先日、労働基準監督署は「ある企業の社員が社長からパワハラを受けて自殺を図り亡くなった」として労災認定しました。遺族が会社側を提訴したところ、裁判所による調停の結果、会社は謝罪し、1億5千万円を支払うことになりました。パワハラは企業の規模に関係なく、中小企業であっても他人事ではありません。かつて、昭和の時代で当然のように行われていたスパルタ指導は、いまや「パワハラ」と従業員に受け取られ、会社側に責任が問われる時代になりました。また、令和では、職場のパワハラを防止する措置を講じることは「労働施策総合推進法」で定められているだけではなく、措置を放置することは会社の存続に関わる可能性もあります。本稿ではパワハラの法的根拠と定義、企業が取るべき防止対策について解説します。

「パワハラ防止措置」の義務化に対応~企業が今すぐ取るべき「具体的な4項目」を徹底解説~

「パワハラ」の法的根拠と定義

パワハラの防止措置については「労働施策総合推進法」で規定され、パワハラの定義も定められています。

一言で言うと、【1.職場における優位性を背景にした言動】であって【2.業務上必要かつ相当な範囲を超えるもの】により【3.労働者の就業環境を害するもの】という3つの要件をすべて満たすものをパワハラとしています。

たとえば、上司が部下に対して人格否定など業務とは関係のない言葉を発することで部下に精神的苦痛を与え、通常の仕事のパフォーマンスを発揮できなくなるようなことが挙げられます。

では、パワハラが職場で当然のように起こる環境だったとしたらどうなるでしょうか。

「パワハラ」を放置することで企業にもたらすリスク

企業が職場内のパワハラを放置した場合、労働基準監督署により労災として認定されたり、労働者側から提訴された結果、会社側が多額の賠償金を支払ったりという可能性もあります。結果として企業イメージの損なわれることになりますし、賠償額によっては企業経営の存続にも関わります。

仮に訴訟にまで発展しなかったとしても、従業員が職場内のパワハラにより休職・離職を繰り返すことになれば、業務の生産性に影響することは必至です。

では企業が取るべきパワハラ防止策についてお話ししましょう。

企業が今すぐ取り組むべき「パワハラ防止」のための具体的な4項目

パワハラ防止策は以下のような内容になっています。

●明確な方針の策定と周知徹底

「職場でパワハラは許さない」という経営トップの方針を明文化し、全従業員に周知します。具体的には、就業規則にパワハラ禁止条項を規定して、違反した場合は懲戒処分を含め厳正に対処する旨を定めて周知しましょう。職場の廊下など従業員から見えやすいところにポスターを貼って周知することも有効です。

●相談窓口の設置と対応体制

社内外にパワハラの相談窓口をあらかじめ設置し、連絡方法を全従業員に周知します。相談を担当する者には適切な研修を受けさせ、相談があった際にプライバシーに配慮しながら迅速・適切に対応できる体制を整備します。

●相談を受けたときの場合の迅速な対応

相談窓口へパワハラに関する相談があったら、担当者が、事実関係をできるだけ速やかかつ正確に確認します。場合によっては第三者から聞き取りを行うことも必要になります。

パワハラ認定をした場合は、被害を受けた従業員に対し、行為者と距離を置くなどの配慮を速やかに行い、加害者に対しては就業規則に則して懲戒処分や配置転換など適切な措置を講じます。

また、パワハラ認定の有無に関わらず、パワハラを禁止する旨の再周知を行うなど再発防止策を講じ、組織として対応する姿勢が重要です。

●秘密保持と不利益取扱いの禁止

相談者や調査協力者のプライバシーを守り、相談内容は必要な範囲の人だけで慎重に扱います。

さらに、「相談や調査協力をしたことで不利益な扱いはしない」ことを社内規程に明記し、全従業員に周知徹底することで、従業員が安心して相談できる風通しの良い職場環境を整備します。

企業が「パワハラ防止対策」を怠ると行政指導も……

企業が「労働施策総合推進法」に課せられた企業の措置義務を怠った場合、労働局から指導・勧告が入る可能性があります。もし企業が勧告に従わなかった場合、企業名が公表されることになっています。

厚生労働省が2024(令和6)年度に行った調査では、「労働施策総合推進法」に係る相談件数は、72,789件(対前年度比15.8%増)で、 雇用管理の実態把握を行った3,189事業所のうち、 何らかの「労働施策総合推進法」違反が確認された1,882事業所に対し、2,720件の是正指導を実施したという結果になっています。

いかがでしょう。職場におけるパワハラ防止対策は、法令遵守や企業の経営リスクの観点から見れば決して他人事ではなく、「今までこれが普通だった」という感覚がパワハラを原因としたリスクとなりかねません。

また、業務の生産性向上や優秀な人材を確保するためにも「パワハラを許さない」職場づくりを一層進めていただきたいと思います。
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