近年、あらゆる業界でデジタル技術を活用した事業の変革、すなわちDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が叫ばれている。それは金融業界も例外ではない。従来のサービス提供手法からデジタルチャネルを活用した新たなビジネスモデルへのシフトが急務となっているが、試行錯誤が続いているというのが実状ではないだろうか。

IT人材不足による採用課題をはじめ、システムや技術を活用し新たな価値を創出するDX
人材の育成を阻むさまざまな障壁など、企業が抱える課題は山積みである。

そうした中、メガバンクである株式会社三井住友銀行ではDX推進を経営戦略の一つに位置付け、全社レベルでのDXマインドの浸透や専門人材の育成を図っている。対談ではどのような取り組みを進めているのか、今後に向けた課題は何か、求職者をいかに惹きつけるかなどを、同行システム統括部の御園 亮介氏と山田 恵梨子氏、企業のエンジニア採用やDXコンサルティングを支援する株式会社レインの芦川 由香氏の三者で語り合ってもらった。(以下敬称略)

【プロフィール】


  • 御園 亮介氏

    ■御園 亮介氏
    株式会社三井住友銀行
    システム統括部 上席部長代理

    2008年に株式会社三井住友銀行入行。法人営業業務に従事した後、IT業務推進部(現システム統括部)にて、大型システム案件のPO、PMOなどを経験。その後、従業員組合(専従)、システム投資予算管理業務(システム統括部)、グループ会社合併対応(三井住友カード出向)を経て、現職。現在は主にIT・デジタル人材の採用・育成を担当している。

  • 山田 恵梨子氏

    ■山田 恵梨子氏
    株式会社三井住友銀行
    システム統括部 部長代理

    2013年に株式会社三井住友銀行入行。リテール部門の営業業務に従事。その後、事務統括部、リテール部門の管理職業務を経て、公募制度を活用してシステム統括部に異動。現在は2025年4月より立ち上がったIT人材企画グループにて、IT・デジタル人材のキャリア採用や育成、タレントマネジメントなどの企画業務を担当している。

  • 芦川 由香氏

    ■芦川 由香氏
    株式会社レイン
    代表取締役

    エンジニアとして電力系SIerに新卒で入社。システム開発を経験後、リクルートエージェントへ転職。IT・製造業領域の採用コンサルタント・キャリアアドバイザーを担当。2014年にフリーの採用コンサルタントとして独立し、多くの企業の採用を支援。2019年に株式会社レイン(LeIN)を創業。エンジニア採用を得意としたHRコンサルティング・採用代行サービスを提供している。2024年はアルムナイに特化したクラウドシステムやコンサルティングを提供する株式会社ハッカズークと経営統合。

三井住友銀行御園氏・山田氏、レイン芦川氏

銀行としての価値創出を続けていくためにもDX推進に挑む

芦川 まずは、貴行がDX推進に積極的に取り組まれている背景をお聞かせください。

御園 私たちSMBCグループは従来よりDXに取り組んできましたが、全社的な取り組みに拡大、強化し始めたのは、前中期経営計画からです。全従業員がDXマインド・リテラシーを持って業務に取り組んでいかなければならないと舵を切りました。その背景には、世の中のデジタル化が加速しお客さまや社会がどんどん変わっていく中、銀行も変わらなければ価値創出ができなくなる、そんな経営陣の危機感がありました。
一方、現場の方々からすると急に「DXが大事だ」と言われてもなかなか自分事にはなりませんので、さまざまな研修やワークショップなどを草の根運動のような形で展開していきました。

芦川 DX推進に取り組まれる中で、人材面で苦労されている点はありますか。

御園 育成には機会や教えられる人が必要ですので、大きなプロジェクトで若手人材をいかに育成し、次世代につなげていくかが重要なテーマの1つとなります。実際、開発現場ではベテランと若手が一緒にプロジェクトチームを組むことで、育成とスキルトランスファーを進めています。
三井住友銀行御園氏
芦川 「2025年の崖」と言われる通り、IT人材の不足は深刻です。貴行ではどう受け止めていますか。

御園 システム開発人材の採用・育成は、グループ会社の日本総合研究所で行っています。特に採用に関して、今年度は新卒採用、キャリア採用を含めて500名の人材確保を目指すなど、かなり力を入れてくれているので、必要な打ち手はできていると思っています。

芦川 銀行ではレガシーなシステムが多く、それを刷新するとなった時にオープン化に必要な知識や経験を持った人材を大量に確保して開発を進めていくことがすごく難しい気がします。

御園 その通りだと思います。加えて、レガシーシステムの構築に携わってきた方々の高齢化にどう対応していくのかは急務だと思っています。

草の根運動を通じ、全社レベルでDXマインドを醸成

芦川 すべてのグループ会社及び事業部門でデジタル推進を徹底されている貴行ですが、その中でお二人が在籍されるシステム統括部が担われている役割をお伺いできますか。

御園 システム統括部では、情報システムに関連する様々な業務を担っておりますが、その中でも、限られたIT投資予算を最適に配分し、投資効果の最大化を実現するためのIT投資管理やまさにこれから強化していかなければならないIT人材に関する採用・育成を担当しています。

芦川 システム部門でIT人材と案件を管理することは賛成です。プロジェクトによって必要な人材は異なりますので、都度、適材適所に人材リソースを配置することでシステム計画をスムーズに進めることができますね。
レイン芦川氏
御園 ちなみに、芦川さんは日頃から多くの企業のIT・DX人材採用をご支援されていると思いますが、SMBCグループのDX推進における取り組みについて、どんな感想をお持ちになられましたか。

芦川 DXに関する現場への教育や育成にかなり早くから着手されている印象があります。しかも、それを草の根運動をしながら展開されている点はとても素晴らしいと思いました。泥臭い活動があるからこそ、現場から理解を得ることができます。それができずに形骸化してしまうDXも多くみてきました。メガバンクが故に、取り組みが他の金融機関にベンチマークされることもあると思いますので、成功させることへの責任が大きいのではないでしょうか。

御園 そうですね。これからの時代においては、社会的価値を創造していかなければ経済的価値、つまり利益の追求はできないと考えております。地方創生に向けても、地域の金融機関と一緒に走っていきたいという想いがあります。芦川さんからご覧になって、企業がDX推進に取り組む中での課題はどこにあるとお考えですか。

芦川 必要な人材を調達することが一番の課題かなと。人材調達するために、企業は採用以外にも取り組んでいく必要があります。最近、私がよく引用しているのがBBBという考え方です。「Buy」(人材の採用)、「Build」(人材の育成)、「Borrow」(外部人材の活用、または社内での異動)を指します。
「Buy」「Build」「Borrow」の図解
日本では、2030年に最大79万人ものIT人材が不足すると言われています。それだけ厳しくなると、Buy(人材の採用)だけではIT・DX人材を十分に確保できないので、社内でのBuild(人材育成)やBorrow(ベンダーなど外部人材の活用や、社内異動による人材獲得)が必要です。しかも、最近は生成AIも業務での活用が進んできています。AIと人との仕事の切り分けもまだ発展途上の段階です。

御園 当行の場合、研修やプロジェクト支援などを通じてSMBCイズムの浸透を図っています。ただ、IT人材は部署で囲い込まれてしまうため、キャリアパスが限定的になりがちです。こういった状況を打開するため、今期からIT人材のポートフォリオを構築し、運用していきたいと考えています。

協力:株式会社レイン


この後、下記のトピックが続きます。
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●採用にも育成にも欠かせない、人材像・ITスキルの定義
●IT人材を迎えたことで起きた社内の変化
●IT人材のミスマッチを防ぐために有効なアプローチ方法とは?
●新卒とキャリア採用では異なる採用ブランディング戦略
●IT人材の獲得競争が激化するなかで、人事に求められる役割

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