社会保険の改定と言えば、毎年4~6月の給与を報告する算定基礎届のみならず、「固定的賃金の変動」が起こった際に届出義務が生じる「月額改定届」もあります。算定基礎届の場合、日本全国一律に季節的な業務であるという側面もあり、人事労務担当者であれば失念することはないものの、月額改定届については、必ずしも発生時期が一律ではなく、かつ、一定の「見極め」も必要であるため、算定基礎届と比較すると難易度が上がる側面があります。今回は月額改定届の届出と届出後の注意点にフォーカスし、解説します。
「月額改定届」は手当変更も対象? “届出漏れ”を防ぐトリガーと「算定基礎届」との優先ルール

月額改定届の「トリガー」とは

月額改定届の全体像を解説すると、端的には「給与改定が行われ、実際に“変更後の給与”が支払われて3ヵ月経過した後、その時点で適用されている標準報酬月額と2等級以上の変動(一定の場合は1等級の変動でも該当)がある場合」が対象となります。なお、給与改定とは後述する「固定的な給与のみ」で、それが“月額改定のトリガー”となります。

まずは「固定的な給与」(以下、「固定的賃金」とする)の変動がトリガーとなるケースです。残業代等の毎月変動し得る変動的な給与を除き、基本給や毎月固定的に支給される手当を「固定的賃金」として定義します。固定的賃金が変動した場合(昇給した場合だけでなく降給した場合も含む)には月額改定のトリガーとなり、月額改定届に該当するのが、実務上最も多いケースとなります。

実務的な注意点として、手当の変更などが挙げられます。例えばこれまで通勤手当を「その他手当」として支給していたものの、職員から「何の手当なのか」といった趣旨の問い合わせが多かったため、給与明細上の項目を「通勤手当」に移設した、または通勤手当の項目を新設した場合などです。

このケースですと、実態として手当の内容は全く同じ(金額が変わっていないことが前提)であるため、月額改定届のトリガーには当たりません。しかし、第三者の視点では「手当の新設」(月額改定届の届出のトリガー)に見えてしまうため、注意が必要です。

また、その他のトリガーとして、「支払方法の変更」が挙げられます。例えば有期契約社員から正社員に登用されたことに伴い、時給制から月給制に変更になった場合です(逆も然り)。

その他のケースとして、「労働条件の変更」も該当します。例えば週40時間の労働契約を週35時間に変更した場合(逆も然り)も、その後3ヵ月間は月額改定届の対象となるか否かの注視が必要ということです。

調査では何を注視されるのか

どの調査でも当然の話ではありますが、「実態はどのように運用されているのか」です。形式とは書面上の数字等を指しますが、実態とは個々の会社の事情であり、数字のみでは判別できない部分を指します。

もちろん、行政調査の際に行政担当が個々の会社の事情を全て聞き入れていては調査にならないため、会社としては日頃から形式を整えつつも形式と実態が乖離しないように労務管理していく必要があります。

なお、調査の際に指摘される典型論点として、「月額改定届の届出漏れ」は指摘事項の上位に挙げられます。その背景は、「トリガーが多岐にわたることから、見落としが生ずる」といった事情に集約されると考えます。

調査の前にすべきこと

月額改定届の届出漏れを回避するポイントとして、まずは「何が固定的賃金にあたるのか」を認識することです。

“残業代等の毎月変動し得る変動的賃金”は固定的賃金には当たりませんが、基本給や固定的に支払われる手当額が変動した際は「固定的賃金の変動」に当たります。そのため、システムで自動化が難しい場合は、古典的ではありますが「何らかの目印をつけておき、3ヵ月後に振り替える」オペレーションが適切です。

また、システムは「正しい設定」がなされていれば力を発揮してくれますが、そうでない場合、逆に混乱を招く“諸刃の剣”ともいえる側面があります(例えば全く関係のない対象者も拾い上げてしまい膨大な判別作業が生じる)。よって、システムを用いて月額改定届の判別を進めるオペレーションを組む場合は、スタート時点でのシステム設定が鍵を握ります。

もちろん人によりけりの部分や手当の数にもよりますが、実務上の感覚としては人数が30名を超えるとシステムなしでは見落としが生じやすいです。すなわち、「調査の前」の段階で会社にあった運用体制を構築し、継続的に運用していくことが有用です。

届出以外での留意点

「届出は適正になされているが、社内的に誤りが発生している」という事例では、「毎年4~6月の給与額を報告し、9月から標準報酬月額が決定される“算定基礎届”と近しい時期に、月額改定届の対象となるケース」が挙げられます。

例えば7~9月の間が対象となる月額改定届は、算定基礎届よりも優先されます(算定基礎届で決定された標準報酬月額ではなく、月額改定届で決定された標準報酬月額を用いる)。誤りの事例として、7~9月が対象の月額改定届を届け出ているものの、給与計算時に算定基礎届で決定された標準報酬月額で保険料控除をしているケースです(標準報酬月額が同じ場合は結果的に問題がないケースもあり得る)。

届出自体は適正になされていても、社内の保険料控除が連動していなければ正しい状態とはならず、また、届出がされている以上、調査でも指摘がないこともあり、気付く機会すらない可能性があります。

最後に

手当を新設する場合も当然、月額改定届のトリガーに当たります。月額改定届はトリガーが多岐にわたるのみならず、将来の年金にも紐づく部分でもあるため、給与において何らかの変更が生じた際には注視する習慣化が重要です。
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