多くのビジネススキルは、「教育研修」と「実務経験」との相乗効果によって習熟度が向上する。ところが、文章を書く能力=「ライティングスキル」については、専門的な教育が行われるケースが少ないため、実務との相乗効果によるスキルアップが生じにくい。その結果、若手ビジネスパーソンの“書く力”は、劣化傾向にあると言われる。そこで今回は、若年社員にライティングスキルを教育する手法を考えてみよう。
現代の若年社員に足りない「ライティングスキル」を身に付けるための指導メソッド(第3回)

あらゆる職務の基礎となる“書く能力”=「ライティングスキル」

業種・業態の違いにかかわらず、必要なビジネススキルは複数あるが、その中でも特に重要な基礎的スキルが、文章を書く能力=「ライティングスキル」である。

とはいえ、ビジネスの場で必要なライティングスキルとは、学術論文のような高尚な文章を書ける能力ではない。必要なのは、「簡潔で分かりやすく、誤解の余地がない文章」を書く能力だ。ところが、この習得が思いのほか難しい。最低でも次の10要件をクリアしなければならないためである。

【簡潔で分かりやすく、誤解の余地がない文章の10要件】
1.主語と述語が正しく対応している
2.正しい助詞(てにをは)を使用している
3.修飾語と被修飾語との関係が明確である
4.文章同士のつながりに不自然さがない
5.文章同士の因果関係に合致した接続詞を使用している
6.不必要な表現を使用することにより、文章が冗長になっていない
7.文章が長過ぎない
8.使用する用語・表現が不適切なために、文意が不明確になっていない
9.書き言葉にふさわしい用語・表現を選択している
10.記述内容に矛盾がない


上記条件を充足する文章を書けるようになるには、訓練が必要である。そして最も効果的な訓練方法は、「ライティングスキルの高い人材が、記述した文章の添削指導を行うこと」だ。

“ライティングを指導できるリーダー”は非常に少ない

ひと昔前であれば、上席者による徹底した文章指導が日常業務の中で行われていた。例えば、部下の作成した書類に上司が赤字で訂正を入れ、好ましい文章に変わるまで何度でも容赦なく書き直させる、というOJTが行われたものである。若年社員にとって、こうしたOJTは、自身の記述した文章が原形をとどめないほどに真っ赤に訂正され、大きな試練の場となる。しかし、このような厳しいトレーニングを経た若年社員は、ビジネスパーソンとしてどこに出しても恥ずかしくない文章を書けるようになったものだ。

しかしながら、このような厳しい社員教育は、時代の流れとともに行われなくなっている。現在でもこのような訓練が行われているのは、文章作成が顧客提供価値の生命線となる一部の企業ぐらいであろう。

そのため、現在の多くの企業では厳しいライティング教育を経験していない人材が役員に就任し、また管理監督職に就いている状態にある。その結果、リーダーのライティングスキルが部下を指導できるレベルに達していないケースが少なくない。

「書籍購読」で好ましい文章に数多く接することができる

以上の状況を踏まえ、若年社員のライティングスキルを向上させるには、当該社員に「好ましい文章との接点を増やす」、「書き上げた文章を精査する」という2つの課題を与えることが有効であろう。

このうち、「好ましい文章との接点を増やす」という課題に取り組ませるには、継続的に書籍を購読させるとよい。一般的な書籍は出版社によって選別された執筆者が書いており、さらに執筆された原稿は編集者による確認・修正が施されているため、一定レベル以上の文章で記述されているケースが多いためである。購読する書籍はビジネス書の中から選択すれば、ライティングスキルの向上に有用なものが多いはずだ。書籍名や著者名、あるいは書籍のジャンルなどを指定し、期限を設けて購読を繰り返させ、若年社員が書籍購読を習慣化できるようにするとよい。

なお、インターネット上の情報を閲覧することによって文章との接点を増やす行為には、注意が必要だ。インターネットではライティングのレベルにかかわらず誰もが情報を発信できることから、ビジネスパーソンが見習うべきでない文章が氾濫しているためである。

「推敲作業」でライティングスキルは伸びる

次に「書き上げた文章を精査する」という課題に取り組ませるには、若年社員に報告書の作成などを命じた際、文章の推敲作業を重点的に行わせるのがよい。書き上げた直後の文章には“粗(あら)”が多い。例えば、完成したと思った文章の中にも、主語と述語とが対応していない箇所などが少なからず残っているものだ。推敲作業とは、書き上げた文章の中からこのような修正点を抽出して改善し、好ましい文章に練り上げていく作業である。

従って、書き上げた文章が、前述の『簡潔で分かりやすく、誤解の余地がない文章の10要件』の各項目を満たすかについて精査し、修正を施す推敲作業を徹底的に行うことが重要になる。書いた文章を何度も何度も読み返し、推敲作業を十分に実施した上で、「もう修正点はない」と判断できてから提出することをルール化するのである。この作業は、より精緻に行うほどライティングスキルが向上する。

以上のような「好ましい文章との接点を増やす」、「書き上げた文章を精査する」という課題を与えたとしても、若年社員のライティングスキルが短期間で飛躍的に向上することはない。従って、根気よく継続的に取り組ませることが肝要である。ライティングの専門的な指導が困難であれば、本稿で紹介した方法を試してみてはいかがだろうか。
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