「自社従業員からカスハラ被害を受けた取引先の従業員」や「その遺族」が加害者本人と加害者側企業に対して損害賠償請求をしてくることがある。そのときは、被害者側との信頼関係を維持するため、被害感情を汲み取りつつ、迅速かつ誠実に対応する。取引先からカスハラ被害による損害の賠償請求を受けたときも同様である。適時適切な対応により、加害者側企業のレピュテーションリスクを下げられるだろう。
【カスハラ“加害”】被害者や取引先から損害賠償請求を受けたら、企業はどう対応するか

訴訟に至ったときの「加害者側企業」のリスクとは

自社の従業員が取引先の従業員に対してカスハラ言動をした場合、その被害者がうつ病を発病して休職や退職したことにより、加害者本人と加害者側企業に対して不法行為を理由に損害賠償請求をしてくることがある。また、カスハラ被害を受けた取引先の従業員が自殺したときは、その遺族が加害者側に損害賠償請求をしてくることも考えられる。

被害者側が損害賠償請求訴訟の提訴や判決の記者会見を行うと、その内容が報道され、さらにインターネット上でも広まり、加害者側企業にレピュテーションリスクが発生する。消費者、他の取引先、金融機関などステークホルダーの信用失墜が起こると、この外部環境の変化により営業機会の喪失や株価の低下などの損失を被るおそれがある。

いったん紛争が起これば、経営者としては、クライシスマネジメントの観点から対応することになる。しかし、法的紛争を解決するには、当事者双方にエネルギー消耗があり、コストや時間も掛かる。

また、仮に加害者側企業が勝訴したとしても、訴訟提起という変化に対応するには、人事労務担当者や担当部署の管理監督者に相応の負担が掛かる。加害者側企業としては、訴訟対応の負担もリスクの一つとして捉えるべきである。

このリスクを回避するために、どのような対応をすればよいのだろうか。

被害者や遺族から損害賠償請求を受けた際の対応方法

カスハラ被害を受けた取引先の従業員やその遺族が損害賠償請求をしてきたとき、従前は被害者や遺族との間で契約関係がないことが多いので、加害者側企業としては、一から被害者側との信頼関係を構築することに主眼を置くことが望ましい。

特に自殺をした被害者の遺族は、最愛の家族が苦しんだ挙げ句生命を奪われた哀しみにより精神的な苦痛を受けており、加害者側に対する被害感情を有している。その中でも、精神障がいの発病から時間が経過して自殺したケースや、子を自殺で亡くした親のケースでは特に被害感情が強いことが少なくない。また、遺族には、被害者の業務遂行において加害者がどのような言動をしたのかなど真実を知りたいという気持ちがある。

このようにカスハラの被害者や遺族が損害賠償請求をする際は、加害者本人と加害者側企業に対する不満や不信を抱いている。とはいえ、請求の手段として、いきなり訴訟を提起するのではなく、まずは示談交渉の申入れをすることが多い。

それにもかかわらず、加害者側企業が被害者を適当にあしらう、ないがしろにする、たらい回しにするといった対応をしてはならない。加害者側企業の態度により、被害者側は、その被害感情をさらに悪化させ、ついには訴訟に発展してしまう。

そこで、被害者や遺族から損害賠償請求を受けたときは、被害者側との信頼関係を構築するため、その気持ちを汲み取りつつ、初動から迅速かつ誠実に対応することが必要だ。適時適切に事実調査と人事上の措置を進め、誠意を尽くすことにより、法的紛争の発生・拡大リスクを低減できるだろう。逆に加害者側企業が積極的に対応しないと、消極的な姿勢が被害者側に伝わり、その対応の不満に起因する二次クレームが発生してしまう。

取引先から損害賠償請求を受けた際の対応方法

取引先からも示談交渉の申入れとして、「カスハラ被害により発生した人件費等の費用を損害として賠償請求をする」との内容証明郵便を送ってくることが想定される。

取引先に弁護士が就いている場合、内容証明郵便には○日以内に損害賠償金を支払うよう記載されていることが通常である。しかし、弁護士が支払期日を指定することに法的な拘束力はないので、焦って支払う必要はない。

だからといって何も対応しないでいると、訴訟を提起されるので、速やかに弁護士に相談することが望ましい。取引先の弁護士が指定した期日に回答できなくても、加害者側企業も弁護士を代理人に立てて、その代理人弁護士が相手方の弁護士に回答すれば交渉を開始することが可能である。通常、支払期日を指定して請求してきたとしても、それは交渉申入れの意図があるからだ。

交渉が決裂すれば訴訟に移行するが、訴訟を一方的に提起されたことに不満があったとしても、民事訴訟法上、被告には応訴する義務がある。そのため、加害者本人や加害者側企業が被告となった場合、原告である被害者側の請求や主張を争うかどうかの意思表示をした書面を提出せず、訴訟に欠席すると、原告の主張を自白したとみなされる。その結果、被害者側の請求を認容する判決(欠席判決)が言い渡されてしまう。いかなる理由があるにせよ、訴訟を放置すると加害者側企業に対して不利益に取り扱われるので、すぐに弁護士に相談することが望ましい。
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