1979年に初めてストレスによる精神障がいが労災として認められてから50年弱たった現在、精神障がいの労災申請は急増し年間4,000件近くなっています。これは20年前と比べても約8倍です。さらにメンタルヘルス不調により1ヵ月以上の休業した労働者は100人当たり年間0.6人に上ります。実際これを読まれている方の中にもメンタルヘルス不調者に悩まされている人事担当者は多いのではないでしょうか。今回は2回に分けて、メンタルヘルス不調による休職における産業医との連携についてお話しします。

【メンタルヘルス不調と産業医】前編:「メンタルヘルス対策の考え方」と「よい産業医の探し方」

メンタルヘルス対策に取り組むと、休職者はむしろ増えることもある~膿だし効果

メンタルヘルス対策に取り組むと、かえって最初の1,2年は休職者が増えることも結構経験します。これは、もし休職しないまま働き続けていたら、ある日限界に達して辞めてしまったかもしれないメンタルヘルス不調者が、「十分な生産性を発揮しないまま働き続けている状態」から、「休職して体調を整えてまた会社の戦力として働く状態」となるケースが増えるからです。

このことから大切なこととして以下の2点があげられます。

(1)「メンタルヘルス不調による休職者数」をKPI(重要業績評価指標)に設定することは間違っている

では何をKPIに設定すればいいのでしょうか。僕なら「産業保健職と接することなくメンタルヘルス不調で休職した人数」にするでしょう。

産業医・産業保健師などの産業保健職は、従業員の相談に乗り、適切なアドバイスを本人や会社に対して行います。またしっかりメンタルヘルス問題に取り組んでいる会社では、上司や同僚がこういった産業保健職への相談を勧めてくれることも多く、結果として「産業保健職と接することなくメンタルヘルス不調で休職」という例は少なくなります。

(2)予想外な退職者が続く場合は要注意

「職場の環境によってメンタルヘルスが悪くなった」、あるいは「悪くなりそうだ」という理由で退職する従業員は、ほぼ絶対に会社には真の退職理由を伝えません。例えば、「親の介護」とか「新たな分野への挑戦」などと説明します。

ですから予想外な退職者(この会社でずっと働いてくれるだろうと思っていた従業員が退職してしまう、俗に言う「びっくり退職者」)が増えた場合、そこには従業員のメンタルヘルスを悪化させるような原因が会社にある可能性が高いです。

上手な産業医の探し方~メンタルヘルス対策は会社の本気度が大切

例えば次のように考えていませんか。「最近、メンタルヘルス問題で休職している従業員が多いので、精神科を専門としている産業医に来てもらおう」。

この考え方には、(1)メンタルヘルス問題を人事・労務・採用などを含んだトータルの経営問題として考えていない、(2)精神科医が産業保健でのメンタルヘルス問題に強いとは限らない、(3)メンタルヘルス不調者対策にばかり目がいっており、その背後にある会社の雰囲気、ハラスメントや過重労働などへの対策がおざなりになっている、など、様々な難点があります。

メンタルヘルス対策の主体は会社と従業員であって、産業医・産業保健師などの産業保健職はその手伝いをするにすぎません。会社が本気で会社を良くしたいと思い問題解決に取り組むときこそ、産業医は全力を発揮できるのです。

なお、医療職は守秘義務があるので、従業員から聞いたことすべてを会社にフィードバックするわけではないということも頭に入れておきましょう。

さて、ではどうすれば、よい産業医を探すことができるのでしょうか。「メンタルヘルス問題に強い産業医を紹介します」とうたっている産業医紹介会社がいくつもありますが、その実態はメンタルヘルス問題対応能力のチェックすらしていないのがほとんどです。

単に宣伝や営業をかけて、企業から産業医契約をとるとともに、多くの産業医を登録するというやり方のところが多いです。企業から契約をとるためにどうしても値下げ競争になりやすく、そうなると能力の高い産業医は登録しません。

実は、一番良いのは口コミです。会社の業種・形態や経営方針は会社ごとに大きく違うのでA社の産業医が素晴らしくてもB社に最適とは限りませんが、B社でも十分な成果を上げてくれることが多いです。

また、信頼できる産業医を見つけたら、その産業医は引き受けられなくても、誰かを紹介してくれる可能性があります。人事と相性がよく、人事が何でも相談でき、逆に産業医のほうからも積極的に人事に提案してくる(指示してくる、ではなく)産業医を探しましょう。

前編はここまで。後編では具体的な産業医との連携についてお話しします。

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