組織風土」は、環境要因ゆえ組織体制や戦略、制度といったハード面からアプローチすれば一定レベルでの成果を得られる。例えば、これまでピラミッド組織であったとしよう。それを階層のないフラットな組織にしたり、新規顧客獲得に大きく偏っていた戦略を既存顧客へのアフターフォロー重視に変更したりといった取り組みを行うだけで、「組織風土」は大きく変わってくる。

●リーダーシップの発揮の仕方を変えてみる

最近の研究では、仕事の成果だけを追求するリーダーよりもメンバーとの関係性を大切にするリーダーの方が、メンバーのモチベーションに良い影響を及ぼすことがわかっている。この考えを踏まえ、管理職におけるリーダーシップの発揮手法を変えてみるのも、「組織風土」を変革する有効策といえる。例えば、トップダウン型のリーダーシップから部下を支えるサーバント型のリーダーシップに変えてみるのも良いだろう。

●業務の進め方を変えてみる

組織によって仕事の進め方は違ってくる。裁量を委ねられ自分が最適と思えるプロセスを踏める組織もあれば、何をするにしても上司数人からの承認を求められる組織もまだまだある。旧態依然のままでは生産性も向上しないため、思い切って仕事の進め方を変え「組織風土」改革につなげるというトライをするのも価値があるのではないだろうか。

例えば、ペーパーレスの取り組みだけでも大きな効果が期待できる。紙での保存ではなくデジタル化を促せば、印刷に要するコストや時間も大幅に削減していける。

「組織風土」の企業事例を解説

「組織風土」の変革にチャレンジする企業事例も取り上げてみたい。

●キリンホールディングス

2019年4月、キリンホールディングス株式会社では新たな成長を目指し、長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」を策定した。そこには、グループ共通の価値観の一つとして多様性が謳われている。多様な人材が集うグループへと生まれ変わり、さらなるイノベーションを加速していきたいという想いを反映したものである。

その実現に向けて注力しているのが、従業員一人ひとりが主体的に挑戦する「組織風土」を持ったエンゲージメントの強い組織作りだ。具体的には、下記のようなさまざまな取り組みを続けている。多様な人材と挑戦する風土づくりは、多くの企業にとっても関心の高いテーマといえるのではないだろうか。

・社内WEBサイトを活用したインターナルブランディングの推進
・キリングループの目指すビジョンや価値観を具現化した従業員を表彰するキリングループ・アワードの開催
・働き方の見直しに留まらず仕事自体の見直しを進める「働きがい改革」の推進
・ヘルスサイエンス領域でさらに踏み込んだ活動を展開する「健康経営」 など



今回は、「組織風土」の意味やメリット、改革を進める際のポイントなどについて解説した。企業は組織の集合体である。より強靭な企業へと成長していくためには、それぞれの「組織風土」を適宜改革していかなければならない。会社や組織の現状、今の課題に立ち返り、しっかりと向き合い、より良い「組織風土」を目指し改革を進めていく価値は大きい。このプロセスを繰り返し、ぜひ組織やパフォーマンスの最大化につなげていただきたい。
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