
人事制度改革とは
人事制度改革とは、従業員一人ひとりが時代や社会のニーズを踏まえた上で、自らの能力やモチベーションをより一層発揮し、企業の成長を実現していけるよう企業内の人事制度を改革することをいう。●人事制度改革の目的
人事制度改革の目的は、時代や社会の潮流に合わせて既存の人事制度を見直し、アップデートさせ、事業の拡大および企業の成長を目指すことにある。特に、近年は労働力人口が減少しているだけに、限りある人材の価値をいかに高めるかが問われている。競合優位性を確立するためにも、人事制度改革は不可欠とされている。●近年の人事制度の動向
人事制度は時代や社会のトレンドに合わせて変遷してきている。1950年以降は、大企業を中心に年功型賃金が採用された。1970年代の高度経済成長期では、職能資格制度が主流となったが、バブルが崩壊した90年代から、成果主義賃金や目標管理制度が導入されていった。その後、2020年代以降はデジタル化の加速や働き方の多様化などもあって、ジョブ型人事が注目されている。【事例記事】 全管理職1,900名を巻き込んだキヤノンの職場改革――エンゲージメント向上と職場風土改善を促進する「キヤノンアクティブマネジメントプログラム」>>
●知っておくべき3つの制度
人事制度で基本となるのは、「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つだ。人事制度改革においても、これら3制度を再設計することになるので、理解を深めておこう。・等級制度とは
等級制度とは、社内における等級および各等級に求められる役割・能力を評価基準に位置付ける制度をいう。それぞれの等級は従業員のスキルや能力、役割、実績などの違いによって設定される。
【関連記事】「等級制度」の種類や企業事例とは? 人事労務管理への活用法も解説
・評価制度とは
評価制度とは、従業員それぞれの企業への貢献度を評価する制度だ。評価制度を再設計する際には、評価基準や評価項目の変更および改善を図り、従業員を公正に評価する仕組みづくりを進めていく必要がある。【関連記事】「評価制度」とは? コンピテンシー評価やMBOといった種類と目的、事例を解説
・報酬制度とは
報酬制度とは、社員の報酬額や算定基準などを定めた制度を指す。企業における報酬は2種類に分かれる。一つが、給与や賞与などの「金銭的報酬」。もう一つが、権限付与や機会の提供などによる「非金銭報酬」だ。人事制度改革の見直しが必要なタイミング
次に、どんなタイミングで人事制度改革を行えば良いのかを解説していこう。●組織方針を変更するとき
一般的に人事制度は、経営理念や事業目標などの組織方針を前提に作成される。そのため、組織方針が変更となった場合には人事制度改革を行うこととなる。もしも、人事制度に何も手を入れないでいると、組織と従業員との間で判断や重視する基準のズレが生じ、運営に支障を来たす可能性がある。●企業規模・従業員数が大幅に拡大したとき
企業規模や従業員数が拡大したときも人事制度を見直すタイミングとなる。社員が少ない時期には、人事担当者や管理者は多少手間が掛かってもそのまま運用してしまう業務があるものだ。しかし、従業員が増えてくると負担はどんどん大きくなり、運用や管理などの業務に停滞を招きかねない。気づかぬうちに、従業員に対する評価や教育などが疎かになりがちとなってしまう。●採用や人材育成が上手くいかないとき
人材の採用や育成が上手くいかないときも、人事制度改革を実施するようにしたい。既存の人事制度に何らかの問題が生じていて、採用や配置のミスマッチなどが起こりやすくなっているからだ。他にも、評価制度に不備があると従業員からは「頑張って働いても正当な評価が得られない」などという不満が生じやすい。●外部環境や市場の変化が大きいとき
外部環境や市場に著しい変化が生じたタイミングも人事制度改革を推奨したい。例えば、消費者や取引先のニーズが変わった。法改正があったなどだ。それだけに、外部環境の動きは常にウォッチし、変化に合わせて適切かつ迅速に対応するようにしたい。【関連記事】経営戦略と人材戦略を結ぶカギは“主張力”――現役CHRO3名が語る「進化する人事責任者の役割」
人事制度改革のメリット
次に、人事制度改革のメリットに着目したい。●公平性・透明性の向上
日本企業では今、年功序列から成果主義へと人事制度が移り変わりつつある。当然、評価体系も変えなければいけないので、人事制度改革は不可欠だ。成果主義の下では、能力や成果が重視されるだけに公平な評価を実現することができる。●業務効率・生産性向上
時代や社会のニーズにあった人事制度を構築すると、組織と従業員が目指すべき方向性を一致させることができる。まさに、組織の目標達成に向けて全員が一丸となって団結できるので、企業全体の生産性向上も高まる。●人材育成・確保
トレンドを取り入れた人事制度に変革することで、従業員の働きがいが高まれば、その評判は人材市場にも確実に広まる。結果的に人材確保がしやすくなるし、効果的な人材育成も実現することができる。社員のスキルアップは、確実に事業の成長を促進してくれるはずだ。人事制度改革のデメリット
人事制度改革はメリットばかりではない。デメリットもある。それらを整理しておこう。●導入コストと工数増加
人事制度改革を実施するとなると多くの工程が必要になる。当然ながら、それに要するコストや工数は多大だ。実際、どれぐらいになるのかを事前に見積もり、費用対効果を検証する必要がある。実施ありきで進めてしまうと、途中で断念という最悪のケースに陥ってしまう。それは避けるようにしたい。●従業員の不満・混乱のリスク
人間は変化を受け入れがたい生物と言われる。ましてや、人事制度改革を実施するとなると、社内に与えるインパクトはかなり大きい。「現状のままで良いのではないか」と考える従業員も意外と少なくなかったりする。それだけに、人事制度改革を行うのであれば、その目的やメリットを丁寧に周知・啓蒙し、従業員に理解を促す姿勢が欠かせない。●成果が見えにくい
人事制度は社内に定着するまでに時間を要する。なぜなら、成果が見えにくく実感が容易には得られないからだ。それだけに、導入を推進する人事としては、辛抱強さと緻密さが重要となる。説明を繰り返し、理解を得る。一つひとつのステップを丁寧に踏んでいくようにしたい。人事制度改革の進め方・手順
続いて、人事制度改革の進め方・手順を解説していこう。(1)経営理念・企業方針の再確認
人事戦略は経営戦略に準拠していなければならない。そのため、人事制度改革の方向性や内容も経営理念、企業方針と合致したものである必要がある。なので、自社のミッションやビジョン、バリューなどを再確認し、それに沿った人事制度を設計するようにしたい。(2)課題の定量・定性分析
人事制度を検討するにあたっては、自社の人事課題を分析しておきたい。現状分析には、定量分析と定性評価という2つの方法がある。定量分析のポイント
定量分析とは、数値などで定量的に測れるものを指す。人事の定量分析では、以下の3点に着目したい。・人件費:総額人件費や各種人件費指標に関して、近年の推移や同業他社・同規模の他社水準を確認する。
・個別賃金水準:月給や賞与、年収について、同業種・同規模企業との比較を行う。
・人員:総人員数や職種別(部門別)の人員数を年代別に把握する。
定性分析のポイント
定性分析とは、定量的には図れないものを指す。人事制度においては、現状での制度内容をリストアップし、それぞれを社員視点、経営者視点、人事総務部門視点で課題や改善の方向性を整理する。社員視点で社員満足度調査や社員インタビュー、経営者視点で社長や部門長などへのインタビューを行う。(3)改革方針の設計
現状における人事課題を洗い出した上で、改革に向けた基本方針を決めていく。解決すべき課題が多い場合には、優先順位を決めて取り組むようにしたい。(4)社内説明と意見収集
新制度を運用する前には、社員に対する丁寧な説明や意見の収集が欠かせない。制度を変更する背景や目的を知ってもらい、理解を得ておかなければ協力は期待できないからだ。このプロセスを怠ってしまうと、後々従業員の不満や不信が増大し、離職につながりかねない。(5)試行運用と改善
新制度をいきなり導入するのは避けるべきだ。まずは、一部の部署で試行運用(トライアル)を実施しよう。何か課題が挙がってきたら速やかに解決・改善するようにしたい。(6)全社導入と定着支援
試行運用で問題がなければ、全社に導入していこう。人事制度は一度作って終わりではないので、運用が始まってからは現場からの質問や不満に迅速かつ丁寧に対応するだけでなく、定期的に社員アンケートや1on1面談を実施し、制度に対する理解度や満足度、得られた効果を測定するようにしたい。それらは、定着支援にもつながる。社労士が解説【人事制度の作り方:1】「人事制度」とは? 設計に必要な考え方と、経営における重要性を考える
人事制度改革がうまくいかない課題と対策
人事制度改革を行ったものの、期待どおりの成果が得られないというケースは少なくない。背景には、KPI設計の不備や評価者スキルのばらつき、社員の理解不足など、複数の課題が潜んでいる。それらの課題と具体的な対策を解説していく。●KPI設計とモニタリング体制の構築
人事制度が有効かどうかを検証するには、効果を定量的に把握できるKPIの設定が欠かせない。KPI項目としては、離職率、社員満足度、評価結果の分布、昇格スピードなどが挙げられる。制度導入後は、これらの数値を定期的にモニタリングし、部門別や職層別での傾向を分析することで、課題を早期に特定できる体制を整えたい。特に、モニタリング結果を経営や人事が共有し、改善に活かすフィードバックループを確立することが重要だ。●定期レビューとPDCA運用による継続的改善
制度は導入して終わりではなく、運用しながら改善を重ねることが肝要だ。定期的にレビューを実施し、実態データや社員の声を踏まえて問題点を可視化する。改善策を立案し、トライアルを通じて検証するというPDCAサイクルを確実に回すことで、制度が現場に根付きやすくなる。特に、年1回の棚卸しに加え、期中のミニレビューを行うことで、柔軟かつ迅速な見直しが可能となる。●評価者スキルのばらつきへの対策
評価の公平性を確保するには、評価者ごとのスキル差を最小限に抑えることが前提となる。対策として、評価者研修を定期的に実施し、評価基準の理解や面談スキルの統一を図ることが有効だ。さらに、複数評価者によるクロスチェックや、人事部による二次評価を取り入れると、偏りを防止できる。評価シートの設問例や評価コメントの好事例を共有する仕組みを設けることで、全体の評価力の底上げにつながる。●社員への理解浸透と納得感を高める施策
制度変革の成否は、社員の理解と納得感に大きく左右される。説明会や社内ポータルで制度の目的や背景、評価基準の考え方を丁寧に共有し、双方向の意見交換を促すことが重要だ。直属上司が部下に対して制度の意義を説明できるように支援することが、浸透の近道となる。導入後もFAQや動画コンテンツなどを活用し、継続的に理解を深める仕組みを整えたい。●経営戦略と整合した制度運用への工夫
人事制度を単なる評価・報酬の仕組みとして設計するのではなく、企業の経営戦略と一体化させる視点が求められる。たとえば、成長領域への人材シフトを促す等級基準を設ける、重点事業に貢献した社員を報酬で正当に評価するなど、戦略達成を後押しする制度設計が必要だ。経営層と人事部門が定期的に連携し、方針の進捗を確認しながら運用を微調整することで、戦略的人事の実現が可能となる。【関連記事】人事が「等級制度」や「評価制度」などを設計する上で押さえておきたい3つの課題
人事制度改革が失敗する原因
すべての人事制度改革が成功しているわけではない。当然ながら、失敗してしまった事例も多い。主要な原因を理解した上で、導入に進もう。●評価項目が現実的でない
人事制度改革を実施するにあたっては、評価基準が現実的であることが重要となる。評価項目をあまりにも細かく設定し過ぎてしまうと、管理業務自体が煩雑になり、人事制度が機能しにくくなってしまうからだ。あくまでも、シンプルかつわかりやすく定めるようにしたい。●社員への周知・巻き込みが不十分
新たな人事施策を何の前触れもなく打ち出してしまい、現場から反発され、結局撤回せざるを得なかったなどといったケースを耳にすることがある。特に人事制度改革は、会社全体への影響力が大きいだけに、社員への周知や巻き込みが欠かせない。同意を得ながら、慎重に段取りを進めていくようにしたい。●管理者の負担が大きい
人事制度改革を機に労務管理制度や評価制度などを変えると、管理者の負担が一気に高まる。管理業務に手間がかかり、本来優先すべき業務に集中できなくなり、組織マネジメントが停滞してしまう可能性がある。制度設計を進めていく段階で、経営陣や管理職の意見も積極的にヒアリングするよう心掛けたい。まとめ
人事制度改革に踏み切るためには、現状の把握や分析が欠かせない。どんな課題があるのかを適切に洗い出す必要があるからだ。その際に、ともすると人事担当者は自らの経験や勘に基づいて判断しがちな傾向が見られる。主観に依存し誤った解釈をしてしまうケースもある。そうならないよう、社内に蓄積されている人事データを活用することを推奨したい。現状を客観的に把握できるようになるからだ。また、人事制度改革に伴い、今後評価基準がどう変わるのかは従業員にとって気になるポイントとなる。その基準を正しく理解してもらうことで、従業員のモチベーションは自ずと高まると思われる。この二点は、ぜひ念押ししておきたい。- 1
