研修や組織づくりの現場では、理論やデータを知っているだけでは、うまくいかないことがある。本書は、人材開発・組織開発の実践者10名への長時間インタビューから、現場で発揮されている「仕事の流儀」を言葉にしようとした一冊である。

人材開発・組織開発の分野では、かつて先輩の勘と経験と度胸(KKD)を徒弟的に受け継ぐ時代が長く続いた。2000年代以降は研究に基づく理論が現場に入り、共通言語が増えて、実践を説明しやすくなった。しかし著者の中原淳氏は、こうした「科学知」だけでは現場の仕事は完結しないと指摘する。目の前のクライアントと自分自身がどう関わるのかという問いには、研究者が距離を置いて描く知では答えられないからだ。
協力したのは、人事パーソンやHRBP、外部コンサルタントの計10名である。1人あたり3〜8時間のインタビューを重ね、クライアントとの接し方や、何を見つめ、どう働きかけるのかといった、本人も普段は意識しにくい振る舞いを描いている。科学知が場所や相手を選ばず当てはまる知識や理論を指すのに対し、本書が注目する「臨床知」は、その場の相手や職場に合わせて働きかけるなかで発揮される知恵である。著者は両者を対立させず、現場では両方を使いこなすことが必要だと述べている。
10名の臨床知は、1人1章ずつにまとめられている。研修設計を「野球の練習設計」にたとえる章や、会議を「組織の縮図」として見る章など、切り口は具体的だ。自らの実践を振り返る「鏡」として読めるだけでなく、仲間と語り合う題材にもなる。章ごとに主役が異なり、気になる章から読み進められるため、輪読会の1冊としてもお勧めしたい。

【書籍基本情報】
『 人材開発・組織開発の臨床知 ~科学知ではつかみとれないプロフェッショナルたちの流儀 』
著者:中原 淳
出版社:東京大学出版会
発売日:2026年10月2日
『人材開発・組織開発の臨床知 ~科学知ではつかみとれないプロフェッショナルたちの流儀』中原 淳(著)(東京大学出版会)

▼内容紹介

科学知を追究してきた著者が切り拓く、新たな地平。


エビデンスやデータだけでは人は動かない。KKD(勘・経験・度胸)でも科学知でもない「臨床知」とは何か。人材・組織開発のプロフェッショナル10名の実践を徹底解剖。葛藤や感情に向き合う暗黙知の流儀を言語化する著者の新境地。実務家の壁を突破するための必読書。
(出版元ホームページより)

▼目次

【理論編】
1 人材開発・組織開発とは何か?
2 臨床知を探究する方法

【臨床知編】
3 呼び水を、当てていく:「周辺」から「本題」に至る仕事の軌跡
4 研修設計は「野球の練習設計」である:自分のなかに「生の声」を入れておく
5 人の「裏」にある「感情の塊」:対話を促す三角形を浮かび上がらせる
6 事業にロックする:周辺を見つめ、矛盾のど真ん中に立つ
7 会議は「組織の縮図」:「会議の終わり方」と「主語」を見る
8 人の心の「A面」と「B面」を聞く:「挟まれ力」を発揮する
9 ありとあらゆることをやるが、全部は言わない:「図」に潜り、「黒子」になって「見えてくるもの」を見る
10 組織のなかは、毎日「火元」だらけ:手取り足取り支援しないで「見守る」
11 一筋縄ではいかないものに愚直に一人ひとり「向き合う」:相手の「土俵」に乗って、相手の言葉で話し、相手の知らない現場情報を持つ
12 5つの「往還」の間で現場に立つ:感覚神経を120%解放して見る

【総括編】
13 人材開発・組織開発の臨床知

▼著者プロフィール

【中原 淳(なかはら・じゅん)】
立教大学経営学部教授
1975 年生まれ。2001 年大阪大学大学院人間科学研究科博士課程中途退学。博士(人間科学)。2001 年メディア教育開発センター助手、2005 年東京大学大学院総合教育研究センター講師、准教授を経て2018 年から現職。専門は人材開発・組織開発。主要著書に、『経営学習論』『職場学習論』(いずれも東京大学出版会)、『人材開発・組織開発コンサルティング』『研修開発入門』(いずれもダイヤモンド社)、『サーベイ・フィードバック入門』(PHP 研究所)、『駆け出しマネジャーの成長論』(中央公論新社)、『人材開発研究大全』(編著、東京大学出版会)、『中小企業の人材開発』(共著、東京大学出版会)、『組織開発の探究』(共著、ダイヤモンド社)、『チームワーキング』(共著、日本能率協会マネジメントセンター)など。


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