人的資本経営の重要性が叫ばれる中、人事に求められる役割は大きく変わりつつあります。人材の管理だけではなく、いかに経営に資するかが問われようとしているのです。経験と勘に頼るという古い考え方を捨て、エビデンスをもとに意思決定し、組織を生まれ変わらせていくことがこれからの人事に求められているいま、採用活動も例外ではありません。

これを受け、科学的人事の必要性とこれからの人事の新しい取り組み方を提唱されている、早稲田大学 政治経済学術院 教授 大湾秀雄氏を招いて、科学的根拠に基づいた戦略的人事を実現するサービス「タレントパレット」を提供する株式会社プラスアルファ・コンサルティング 取締役副社長 鈴村賢治氏、ダイレクトリクルーティングサービス『キミスカ』など多彩な新卒採用事業を展開する株式会社グローアップ 新卒事業部 事業部長 加藤佑基氏、三氏による特別座談会を実施。新卒採用における人材データの活用意義や活用法について語り合いました。(以下:敬称略)

プロフィール


  • 大湾 秀雄 氏

    早稲田大学 政治経済学術院 教授 大湾 秀雄 氏

    企業の人事制度や職場組織の設計およびそれらの生産性やイノベーションへの影響に関する研究を行う。人事面の経営課題解決のための実務家向け研究会や講座を主宰する。著書に『日本の人事を科学する:因果推論に基づくデータ活用』(2017年、日本経済新聞出版社)他。ワシントン大学、青山学院大学、東京大学を経て2018年より現職。スタンフォード大学PhD(ビジネス)。

  • 鈴村 賢治 氏

    株式会社プラスアルファ・コンサルティング 取締役副社長 鈴村 賢治 氏

    中央大学 理工学部卒業後、株式会社野村総合研究所に入社。システムエンジニアとしてCRMシステムや情報システムの開発経験などを経て、テキストマイニング事業に営業・マーケティング責任者として参画。日本を代表する大手企業を中心に顧客の声活用プロジェクトやデータマイニングプロジェクトを多数経験しながら、執筆・講演などの情報発信を通してテキストマイニングの認知度向上やデータマイニング技術の業務活用に努める。2007年、プラスアルファ・コンサルティングに入社 取締役副社長に就任。国内・海外でのテキストマイニング活用、データマイニングを活用したCRM/マーケティングオートメーション事業の推進、社員のパフォーマンスを最大化するためのタレントマネジメントの普及活動など、“見える化”を基軸とした新しいビジネスの創造に向け、日々全国・世界を駆け巡っている。

  • 加藤 佑基 氏

    株式会社グローアップ 新卒事業部 事業部長 加藤 佑基 氏

    2015年グローアップに入社。中途人材領域での営業経験後、2016年より経営企画室を立ち上げ。その後、全社のマーケティング及びサービス開発に携わり、『キミスカ』のマーケティング統括として、年間15万人の就活生が使うサービスへと成長させ、現職。自社の採用担当者として、採用全体の設計からインターンシップなどのコンテンツ作成も行ってきた。『キミスカ』のコンセプトでもある『ありのまま』の採用・就活の実現に向けて日々活動をしている。

大湾先生  ・鈴村様・加藤様

早期離職率3割。内訳に変化が。新規採用における現状と課題を考える

加藤 新卒社員における3年以内の離職率が、約3割であるという数字は変わっていないものの、中身が少し変わってきている感覚がありますがいかがでしょうか。
大湾先生
大湾 3割という離職率は、1980年代から長らく続いています。ただ、昔は終身雇用の意識が強く、会社を辞めた時のオプションもほとんどありませんでした。しかし、いまは辞めた後にも色々なチャンスが溢れています。そういう中での3割は、意味合いが違ってくると思います。いまの学生の多くは、自分のキャリア観をしっかり形作ってから就職していて、それが違うと感じた時に辞めています。そういう人がいるにも関わらず、3割で留まっているのは、本当の意味でのミスマッチが減っているからだと思います。

ただ国際調査を見ても、日本人は仕事が面白くないと回答する人の割合が高いです。その要因と考えられるのが、第1に興味関心とのマッチが低いこと、第2に人間関係に問題があることが挙げられています(※)。また、管理職にも問題があります。部下の成長を支援できていない、成長機会を与えていないがために、部下が辞めていくケースが多く見られます。

本人の性格も重要な要素です。タフアサインメントを与えて大きく成長する若手もいれば、同じ仕事を与えられて疲弊して辞めてしまう人もいる。適性を考えて育成する必要がありますね。実際、企業の現場でもそういった声が多いと思いますがいかがですか。

※Asuyama, Yoko. 2021. “Determinants of job interestingness: Comparison of Japan and Other high-income countries,” Labour Economics 73.
鈴村様
鈴村 やはり企業もそうした状態をもっと把握していく必要があると感じますね。そのためにデータを集めて分析し、個人の特性をしっかりと見える化していくべきです。また、日々人事の方とお話ししていて気になるのは、人事にマーケティング的な志向性がないことです。例えば、離職という観点で見ても、辞めた社員の日々のモチベーションや1on1でのやりとりの内容といった動的なデータを蓄積していけば、社員の離職傾向を分析できるのにも関わらず、離職した社員のデータは普段は使わないので不要だと判断してしまいます。

普段から使用しないデータ=不要、とするのではなく、何を知りたいのかを明確化し、目的ベースで自分たちの所有するデータを見て、どういうパターンがあるのかを理解することが重要だと思います。

大湾 全く同感ですね。人事が、色々な情報ソースをつなげて分析する体制を整えている会社は少ないです。一つのデータだけを見て、何かを読み取ろうとするのではなくて、多様なデータを集め、組み合わせて分析することで、どういう職場環境が離職につながったのか、どういう施策がエンゲージメントの向上につながったのかなど、さまざまなことがわかると思います。




この後、下記のトピックが続きます。
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●活躍人材分析の有用性と注意すべきポイント
●「採用して終わり」ではない、
 採用から定着、活躍までを一貫した分析の重要性
●一部の学生にオファーが集中する、データ活用における弊害と回避策
●学生の働くイメージを醸成させる、現場の巻き込み

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