今回は、同社 人事総務部の外村智弘氏と小野瀬亜子氏と支援を行ったマーサージャパン株式会社の増渕匡平氏、杉木佳奈子氏の対談を通じて、協和キリンがどのようにグローバル報酬運用の共通言語を整備し、データを活用しているのかを紹介する(以下敬称略)。
【対談者プロフィール】

■外村 智弘氏
2005年に協和発酵工業に入社。MRとしてキャリアをスタートし、約10年間従事。その後、人事部門に異動し、 HRBP や人事制度の設計業務を経験。現在は HR プランニング部門で責任者を務め、人事全体の企画・予算管理、国内を中心とした人事制度の設計、労使交渉の担当など幅広く活躍している。
協和キリン株式会社
人事総務部 HRプランニンググループ グループ長

■小野瀬 亜子氏
インターネット業界にて営業職としてキャリアをスタート。その後、テクノロジー業界に転職し、人事としてのキャリアを積む。HRBP、人事戦略、報酬制度の設計運用を中心に従事。協和キリンに中途入社後は、HRBPやグローバル全体での人事業務を経験。現在はトータルリワードグループにおいて、日本を含むグローバル全体の報酬制度全般を担当している。
協和キリン株式会社
人事総務部 エンプロイーエクスペリエンスデザインユニット トータルリワードグループ グループ長

■増渕 匡平氏
日系証券会社で営業、人事を経験した後、2010年にマーサージャパンへ入社。『総報酬サーベイ(TRS)』をはじめとする報酬データを活用し、既存顧客の運用支援や新規顧客への導入支援などに従事。2021年にプロダクト・ソリューションズ部門の責任者に就任。現在は、日本国内3,500社を超えるクライアントに対し、報酬・人材マネジメントをはじめとする組織・人事課題について、データやプロダクトを活用した課題解決を支援している。
マーサージャパン株式会社
プロダクト・ソリューションズ部門 代表

■杉木 佳奈子氏
IT企業にてセールス職としてキャリアをスタートし、人事労務領域の業務効率化支援やシステムの契約更新に関するカスタマーサポートに従事。その後マーサージャパンへ中途入社。現在は総報酬サーベイを中心とした報酬・福利厚生関連のデータ活用を支援している。
マーサージャパン株式会社
プロダクト・ソリューションズ部門 カスタマーサクセス アソシエイトコンサルタント

One Kyowa Kirin 体制を支える、グローバル報酬ガバナンスの基盤づくり
増渕 当社では、組織・人事の専門家として、制度設計などのプロジェクト支援に加え、日々の意思決定を支えるデータベースやデジタルツールなど多様なプロダクトを提供しています。特にグローバルに事業を展開する企業では、各国・各リージョンが同じ基準で人材や報酬を捉え、共通のデータをもとに議論できる環境を整えることが重要になります。協和キリン様には、報酬水準の客観的な把握を支える『総報酬サーベイ』と、人事関連情報を集約した『TAAP』をご活用いただいています。それらの導入経緯や活用法を伺うにあたり、御社がグローバル経営体制へ移行される中で、人事・報酬の基盤をどのように整備されてきたのかを伺いたいと思います。まずは、One Kyowa Kirin体制に至る背景と、その中で報酬運用にどのような課題があったのかをお聞かせください。
外村 当社は、2008年に協和発酵工業株式会社とキリンファーマ株式会社の合併によって誕生しました。以来、事業環境や経営体制の変化に合わせて、人事体制の在り方も継続的にアップデートしてきました。2021年頃からは、海外の売上比率が50%を超え、海外従業員も増加するなかで、各国・各リージョンで個別に運用していた人事制度や仕組みを、グローバルで整合性のある形へと見直す必要性が高まってきました。
その中で2019年からはグローバルの経営体制であるOne Kyowa Kirin体制をスタートしています。これは、日本、EMEA、北米、アジア/オセアニアというリージョン軸と、研究開発、生産、営業、コーポレートといったファンクション軸を組み合わせた、マトリックス型のグローバルマネジメント体制です。なお、現在は日本とアジア/オセアニアをJAPACとして統合し、3極体制となっています。
One Kyowa Kirin体制をより実効性あるものにするためには、各リージョン・各ファンクションを横断して、報酬ガバナンスを整備することが不可欠でした。そこで整備したのが、世界中の従業員を公平かつ一貫性を持って処遇するための共通原則である「Global Remuneration Principles」です。この制度設計を進めるにあたり、御社にご支援をいただきました。

増渕 2000年代以降、多くの日本企業がグローバル化を見据え、等級や評価、報酬といった人事基盤の共通化に取り組んできました。ただ、御社のように、リージョンごとに事業や製品の展開状況が異なり、さらにファンクションごとに職種・専門性も異なる企業では、単に制度をそろえるだけでは機能しません。各国・各機能の実態を踏まえながら、共通の判断軸をつくる必要があり、非常に高度な取り組みだと感じます。
小野瀬 グローバルで実現したい方針を各リージョンに展開したいと思う一方で、リージョンごとに事業内容や業務特性が異なる部分もあります。グローバル共通のグレードの仕組みを導入するにあたり、各リージョンの担当と議論を何度も重ねました。レポートラインも、ファンクションのグローバルヘッドとリージョンヘッドの双方のケースがあるため、マトリックス型の運営が求められます。
外村 そのため、グローバルで同じグレードを持つことにメリットを感じやすいファンクションもあれば、リージョン単位で完結する業務が多く、当初はその必要性を感じにくいファンクションもありました。しかし、グローバルな視点で人材を活用し、重要なタレントをリテンションしていくためには、共通のグレードが不可欠だと判断しました。
杉木 『IPE』は、ポジションの役割の大きさを、グローバル共通の評価軸に基づいて整理する手法です。各国で異なる肩書きや等級を、共通のポジションクラスとして比較できる点に特徴があります。評価基準はグローバルで統一されているため、各国のポジションを共通の役割評価で整理できます。
小野瀬 『IPE』を活用したグローバルグレーディングにより、報酬だけでなく、サクセッションプランやポジションの整理にも活用できる基盤が整いました。結果として、パフォーマンスマネジメントやワークフォースプラン(要員計画)などの施策をグローバルに推進していく基盤を整備できたと考えています。
グレード・報酬データを接続し、国を越えた共通の判断軸をつくる
増渕 グレードを共通化しても、実際の報酬水準を判断する際に、各国の市場データやベンチマークの取り方が揃っていなければ、議論の前提がずれてしまいます。グローバルグレーディングと報酬運用を接続するうえで、どのような課題がありましたか。小野瀬 「市場競争力のある報酬水準を維持する」という考え方自体は、各リージョンで大きくずれていたわけではありません。ただし、使用しているデータソースや報酬水準の確認方法はリージョンごとに異なっていました。そのため、使用するデータソースやベンチマーク手法を共通化しなければ、同じグレードであっても国ごとに判断基準が変わってしまいます。各リージョンのメンバーと議論を重ねながら、共通の運用ルールを整備していきました。
その際、先述した『IPE』との親和性、グローバルで共通したポジションクラスに基づいて報酬データを参照できる点を踏まえ、御社の『総報酬サーベイ』を主要なデータソースとしてグローバル共通で活用することにしました。
増渕 データソースをそろえるだけでなく、どのグレードでどのポジションクラスを参照するか、どの職種データを見るかといったベンチマークの前提も、グローバルで共通化されたのでしょうか。
小野瀬 例えば、「当社のグレードAであれば、いただいたデータのどのキャリアレベルを参照すべきか」といったマッピング表を作成しました。さらに、職種をベンチマークする際には、御社が定義しているどのジョブを参照するかを指定した、共通のベンチマークガイドラインを整備しています。
職種をどの程度細分化して報酬水準を参照するか、またファンクション×グレード×ポジションの掛け合わせについては、各リージョンや事業所の状況に応じて調整する場合もあります。しかし、「会社として、原則、目標水準とするパーセンタイルを統一」、「設定した目標水準より低い水準の人に関しては年度末に報酬を見直す」など、基本的なガイドラインは、グローバルで統一しています。
杉木 サーベイデータは、どのようなタイミングで参照されているのでしょうか。
小野瀬 個別に参照するタイミングとしては、新しいポジションへの就任時や昇格時があります。また、定期的には次年度の報酬を策定する年次報酬レビューのタイミングで、各グレードや各ポジションの水準を必ずアップデートしています。

小野瀬 御社のデータでは、職種を複数の粒度でベンチマークできます。グレードによっては、最も細かいSpecialization*1ではなく中間単位のSub-Family*2でデータを参照したり、同一グレード内でもポジションにより報酬水準に差が生じやすい上位グレードはSpecialization単位で参照したりするなど、用途に合わせたアプローチを用いています。
*1 Specialization:より細かい専門領域(例:総報酬、役員報酬、福利厚生 など)
*2 Sub-Family:中間の職種サブ分類(例:報酬・福利厚生)
増渕 『総報酬サーベイ』は、国・業界・職種・キャリアレベルなど、さまざまな切り口で報酬データを確認できる点に強みがあります。一方で、データの自由度が高いからこそ、各国が異なる前提でデータを見てしまうと、グローバルでの比較や意思決定が難しくなることもあります。
協和キリン様の場合、本社が共通ガイドラインを示しながらも、各リージョンとの対話を通じて現地の市場環境や実務上の事情も反映されています。データを単に参照するのではなく、グローバルで納得感ある意思決定を行うための共通言語として活用されている点が、非常に素晴らしいと感じます。
小野瀬 一方で、リージョン特有の市場慣行や直近のトレンドを、本社だけでタイムリーに把握することは難しい場面もあります。そのため、全体の方針やガイドラインは本社が担いつつ、各リージョンの裁量に委ねる部分もあります。各リージョンのリワード担当者とは密に連絡を取り合い、ディスカッションの段階から一緒に検討するネットワークを構築しています。
協力:マーサージャパン株式会社
この後、下記のトピックが続きます。
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●海外派遣・グローバル横断プロジェクト推進を支えるために求められた情報収集基盤の構築
●必要な人事関連情報を一元化したプラットフォームとAIの活用でタイムリーな意思決定を推進
●経営層への説明や労使交渉の現場で価値を発揮する客観的データ
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