発達障がい者の雇用が近年増えています。発達障がいは知的な遅れがないものの障がい特性があるため、「職場に馴染めない」、「特性を発揮するのが難しい」という声を聞くこともあります。今回は、注意欠如・多動症(ADHD)と学習障がい(LD)のある従業員の特性やそれを活かした業務、職場でのマネジメントについて解説していきます。
【発達障がいと一緒に働く】注意欠如・多動症(ADHD)と学習障がい(LD)の向いている業務と接し方のポイント

注意欠如・多動症(ADHD)と学習障がい(LD)の特性と向いている業務

注意欠如・多動症(ADHD)と学習障がい(LD)は、いずれも発達障がいの一つであり、それぞれ異なる特性があります。それぞれの特性と向いている業務を紹介しましょう。

【注意欠如・多動症(ADHD)】

注意欠如・多動症(ADHD)は「注意力の欠如」や「多動性」、「衝動性」という3つの特性があります。注意力の欠如の特性としては、長時間の集中が難しい、課題や仕事を忘れやすい、細かいミスが多い、指示を最後まで聞けないなどが目立ちます。多動性の特性としては、落ち着きがなくじっとしていられない、過度におしゃべりをする、体を常に動かしている、不必要に歩き回るなどの言動が見られます。衝動性の特性としては、耐えられずにすぐに行動してしまう、順番を待てない、他人の会話を遮ることが多い、感情のコントロールが難しいなどの特徴が見られます。

一方で、ADHDの特性を持つ人々は、エネルギッシュで創造力が豊かであることが多いので、クリエイティブ職や技術職、営業職などで活躍する人がいます。クリエイティブ職では、グラフィックデザイナー、ウェブデザイナー、アーティストなどの自由な発想力が求められる環境で、柔軟な働き方が可能であると、能力を発揮しやすいことがあります。また、アウトドアや動きのある仕事に向いているため、スポーツインストラクター、イベントプランナーなど体を動かし、エネルギーを発散できるものが適していることもあります。また、コミュニケーション能力が高く、対人スキルを活かせることから、営業職やマーケティングなどの業務も向いていると言えるでしょう。

【学習障がい(LD)】

学習障がい(LD)は、知的能力には問題がないものの、特定の学習領域において著しく困難を抱える障がいです。読み書き、計算、読解力などの苦手さが見られます。

読み書きでは、文字を読むのに時間がかかる、読み間違いや誤字脱字が多い、文字を書くのに時間がかかるなどが見られます。計算では、数字や計算式を理解するのに苦労する、計算の手順を覚えられない、基本的な数学の概念を理解するのが難しいなどがあります。言語理解では、語彙や文法の理解が遅れる、指示や説明を理解するのに時間がかかる、言葉の意味を取り違えることがあるなどの特徴が見られます。

LDの特性がある人の苦手な分野が少ない業務としては、手先を使う仕事が挙げられます。サービス業、クリエイティブ職、技術職などが向いていることが多いです。大工、電気技師、美容師などの手先を使う仕事や、対人スキルやサービス精神が重視される環境での業務として飲食店スタッフ、介護職などがあります。また、視覚的な才能や創造力が活かせるクリエイティブな職業の写真家、ビデオグラファー、インテリアデザイナーなど、具体的な技術や手順に従う技術職なども適性があると言えるでしょう。

ADHDやLDの特性を持つ人々は、適切な支援と環境調整によって、その強みを活かしながら学習や仕事で成功を収めることができます。特定の分野での困難を補うための工夫をツールなどを活用できる場合が多く、ITツールの活用や環境を工夫することで、仕事や日常生活を送りやすくなります。

例えば、読み書きに困難がある場合、音声認識ソフトを使用して文章を作成することで、文字のタイピングや誤字脱字の問題を軽減できます。読むことが苦手な場合には、テキスト読み上げソフトを使って文章を音声で聞くことができます。情報やアイデアを視覚的に整理するためには、マインドマップを使用したり、情報を色別に分けしたり、シンボルを使った分類、タイマーやリマインダー機能を活用したスケジュール管理なども有効的です。職場ではこれらの障がいに対する理解を深め、適切な支援を提供することが大切です。

また、発達障がいは「スペクトラム」として捉えられることが多く、連続的な範囲内で異なる特性や症状を示すことがあります。注意欠如・多動症(ADHD)と学習障がい(LD)だけでなく、自閉症スペクトラム(ASD)も含めた特徴や特性を理解しておくと参考になるでしょう。

ADHDとLDの社員とどのように接するとよいのか?

注意欠如・多動症(ADHD)や学習障がい(LD)の社員と一緒に働くときには、職場環境やコミュニケーションの方法を工夫することが大切です。次のような接し方を心がけるとよいでしょう。

【ADHDの社員との接し方】

●明確な指示と目標設定
具体的で明確な指示を与えることが重要です。抽象的な指示を避け、タスクを小さなステップに分けて説明します。目標や締め切りが決まっているのであれば明確に伝え、進捗状況を定期的に確認してください。スケジュール管理が苦手な特性が見られる場合には、スケジュールをサポートするツールの活用やサポートメンバーを配置している企業もあります。

●短い作業時間と休憩の設定
長時間の作業は集中力を欠くことが多いため、短い作業時間と適度な休憩を取り入れることで、業務効率を上げることができます。タイムマネジメントの方法を教えることは有効的な方法です。リモートワークやフレックスタイムなどの柔軟な働き方が整備されているのであれば、社員にとって最も生産的な時間帯に働けるようにサポートできるでしょう。職場環境としては、静かな作業環境を整え、注意が散漫にならないよう配慮すると良いです。

●ポジティブなフィードバックとサポート
得意なことと苦手なことの差が大きいため、得意な分野を担当させて成果を認め、ポジティブなフィードバックを行います。これにより、自己肯定感を高めさせることができます。また、苦手な分野はサポート体制を整えるなどして、困ったときに相談できる環境を作ると良いでしょう。

【LDの社員との接し方】

●視覚的なサポート
読み書きに困難を抱える場合、視覚的なツールを提供することで理解を助けます。例えば、図やイラストを使った説明、カラーコードを利用するなどです。テキスト読み上げソフトや音声認識ソフトを活用することは、作業の負担を軽減するのに役立ちます。

●柔軟なコミュニケーション方法
書面などの視覚的なものだけでなく、聴覚的な理解ができるように口頭での説明を加えたり、必要に応じて説明を繰り返したりすることで、情報の理解を促進します。書くことが苦手な場合には、当事者にメモを取らせるよりも録音機能や写真の活用、一緒にいる人が簡単なメモ書きを手渡すことで、業務がスムーズに進むことがあります。また、質問や確認をしやすい環境を整えることも有効です。

●適応可能な作業環境
作業スペースを整理整頓し、不要な刺激を減らします。例えば、静かな場所で作業できるようにしたり、情報を整理して進捗確認しやすいツール(ホワイトボードやプロジェクト管理ソフトなど)を活用してタスク管理をサポートしたりすることができます。

発達障がいは得意なことと苦手なことの差がありますが、能力を発揮しやすい業務内容や職場環境の工夫により、多様な人材でも働きやすくすることができます。ポイントとしては、どのような得意な部分、苦手な部分があるのかを把握することです。発達障がいの社員がイキイキと働いている職場の事例を見ると、苦手な部分を頑張ってもらうよりも、できるだけ得意な分野の業務を担当する体制作りをしています。そういう職場は、当事者本人だけでなく一緒に働く社員にとっても働きやすくなっています。

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