「バーンアウト(燃え尽き症候群)」によって、精力的に働いていた社員が急に休職や退職をしてしまうというケースが珍しくなくなってきた。そうした社員が今後さらに増えていくと、企業にとって大きな問題となり、人事担当者としては適切な対応を取らなくてはいけなくなる。そこで今回は、「バーンアウト」にはどんな症状があるのか、どのような組織に起こりやすいのか、そしていかなる対策を施せばよいのかを解説していきたい。

「バーンアウト」の意味や具体的な症状、原因とは

「バーンアウト(燃え尽き症候群)」とは、今まで真摯に仕事に取り組んできた人が、つらい仕事が原因で精神面・身体面でのストレスを断続的に感じることで、何かをする熱意や意欲を失い、疲れ果ててしまった状態を指す。

具体的には、「無気力となる」、「感情がなくなる」、「仕事に前向きになれない」、「相手にいい加減な対応をする」などの兆候が現れる。「バーンアウト」を提唱したのは、精神心理学者のハーバート・フロイデンバーガーだ。その後、社会心理学者のクリスティーナ・マスラークによって、「情緒的消耗感」、「脱人格化」、「個人的達成感の低下」といった指標から重症度を判定する「Maslach Burnout Inventory(MBI)」が考案された。

●「バーンアウト」の具体的な症状

先述のように、「バーンアウト」は、Maslach Burnout Inventory(MBI)において、以下の3つの主症状があると定義されている。

(1)情緒的消耗感
「情緒的消耗感」とは、「仕事において情緒的に力を出し尽くしてしまい、消耗してしまった状態」と定義される。単なる疲労や消耗感ではなく、「情緒的」な消耗感であることがポイントである。具体的には、「自分の仕事がつまらなく思えてしまう」、「身体も気持ちも疲れ果ててしまっている」といった症状が見られる。

(2)脱人格化
「脱人格化」とは、「クライアントに対する無情で、非人間的な対応」を指す。具体的には、「相手の人格を無視する」、「思いやりに欠けた言動をする」、「相手を威圧する」、「紋切り型の対応をする」、「同僚や顧客の顔を見たくなくなる」などの症状が見られる。

(3)個人的達成感の低下
個人的達成感とは、「ヒューマンサービスの職務に関わる達成感、有能感」と定義される症状だ。例えば、仕事の成果が落ち込むと個人的達成感が一気に低下してしまい、「自分には能力がない」と否定したり、「今の仕事は自分に向いていない」と思い込んだりしがちだ。特に、これまで顧客や同僚から評価されてきたような社員ほど、「バーンアウト」に発展する確率が高い。

●「バーンアウト」に陥る原因

「バーンアウト」に陥る原因は、以下の2つの要因があるとされている。

(1)個人要因
個人要因としては、「性別」や「年齢」、「勤続年数」、「性格」、「ストレスへの対処方法」などが挙げられる。例えば、仕事に対してひたむきな人は、「多くの仕事を抱え込んでしまい、結果的にできなかった」といった場合に、深く悩みやすい傾向がある。また、女性は男性よりも「情緒的消耗感」が高いので、「バーンアウト」になりやすい。さらには、ストレスを感じた時に問題を回避したり、逃避しがちだったりするタイプの人は、「バーンアウト」が促進されやすい傾向にある。

(2)環境要因
環境要因には、「長時間労働」や「厳しいノルマ」、「重労働」といった職務の過重負担が関係している。具体的には、人手不足が深刻な保育士や介護士、ノルマに追われる営業職の人などは、精神的なストレスから「バーンアウト」に陥る可能性が高いと言える。職場以外でも、例えば親の介護による精神的・肉体的負担も環境要因と言って良い。

「バーンアウト」になりやすい職場の特徴

「バーンアウト」になりやすい職場には、共通の特徴がいくつかあるので紹介しよう。

●仕事を強要される

仕事を強要されるような職場だと、充実感が得られず、疲労感だけが残ることになりやすい。例えば、「担当する業務と関連性があまりないミーティングであっても出席を強いられる」、「現在進行しているプロジェクトで日々追われているにも関わらず、さらに別の仕事も要請される」といったような職場では、心身への負担が大きいと言えよう。

●残業や休日出勤が多い

残業や休日出勤は、過重労働の代表例だ。労務管理がずさんな職場ほど、残業や休日出勤が多い。このような職場では、社員は「業務をこなすだけ」の状態になってしまい、「バーンアウト」を発症させやすくなってしまう。

●優秀な社員ほど仕事の量が多い

「優秀な社員ほど仕事の量が多い」というような状況も、「バーンアウト」になりやすい職場の特徴だ。確かにどの会社でも、仕事ができる社員に多くの仕事を振り分ける傾向がある。だが、どんなに優秀であっても、限度を過ぎてしまうと、「バーンアウト」が起きやすい。そのような事態にならぬよう、上司が業務量を適切に管理・調整しなければいけない。

●評価の実感が湧かない

自分がどんなに努力しても評価してもらえない職場であれば、モチベーションを持って働き続けることは難しい。上司からすれば、「評価しているつもりだ」と思ってしまうかもしれないが、評価対象である本人に納得感がないようではいけない。公平性を持った評価であるべきなのは言うまでもない。

●仕事とプライベートの境界線がない

近年、「ワークライフバランス」という言葉がすっかり定着してきている。仕事とプライベートの切り替えをしっかりと行い、十分な休息を取ることで、仕事への活力を高めていくという考え方だ。仕事とプライベートの境界線がないままでは、心身ともに負担が大きくなり、ストレスが高まるばかりとなってしまう。

●時間の管理体制が整っていない

近年は、多くの企業が勤務時間を厳しく管理するようになってきた。しかし、まだまだ十分ではない。今もなお、際限なく働くことをよしとする職場も存在する。また、真面目な社員のなかには、是が非でも仕事の成果を上げようと、時間外もいとわず働く人もいる。ただ、本当に「どうしても」というケースでない限り、このような働き方は問題だ。優秀な社員が心身を壊してしまうようなことがあれば、会社にとっては大きな損害となることであろう。

「バーンアウト」を防ぐために、どのような対策を取るべきなのか

では、人事担当者として「バーンアウト」に対してどう取り組んでいけばよいのか。効果的な施策をいくつか提示してみたい。

●職場復帰を支援する

「バーンアウト」によって休職中の社員に、段階を踏みながら職場復帰を支援していくことは効果的だ。

流れとして、まずは医師と連携して病気改善のための治療を行う。医師が職場復帰を可能だと判断したら、診断書の提出を求めよう。次に職場復帰プランを作成する。その中では、「職場復帰日」や、「管理監督者が当該社員の就業上、配慮すべき項目」、「人事労務管理上の対応」などの項目を決めて、織り込んでおく必要がある。もちろん、そのプランは社員や社員の家族、産業医、管理監督者、人事担当などの間でしっかりと共有するとともに、連携していかないといけない。

●試し出勤制度を導入する

いきなり復帰するのが難しいというケースでは、「試し出勤制度」を導入するのも効果的だ。種類としては3つある。

まずは、「模擬出勤」。これは、会社で働く時間に合わせてリハビリ施設や図書館などで過ごすことを意味する。生活のリズムを取り戻したり、身体を慣らしたりというメリットがある。2つ目が、「通勤訓練」。これは、職場の近くまで通常の通勤経路を使って移動し、カフェといった場所で過ごすというものだ。会社に行く途中でパニックを起こすのを防ぐため、まずは通勤に慣れることから始めようという取り組みだ。最後が、「試し出勤」だ。これは、時間通りにオフィスに出勤し、同僚らの働く様子を見ると言う手法。あくまでも、本人は社員の様子を見ているだけで、実際に働くことはない。

●復帰後の配慮を意識する

職場に復帰した後も、「バーンアウト」が再発しないよう配慮しなければいけない。もし、「個人要因」で「バーンアウト」が起きたのであれば、できるだけストレスのない業務に変更することも一つの方策だ。また、「環境要因」であった場合には部署の変更といった対応を考える必要も出てくる。

●共感と思いやりのある職場文化の醸成

組織全体のパフォーマンスを高めるためには、共感と思いやりのある職場文化の醸成が重要であるとされている。相手に対する敬意と誠意、優しさに溢れた職場であれば、誰もが心身ともにリラックスでき、仕事に専念できるからだ。

●メンターやコーチをつける

組織作りに向けては、精神的なサポートも重要な役割を果たす。特に組織の規模が大きくなればなるほど、一人ひとりを十分フォローできなくなってくるだけに、少人数でサポートすることが望ましい。できれば、メンターやコーチをつけ、サポートを徹底していきたいものだ。

●賞賛文化や一体感をつくる

「チームとしての成果を皆で称え合う」、「個々の良いところを認め、褒め合う」、「チームに対する帰属意識や愛着を持てる機会をつくる」といった取組みも重要だ。それにより、社員としても仕事に対するモチベーションが維持しやすくなる。

●休職者の窓口の担当者を明確にする

「バーンアウト」により、休職を余儀なくされた社員にとっては、相談窓口が決まっている方が安心できる。実際、人事や総務、上司、産業医など、さまざまなポジションが窓口になり得るが、求職者としては、まず誰に話をすればよいかわかりづらい。チーム体制でサポートするのは良いとしても、休職者の傍に常に寄り添ってくれる人は明確にしておくべきだ。

●1on1ミーティングの導入

社員の変化を察知するためにも、職場における日々のコミュニケーションが重要となる。特に、近年はコロナ禍とあって、対面でのちょっとした声掛けがしづらく、社員の変化に気付きにくくなっている職場も多いだろう。そうしたなか、重要性が高まっているのが「1on1ミーティング」だ。仕事の話やキャリアの話、時にはプライベートの話に触れることがあってもよい。上司がしっかりと「フォローしていく」という姿勢を示す意味でも、ぜひ活用したい。
労働人口が減少しつつある日本では、「いかに既存の戦力を有効活用していくか」を考えていかなければいけない。そのためにも、社員一人ひとりが存分にパフォーマンスを発揮できる職場環境を作り上げていく必要がある。万が一、社員が「バーンアウト」に陥ってしまうようでは、本人も仕事がままならなくなるばかりか、同僚にも悪影響を及ぼしかねない。なかなか特効薬はないかもしれないが、まずは職場の状態やコミュニケーションのあり方を的確に把握し、少しでも兆候があるようならば、迅速に対策を打っていくことから始めてはどうだろうか。
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