工作機械、産業用機器、家電製品などを扱う大手専門商社の株式会社山善では、「世界のものづくりと豊かなくらしをリードする」を2030年の企業ビジョンとして掲げています。そうした中、同社が特に力を入れているのが、「人づくりの経営」を再起動するための人財マネジメント改革です。キーとなる経営管理職の育成を中心に、「人づくりの経営」を推し進める数々の施策や仕組みづくりを行っています。

そこで今回は、同社 経営管理本部 人事部長の江縁隆氏と、同社にアセスメントやトレーニングを提供する株式会社リードクリエイトの三原淳氏、巽遥介氏が対談。取り組みに至る背景や人づくりに対する想い、目指していくビジョンなどをお伺いしました。(以下敬称略)

※本記事の内容は、取材時(2025年1月)の情報に基づいています。

【対談者プロフィール】


  • 江縁 隆氏

    ■江縁 隆氏
    株式会社山善
    経営管理本部 人事部長

    1993年に山善入社。管理本部 人事部 人事課からキャリアをスタートさせる。その後、財務経理部、内部監査部、国際管理部、安全保障貿易部での経験を経て、人事部長に就任。現在に至る。

  • 三原 淳氏

    ■三原 淳氏
    株式会社リードクリエイト
    西日本支社長 兼 シニアコンサルタント

    大手通信会社、教育会社を経て2019年よりリードクリエイトに参画。2021年に西日本支社長に就任。西日本支社のマネジメントに従事する傍ら、講師として日々のマネジメントを通じて得た生きた学びを企業の管理職層を中心に提供する。

  • 巽 遥介氏

    ■巽 遥介氏
    株式会社リードクリエイト
    ソリューション事業本部 西日本支社 プランナー

    大学卒業後、大手総合リゾート運営会社に入社。2021年よりリードクリエイトに参画し、コンサルティング営業としてキャリアを重ねる。これまで100社以上のクライアントとの対話を通じて、人事制度改定(等級、評価、昇進昇格など)、社員育成施策(経営人財育成、リーダー人財育成など)の企画・実行支援を行っている。

山善江縁氏、リードクリエイト三原氏、巽氏

「切拓く経営」ができる人財を育てなければならない

三原 御社は今、「人づくりの経営の再起動」をメインミッションに掲げておられますが、まずは“起動”ではなく“再起動”とした意図や理由からお聞かせいただけないでしょうか。

江縁 当社は戦後、創業者である山本猛夫が戦争から帰ってきて、裸一貫で立ち上げて、ここまで大きくした会社です。立ち上げ当初から、ずっと大事にしていたのが、いわゆる「切拓く経営」という考え方でした。山善はもともと機械工具商から始まり、現在は大きく5つの事業を展開し、さらに新たな事業も立ち上がろうとしていますが、何も持たない裸一貫のところから、ここまで会社を成長させるためには、変わり続ける社会や経済環境に合わせて、新しい価値を生み出し続けること、つまり、時代を切拓くことが不可欠だったのです。
山善江縁氏
ところが、ここ30年ほどは、新たなビジネス領域の拡大や深堀りが思うように進められずにいます。ではなぜ「切拓く経営」が実践できなくなってしまったのか。それは近年まで「人づくりの経営」が停滞していたからに他なりません。創業会長は、何より「人づくりの経営」に力を注ぎ、その結果、会社を成長させてきました。この素晴らしい文化を途絶えさせてはいけない。創業会長から直接薫陶を受けた社員がまだ残っている間に、生の言葉を次の代につなげていこう。もう一度「人づくりの経営」を起動させよう。“再起動”という言葉にはそんな想いが込められているのです。

三原 「切拓く経営」が実践できていたのは、同時に「人づくりの経営」も実践していたからだということですね。そもそもこの「人づくりの経営」とは、御社の中でどのように定義・言語化されているのでしょうか?

江縁 ひと言で言うと、「切拓く経営」ができる人財をつくること。これに尽きます。当社の経営理念は、「人づくりの経営」、「切拓く経営」、「信頼の経営」の3点ですが、この並び順にも意味があり、まず第一に重要であるのが「人づくりの経営」です。つまり「人づくりの経営」を実践するからこそ、当社の人財が世界中のお取引先様に喜んでいただけるような価値を切拓くことができ、それを継続することで、最終的には広く社会から信頼を得ることができるという、まさに価値創造ストーリーになっています。

では、「切拓く経営」ができる人財とは、具体的にどのような人を指すのか、ひと言で言うと、当社の“自業員”という言葉に結びつきます。当社では、従業員のことを自業員と呼称しています。一般に使われる従業員という言葉は、「生業に従う人」と書くため、会社からの指示に従う人、という意味合いで捉えることもできます。

しかし我々はそういう人財を必要とはしていません。自らも経営者であるという気概をもち、自ら生業を起こせる人こそ山善の求める人財であると考えています。山善が活躍する世界の各現場にはさまざまなニーズがあり、そのニーズに対して会社が逐一指示を出すことは不可能です。そうなると結局は、一人ひとりが各現場でニーズを見出して、お取引先様にどんな価値を提供すべきか、そのために何をすべきかを自分で考える必要があるのです。そうした自業員を育てていくこと。それが当社にとっての「人づくりの経営」だと考えております。

三原 この30年間、「切拓く経営」ができていなかったということは、裏を返せば、この30年間、自業員も思うように輩出できていなかったということかと思いますが、なぜそれほどの長い期間、人づくりが進まなかったのか、江縁さんが思う要因をお聞かせください。
リードクリエイト三原氏
江縁 会社全体が前向きな姿勢を忘れていたのだと思います。山善はここまで成長する過程でさまざまな失敗を経験してきましたが、いかなる逆境も、山本猛夫と、彼が率いた社員全員の熱意によって、その都度、乗り越えてきました。

しかし、この30年間は、「切拓く経営」を忘れてしまったのでしょう。そしてもう1つ、日本社会全体が高度成長期から安定成長期に入り、無理にトライしなくても、会社の将来に悲観することなく安定飛行ができたという時代背景もあったかと思います。

人起点のジョブポジションを生み出す

三原 おそらく以前の人づくりと現在の人づくりとでは、その中身や手法が変わっていると思うのですが、これからの人づくりの在り方についてどのようにお考えでしょうか?

江縁 おっしゃるとおりで、これからの人財には今まで以上に外に向かって勝負することが求められます。社内から社外へ、そして日本から世界へ。外に向かって力を使い、外の世界で活躍し、外の世界に認めてもらう。会社としても、当然そういった人財を育てていかなければならないでしょう。

ただし自律することが重要だとは言っても、当然ながら勝手なことばかりする人間が増えてしまっては困ります。山善の目指すべきところ、山善が大切にしているマインド、山善が貫いている流儀、こうしたものから外れない範囲で、自由に暴れ回っていただきたい。そのために会社や我々人事も、社員一人ひとりの可能性を狭めることなく、活躍できるフィールドをどんどん広げていきながら、組織の一体感を生み出すよう努めていく必要があると思っています。

 フィールドを広げ、個の自由な活躍を許していく一方で、それを山善という組織に還元してもらう。このバランスを保つのは簡単なことではないと思いますが、重要な要素は何だとお考えでしょうか?

江縁 重要なのは、「仕事を通じて自己実現できている」「自分は社会に貢献している」という実感を、山善で働いているからこそ得られると感じてもらうことだと思います。それがあれば、会社という枠組みの中でも自由に暴れ回ることはできると思います。では、そうした実感を得てもらうために会社として一体何をすべきなのか。その鍵となるのが、「人起点のジョブ型」です。一般的に言われる適所適材というのは、会社にとって必要な場所に人をあてがうということですから、そういう意味では会社起点の発想なんですね。

しかし当社では、それとはまったく異なる発想、“適財適職”を大事にしています。世界各国、日本全国で色々なニーズに応えるべく頑張っている自業員が、「こういう価値を提供すれば、お取引先様に喜んでいただける」、「そのためにこんなジョブポジションを作りませんか?」と会社に提案し、そこから新たなジョブポジションが生まれる。もちろん一時的につくるジョブもありますが、こうしてジョブポジションを流動化させることで、お取引先様に新たな価値を提供し続けることができると考えています。まさにこれこそが「人起点のジョブ型」であり、「人づくりの経営」の中に取り入れている重要な要素の一つなのです。

 そうした観点も踏まえて、現在御社では人事制度改定を進められておりますが、制度改定の方向性について教えてください。

江縁 最終的には“適財適職”に持っていくために、それを阻むものをすべて断ち切るつもりでおります。そこで最初に宣言したのが年功の廃止です。所属年数に基づいた右肩上がりの昇給、男性=総合職・基幹職、女性=一般職・業務職といった固定的な考え方、昇格・昇進・抜擢登用における年齢・勤続年数などの要素も全て撤廃しました。その他にも、“適財適職”に関係のないものは、すべてなくしていく方向です。

いかに社員の想いを拾い上げ、形にしてあげられるか

三原 「人づくりの経営」を推進していくうえで、経営管理職の求心力は欠かせないものだと思いますが、御社では経営管理職の役割をどのように考えておられるのでしょうか?

江縁 経営管理職はさまざまな経験を積んでいて、かつお取引先様との間のパイプも豊富に持っています。他方、現場でお取引先様と日々向き合っている自業員たちは、さまざまなニーズやアイデア、悩みをたくさん抱えています。経営管理職の役割はそれを一つ一つ拾い上げて、山善という土台の上で形にしてあげることだと思います。

三原 経営管理職のあるべき姿というのも時代とともに変わってきていますよね。

江縁 そうですね。従来の経営管理職は、文字どおり管理職でした。もともと当社はキャリア一本の会社でしたので、入社から経験を積み、優秀な成績を残してきた人間が管理職になる、というのが王道のパターンでした。ややもすると「俺の言うとおりにやれば売れる」「俺について来い!」という指示型になってしまいがちです。

しかしこれからは違います。変化が激しい中、スピード感が求められ、思いもよらぬところからリスクやチャンスが生まれる時代です。いわゆる前例というものが通用しなくなっていく中で、経営管理職はこれまでのように部下に対して経験で語るだけではなく、部下からのアイデアや想い・価値観に常に耳を傾け、ともに最適な取り組みを作り上げていかなければなりません。つまり従来の管理職から脱却すること。それがこれからの経営管理職に求められると思います。

 そうした経営管理職をいかに育成・選抜していくかが今後の課題になると思われますが、その仕組みづくりについてはどのような考えをお持ちでしょうか?
リードクリエイト巽氏
江縁 当社の等級制度では、早い人は30代前半にはH1級(係長クラス)に辿り着きます。ところがこのH1になるまでの成長は完全に現場任せで、会社としては放任していました。「現場の経験こそが成長の為に必要な唯一大切なものである」というのは決して間違ってはいませんが、H1になったある日、唐突に「明日から経営管理職だ」と言われ、いきなりアセスメントや役員面接などを通じて、経営管理職の資質を確認される。

それは社員の立場になったら、なかなか厳しいですよね。アセスメントにしても、昇格の試験としてだけに活用するのはもったいないと思います。本当は優秀な人間が経営管理職に求められる資質や能力を事前に身につけられる仕組みを構築し、それぞれに合ったポジションにアサインするための基準としてアセスメントを活用したいと考えています。また経営管理職になって初めて経営に触れるよりも、もっと前、H3くらいの時期に一度、経営に触れる経験や学びの機会を提供し、目線を上げてあげる必要もあると考えています。

 このたび全管理職を対象としたマネジメント力強化プログラムを実施されましたが、ここで会社として、人事として伝えたかったことは何だったのでしょうか?

江縁 2つあります。1つは、これまで申し上げたすべての話です。そしてもう1つは、求める役割が果たせないのであれば、そのポジションから退いてもらい、別のポジションで新しい役割を全うしていただきたいという会社の意思を伝えること。私は、経営管理職にとってのキャリア自律とは、稼ぎの自律ができることだと思っています。マネジメントを通じて山善の価値を高め、利益を還元させられる。それができないのなら、会社の中で違う貢献の仕方を見つけていただくしかない。今回は、それを伝えることも裏テーマとしてありました。

アセスメントを通じて経営管理職の資質を見極めたい

 今回の人事制度改革では、「マネジメント」「プロフェッショナル(専門職)」いずれかを選べる複線型人事制度も導入されました。そうした中、現状はスクリーニングを目的として弊社アセスメントをお使いいただいておりますが、マネジメントコースへの登用だけでなく、プロフェッショナルコースに進む方にも受けていただいているのは、どのような意図があるのでしょうか?

江縁 マネジメントコースを選んでも、プロフェッショナルコースを選んでも、その先に待っているのは経営管理職です。つまりマネジメントでもプロフェッショナルでも、自ら稼ぎを自律して時代を切拓いていかなければならない、という意味では一緒なんです。経営管理職としての資質の部分は共通ですので、その資質を見極めるために、マネジメントコースであろうとプロフェッショナルコースであろうと関係なく、アセスメントの受講を必須としています。

ただし、アセスメントに合格できなかった場合も、問題はないと思っています。リードクリエイトさんのアセスメントは、自身の課題に徹底的に向きあい、高い自己理解を基に気づきを促すプログラムです。要は、その気づきを踏まえ、成長した姿でもう一度再チャレンジすればいいだけの話ですから。
山善江縁氏2
 ここまでさまざまな育成施策を実施されて、成果も出されていますが、一方で「人づくりの経営」において課題感やボトルネックとなっていることがございましたら、お聞かせください。

江縁 課題はいくつもあるのですが、特に早急に取り組むべきなのは、若手人財育成の早期化、成長の可視化の2点でしょうか。まずは目線を上げる経験をもっと早いタイミングで付与する必要があります。そこでの学びや、気づきをもとに経験学習を高速で回していく。そうすることで成長のスピードも自ずと上がってくると考えます。

また可視化については、多くの若手が今の自分と将来のなりたい自分の間にギャップを感じていると思いますので、山善という成長フィールドの中で、どういう経験を、どのように積めばギャップが埋まるのかを、会社として提示することが大事だと考えています。

そして一人前に成長したら、次はアウトプットできる経験を付与すること。成長した社員はアウトプットを求めるので、活躍できる場所やポジションを時には新たに作り、“適財適職”へとつなげていかなければなりません。こうした一連のプロセスを構築することが、今後の課題だと考えています。

 アセスメントやトレーニングを通じて、弊社も微力ながら山善様の取り組みをご支援させていただいておりますが、弊社のこれまでの支援内容、活動内容についてご意見などがございましたら、お聞かせいただけないでしょうか。

江縁 これまで30年近く何もやってこなかったので、かなりの突貫工事でお願いしている点は申し訳なく感じているところです。そんな中でも、我々の考えをしっかりと理解していただいたうえで、すべての施策がバラバラにならないよう1本筋を通していただき、本当に助かっています。

また、創業会長の言葉や書籍に関心を寄せて積極的に情報を取り込もうとすることも印象的です。山善をDNAから理解しようとするコンサルティング会社さんは意外と少ないですから。そういうスタンスこそ、信頼できる点ですね。あとは我々自身が、提供いただいたものをいかに効果的に運用に乗せられるか、というところが問われるでしょう。
山善江縁氏、リードクリエイト三原氏、巽氏2
三原 では最後に、「2030年ビジョン」に向けた今後のアクションと、その中で弊社に期待する点などがございましたら、お聞かせください。

江縁 新しいジョブポジションを提案できる自業員を育てること。さらに人起点のジョブポジションを増やしていくこと。それが最も重要な命題です。そしてそこからビジネスの種を一つ一つ拾い上げ、新しい領域を切拓く組織になっていきたいと考えております。ファーストステップとして、制度的な基盤を整えることはできました。ここからはそれを使いこなし、運用に乗せていく、セカンドステップに踏み出すことになります。

生産年齢人口が減少し、もはや日本は数の力では世界に太刀打ちできません。そうした中、日本の企業が海外の企業に伍するためには、多様な価値やアイデンティティを持った会社を1社でも多く増やしていくしかないでしょう。そういう意味でも、クライアントのアイデンティティを大事にし、その会社に合ったソリューションを提供する御社のスタンスは、素晴らしいと感じます。その点は今後も絶対に崩してほしくないですね。

加えて御社には、先ほども申し上げた人づくりにおけるスピード化・早期化と、さらにそれを実践していただくことも期待しております。「人づくりの経営の再起動」に向け、今後もさまざまな施策に取り組んでいく予定ですので、リードクリエイトさんには総合アドバイザーのような形で引き続きご協力いただければ幸いです。

三原 これからも御社のことを学び、御社にあった人財育成、人起点のジョブポジションの創出に貢献できたらと思っております。本日はありがとうございました。

協力:株式会社リードクリエイト
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