内定辞退と超早期化の中で問われる「生身の対話」

ここからは、【佳作】に入選した作品を抜粋して紹介します。まずは、劇的に変化する企業と学生とのパワーバランスの中で、新たなコミュニケーション手法や関係性の再構築に腐心する人事の泥臭い奮闘を捉えた3作品を取り上げます。

辞退でも いつか来いよと 奢(おご)る夜(東京都 takkyuさん)

内定辞退者を単なる「去りゆく他者」として見限るのではなく、将来の有望な中途採用候補者(タレントプール)としてつなぎ止めるという、近年の労働市場における採用戦略を的確に捉えた一句です。せっかくここまで関係性を築いてきた優秀な人材を失う目前の敗北感と悔しさを人事のプロとしてのみ込み、「数年後の人材還流」に賭けて慰労の食事を共にする姿が描かれています。関係構築のゴールを「入社」ではなく「生涯の接点」へと広げざるを得ない現代採用の過酷な競争と、人事担当者の割り切れない複雑な哀愁が、「奢る夜」という情景を通じて情緒豊かに描写された秀作です。

Zへの 配慮足らぬと AIに 叱られ直す 内定者メール(神奈川県 AI(嗚呼、いい感じ)搭載人事さん)

ハラスメントに対する社会的な警戒や価値観の多様化が進む中、いわゆる「Z世代」と呼ばれる若い内定者への連絡に細心の注意を払う人事担当者の苦悩を描いた一首です。世代間のギャップを埋める適切なコミュニケーションの正解を求め、メール文面の添削を生成AIに依頼したところ、「Z世代への配慮が足りない」と叱(しっ)責(せき)され、修正を余儀なくされるという主客転倒のユーモアが際立っています。テクノロジーの知性を介さなければ若年層との適切な対話すら危ういという、現代のデジタルコミュニケーションが抱える課題を、卓越した着眼点で描き出しています。

学生の 本音と建前の 見分け方 我が子にコツを 教えてもらい(大阪府 ナーポリさん)

生成AIを活用して高度に情報武装した学生の「本音」が非常に見えにくくなっている超売り手市場において、面接のプロとしてのプライドをいったん脇に置き、最も身近なZ世代のモデルである「我が子」に直接リサーチを試みる人事担当者の姿を詠んだ作品です。客観的な評価マニュアルや面接のフレームワークに頼るだけでは太刀打ちできない現状に対し、Z世代のリアルな心情を泥臭く学習し、次の選考に生かそうとする現場の涙ぐましい奮闘と執念が伝わってきます。手探りで若者理解を模索する人事の切実な日常が、どこかほほ笑ましく、かつ強い説得力を持って表現された共感を呼ぶ作品です。

大学入学と同時に就活開始

続いて、自社の身の丈に合った誠実なアプローチや、採用活動の超早期化・低学年化の実態を突いた【佳作】2作品を紹介します。

圧倒的 成長望む あなたには 勧められない うち緩いんで(神奈川県 シューカツされ無限転生さん)

昨今の就活市場で学生から好まれる「圧倒的成長」や「早期キャリアアップ」といった威勢の良いトレンドに対し、あえて対極にある自社の等身大の姿を冷静に提示する「逆張り」の対話を描いた一首です。「うち緩いんで」という脱力感のある口語表現を用いることで、背伸びをしたことで生じ得る不毛なミスマッチや早期離職を未然に防ぎ、自社の身の丈に合った適正なマッチングを図ろうとする企業の誠実な姿勢がうかがえます。過剰なアピール競争から一歩引き、確実なリテンション(人材定着)を目指す現代的な防衛策と、多様化する働き方のリアルを的確かつユーモラスに描写した独自の着眼点が光る作品です。

早期化で 大学一年 もう標的(群馬県 よしよしよっしーさん)

インターンシップの形骸化と実質的な本選考化が進み、企業側のアプローチ対象が従来の大学3年生からついに大学1年生へと引きずり下ろされた狂騒的な超早期化の実態を鋭く突いています。もはや「青田買い」というレベルすら通り越し、入学直後の学生をも採用の「標的」と見なさなければならない現場の焦燥感と疲弊が、短いフレーズの中に生々しく凝縮されています。年単位での長期にわたる囲い込み活動を強いられる企業の多大な財務的・物理的負担と、際限なく加熱していく異常な新卒採用市場に対する、極めて冷徹で社会的意義の深い問題提起を含んだ一作であるといえます。

「2027年卒 採用川柳・短歌」の入選作品に共通してみられるのは、制度の形骸化やテクノロジーの普及という環境変化に翻(ほん)弄(ろう)されながらも、なんとかして「生身の人間性」にたどり着こうともがく人事担当者たちの泥臭くも誠実な模索です。

これからの採用戦線において企業に真に求められるのは、デジタル武装された表面上のプロファイルや市場の過熱感への盲従ではなく、いつか「わが社」の仲間となる学生たちと、いかにして生身の人間味を通わせた持続可能な関係性を構築できるかという、採用活動の原点である「人間的な営み」への再回帰であるといえるでしょう。
[図表1]採用担当者による「2027年卒 採用川柳・短歌」入選作品

デジタル時代の就活生が抱く「アイデンティティーの迷走...

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