こうした中、感情や熱量が伝わり、ながら聴きができる「社内ラジオ」が注目されている。味の素冷凍食品株式会社は2026年4月、株式会社オトナルの音声配信システム『シャナラジ』を導入し社内ラジオ『FFAラジオ』をスタートした。
これを受け今回、味の素冷凍食品株式会社の多田裕之介氏、山地裕紀氏、関口夏海氏と、株式会社オトナルの八木太亮氏による対談を企画。組織課題の解決に向けた取り組みや社内ラジオを選んだ理由、導入後の変化、継続の工夫について語り合った。
【対談者プロフィール】

■多田 裕之介
2005年、味の素冷凍食品株式会社に入社。関西で市販用営業を経験したのち、2011年7月、本社に異動。市販用の事業部門で製品開発マーケティングに従事。事業部門では「しょうがギョーザ」などの新製品開発や、JR両国駅での焼き体験イベント「ギョーザステーション」を企画。その後、コンビニエンスストア営業担当グループ長、製品戦略部リテールグループ長を経て、2024年7月より現職。マイパーパス(自分の志・使命)は「調和により可能性を灯すチャッカマン」
味の素冷凍食品株式会社
コーポレート本部 人事部長

■山地 裕紀氏
2014年に味の素冷凍食品株式会社に入社。7年間、営業を経験したのち、販売・マーケティング・プロモーションなどの業務を3年経験。2024年度に人事グループに異動後は、人事制度企画や風土・文化醸成の推進、エンゲージメント向上施策を担当。他にも、社内表彰制度の企画や社内ラジオの企画・パーソナリティなど幅広い業務に関わっている。
味の素冷凍食品株式会社
人事部 人事グループ マネージャー

■関口 夏海氏
2020年に味の素冷凍食品株式会社に入社。九州で市販用営業を4年経験したのち、社長秘書と人事を兼務。所属する人事グループでは社員のキャリア施策の検討・推進をはじめ、評価・昇格制度の運用など幅広い業務に関わりながら、社内ラジオの企画・パーソナリティを務めている。
味の素冷凍食品株式会社
人事部 人事グループ

■八木 太亮氏
2013年に株式会社オトナルを創業。過去4,500件以上のデジタルオーディオ広告提案を行う音声広告のパイオニアとして、国内の音声広告市場の拡大と企業活用を推進。
株式会社オトナル
代表取締役
広告提案や音声クリエイティブへの取り組みに加え、「社内ラジオ」などによるHR領域への音声コンテンツ活用の支援も行っている。毎年、国内の音声メディアの利用状況の調査レポート『PODCAST REPORT IN JAPAN ポッドキャスト国内利用実態調査』を朝日新聞社と共同で実施中。JIAAデジタルオーディオ広告部会座長補佐。京都芸術大学通信教育学部音楽コース講師。著書:『いちばんやさしい音声配信ビジネスの教本 人気講師が教える新しいメディアの基礎』(インプレス)

効率化が奪った余白。隣の部署が見えない組織で起きている問題
八木氏 企業を取り巻く環境や働き方が大きく変わり、社内コミュニケーションのあり方を見直す企業が増えています。貴社では組織やコミュニケーションについてどのような課題を感じていらっしゃいましたか。多田氏 当社の場合、コロナ禍を境に事業環境が激変しました。内食需要で市販用商品が伸びた一方、参入企業が増えて競争が熾烈化し、原価高騰による値上げの難しさにも直面しました。冷凍食品は、醤油やシャンプーのように「お気に入りを長く使い切る」商品と違い、「この間はこれを食べたから次は別のやつにしよう」とお客様の趣味嗜好が変わりやすく、価格も上げにくいわけです。こうした変化を前に、従来の組織や仕事の進め方では対応しきれないことが明らかになってきました。
また当社には、味の素ブランドのもとで仕事をしてきた誇りがあります。「永久改良」という言葉があるのですが、ロングセラー商品を改良し続け、長く育ててきた文化が大きな強みである一方、これまでの成功体験に安住し、既存のものを積み上げる発想に偏っていた点は反省すべきところです。

多田氏 そうかもしれません。不確実性が高まる環境下では、目指す未来を描き、そこから逆算して自ら動かなければなりません。しかし、社内に「球が来るのを待つ」受け身の空気が残っていました。承認の階層が多く、提案も通りにくい。正解のない仕事をどう主体的に進めればよいのかわからないという声があったのも事実です。
八木氏 仕事の本質はコミュニケーションにあると考えています。正しいことを伝えても、人を動かせるとは限らないからです。
コロナ禍以降、オンライン会議は大幅に増えました。効率的な反面、アジェンダを消化するだけで終わりやすく、雑談や人柄に触れる機会は減っています。必要な情報は共有できても、互いの考えや人柄までは見えてこないのです。
山地氏 思い当たることが多々あります。当社でも、部署を越えると互いの仕事を知る機会が減っていました。それどころか、隣の席の人の仕事さえ把握できないのが現状でした。業務上の連携はできても、対話を重ねながら新しいものを生み出す関係とは隔たりがあったのです。
八木氏 対面であれば、会議後の何気ない会話や雑談から事業のアイデアが生まれることもあるでしょう。効率を優先して必要なことだけを話すようになると、互いの感覚や発想に触れる機会も失われてしまいます。
多田氏 まさにそうです。社内が「ロジカル思考偏重」になっていると感じることもあります。論理や正しさが優先され、相手の感情や直感、発想の面白さが置き去りになっています。昔は飲み会で思いついたアイデアを出し合っていましたが、そんなアートの心をみんなが忘れ始めているのではないでしょうか。
とはいえ、不満や違和感を口にできる社風が失われていないのは救いです。社員の声を集める施策を行えば、きちんと意見を寄せてくれます。そうした声を起点に、互いの考えや人となりに関心を向けられる組織へ変えていくことが重要だと捉えています。
なぜ今、社内ラジオなのか。音声が生む親近感と共感
八木氏 社内コミュニケーションを立て直す手段には、社内報や社内SNS、動画などがありますが、その中で近年、社内ラジオを選ぶ企業が増えています。背景には、音声というメディアならではの性質があると考えています。身近な例ですと、ラジオ出身とテレビ出身の芸人さんでライブイベントを開くときの話があります。仮に500人を集客するとなった場合、なぜかラジオ出身の方のイベントは一瞬でチケットが売り切れてリスナーが集まります。一方で、テレビに強い芸人さんだと、知名度が高くてもイベント集客に苦戦することがあります。
これはラジオ業界で昔からよく言われていることで、音声というメディアのエンゲージメントの高さが顕著に表れる部分です。テレビの映像はどこか「画面の向こうの他人」に見えてしまいますが、ラジオは耳元で声を聴くことで「まるで友達」のような距離感に変化していく。これこそが音声メディアならではの強みだと感じています。
関口さんは社長秘書と人事を兼任する「二足のわらじ」でお忙しい中、社内ラジオに携わられていますが、ラジオの存在をどう感じていらっしゃいましたか?
関口氏 私自身、もともとラジオが好きで、よく聴いているので、声が持つ距離感の近さにはすごく納得できる部分があります。顔を知らないパーソナリティでも、聴き続けていると身近な人のように思えてきます。

人の声は本来、近くにいる相手から直接届くものです。ラジオも、話し手は離れた場所にいながら、その声は耳元に届きます。そうした聞こえ方が、話し手を身近に感じさせるのではないでしょうか。
※1:Kumar, A., & Epley, N. (2021). 論文「It's surprisingly nice to hear you」(Journal of Experimental Psychology: General)
多田氏 非常に示唆に富みます。その違いは、生成AIが広がるほど際立ちそうです。AIが書く文章は整っていて読みやすい一方で、誰が書いたのかは伝わってきません。
八木氏 AIが生み出すものは、突き詰めれば情報の凝縮です。不要なものを削ぎ落とす方向に向かいます。音声はその逆で、語りを削らずにそのまま届けます。映像のように情報が多いわけではありませんが、少ないからこそ聴き手の想像が働きます。声の速さや言葉に詰まる間合いまで含めて、その人らしさとして伝わるのです。互いのことが見えにくくなっている組織にとって、音声は有効な選択肢になり得ると考えています。
関口氏 とても面白い視点ですね。声だと人柄や感情がストレートに伝わってくる感覚は、すごくよくわかります。
部門を越えて取り組みを届ける。音声を生かした社内発信
山地氏 声で人柄が伝わるという感覚は、私もよくわかります。ただ、当社が社内に向けて出してきた発信は、その対極にありました。人事から出す文章は、どうしても公文書のようになります。八木氏 人事から明るい、楽しい内容を発信しようとしても、温度感を伝えづらく、活字だと限界があると思います。
関口氏 動画も配信していましたが、経営層がカメラに向かって話す形式では、硬さという点で文字と大きく変わりませんでした。忙しい中で、画面を見続ける時間を確保してもらう難しさもありました。
八木氏 映像は目と耳の両方を占有するため、受け手の負担が大きくなります。音声であれば耳だけを預ければよく、通勤中や作業中にも聴けます。動画では5分でも長く感じられる一方、音声では30分を超える番組も継続的に聴かれています。
山地氏 当社には部門間をつなぐという課題もありました。工場や営業など、組織ごとに表彰イベントを行っていたため、自部門の成果は共有されても、他部門の取り組みまでは伝わりにくい状況でした。このため、イベントを全社で一つにまとめ、部門を越えて互いの仕事を知る機会を作ろうとしていました。こうした中で他社の社内ラジオの事例を伺い、会社の雰囲気や価値観を伝えながら、組織をつなぐ手段になり得ると感じたのです。

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